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41 七色の追跡者たち

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 ーー時間は少し遡り。


 東岸地方。

 『麦の国』と呼ばれるその小さな国は少しざわついていた。

 

 国の庁舎前には7人の男女がやって来ている。上等な装備に身を包んだ彼らを見て、


「あれが『七色の風』か。東岸最強の冒険者パーティの姿を見れるとは」「うーむ。噂通り只者じゃないって雰囲気だな。隙がない」「あのリーダーっぽい人素敵だわ」「あんな可憐なお嬢さんが魔物や荒くれ者を倒しちまうだってよ。すげぇな」「なんか『石畳の国』から来そうよ?」「こんな小さな国に何の用事かしらね?」


 国民たちは興味津々といった様子で騒いでいる。

 

 そんな国民たちの注目など気にせず、7人は慌てて駆けつけた職員に案内され庁舎内へと入っていった。


「ようこそ『麦の国』へ。噂に名高い『七色の風』の皆様がいらっしゃるとは名誉なことです」


 庁舎内の応接室へと案内された彼らを迎えたのはハゲ頭の男だ。

 ハゲ男に向かい合って座るのは3人の男女。

 端正な顔立ちをしたリーダーの青年。金髪の美女。そしてがっしりとした体格の大男。

 若手らしき4人はソファがないため立ったまま話に加わっている。


「4人とも、無理せず別室で休んでくれていいんだよ?」


 リーダーが声をかけるが、


「いえ、僕らも話を聞きたいです」「後で話を聞くなんて御三方の手間が増えるだけですし」


 と立ちっぱなしに不満は無いようだった。


「ええっと、それで皆様はどういったご用件でしょうか? 『石畳の国』へは例の少年に関する情報を伝えたはずですが」


 ハゲ男がやや緊張した様子で切り出した。年齢的にも立場的にもハゲ男の方が上であるはずだが、目の前に座るリーダーの青年が放つ空気に思わずハゲ男は心拍数が上がってしまうのだった。


「はい。昨日『石畳の国』の厳戒態勢が解かれまして、ようやく訪れることができました。仰る通り王様を通じて少年に関する情報を得ています。ただ、もう少し具体的に聞きたいことがあったので直接訪問したのです。

 ところで聞いた話ではこの国のトップは女性の方だと耳にしましたが、今はあなたがトップなのですか?」


 リーダーの問いかけに、


「ええ、そうですよ。実は今日から臨時で首長を勤めることになってましてね。皆様方を歓迎するのが初仕事です。あはは」

 

 ハゲ男は愛想笑いを浮かべながら答えた。


「臨時ということは何かあったのですか?」


「実は前首長が退任に追い込まれましてね。その原因にあなた方がお探しの少年が関わっているのですよ」


 ハゲ男ーー臨時首長は特産品の香木と妖精騒動について『七色の風』に説明を始めるのだった。


「なるほど。そのナイトくんが妖精を退治し国を去った後で、泉が止まったことに皆さんが気づいたと」


 カップをテーブルに置きながらリーダーが言葉を発した。


「そうなんですよ。我が国の特産品である香木はあの『魔法の泉』があってこその品質なのです。極めて稀な条件が重なったことで入手できる貴重な香木。それが少年の妖精退治を境に水が出なくなって枯れてしまったのです。林業関係者を中心に大騒ぎになりましたよ。その影響で妖精退治を依頼した前首長は退任に追い込まれました」


「なるほど。ちなみにその妖精というのはどうなったのです? 滅されたのですか?」


「それがですね。その少年が生きたまま引き取ったそうです。魔法薬の材料にするとか言ってね」


「引き取った? それほど強力な妖精を彼は手懐けていたと?」


「そう聞いていますよ。『それなら俺が妖精を飼いたかった』と嘆いた国民が結構いたそうですな」


 リーダーが指で額を抑え思案顔だ。


「そのナイトくんですが他に仲間はいませんでしたか? 『石畳の国』に届いた報告書には彼の所在くらいしか書かれていなかったので、その辺のことを知りたいのですが」


「あぁ、そう言えば可愛らしいお嬢さんを連れていたそうですよ。常にフードを被っていたので顔はあまり見えなかったそうですが、職員の1人が『随分と可愛い子だった』とはしゃいでいましたな。ん? どうされました皆さん? ……人前でフードを取ったか? いや、私の知る限り滞在中はずっと被っていたそうですよ? …………えっ、ど、どうしたんです皆さん? お顔が怖いですよ?」




 

 その日の夕方頃。

 『麦の国』を出国し『七色の風』は森を進んでいた。

 

 彼ら7人が乗っているのは馬に引かれた大きな荷車だ。

 もっとも馬は本物ではなく、白く輝く魔法の馬だった。


 馬にはメガネの男が跨り、巧みに操作している。猛スピードで掛ける馬と荷車だが、不思議なことに荷車に座る他のメンバーは揺れなどまるで感じていない様子。荷車に座るローブを着た魔法使いの力らしく、彼女の手元には不思議な光の玉が浮かんでいた。


 そんな荷車には大量の食料が積まれている。その中には香しい匂いを漂わせる木材も置かれていた。

 

「さすがはホアンとマリンよね。あんたたちの魔法で『魔法の泉』は復活。『麦の国』の国民からは感謝されて報酬まで貰っちゃうんだもの」


 金髪の女に褒められ馬に跨るメガネ男とローブの娘は照れたように頭を掻いた。

 

「この香木も良い匂いね。さすがは特産品。ほら、マリンあんたも嗅いでみなさいよ」


「ちょ、ララさん。そんなに押し付けないでくださいよ。あはは」


 じゃれる女性2人の姿に大男は微笑みつつも、隣に座るリーダーの青年へと視線を向けた。


「ロード。確定だ。そのナイトって奴は狼人間と一緒にいる」


 大男の言葉に青年は静かに頷いた。


「あぁ、間違いないね。昼間案内された妖精退治の現場に残っていた爆心地。あんな破壊力を持つ存在なんてそうそういないからね。あの狼人間の強化魔法による攻撃とみて間違いない」


 はしゃいでいた女性陣もリーダーの言葉を受け、静粛になった。


「でも信じられないわ。妖精と狼人間が戦ったってことはそのナイトって奴、狼人間を使役しているってことよ」


 金髪女がリーダーへと詰め寄った。

 リーダーは女の言葉には答えずに馬に跨る眼鏡男へと問いかけた。


「ホアン。仮にあの狼人間が無抵抗な状態だとしたら、君はあいつを使役できるかい?」


「いやぁ、無理ですね。あの狼人間は魔力が強すぎます。マリンさんに協力してもらっても1分もコントロールできないですよ。普通の服従魔法であいつを支配しようとするなら僕が1000人必要ですね」


 眼鏡男の言葉にフードの娘も続いた。


「それに、もし妖精まで使役しているなら前代未聞。服従魔法は魔物を支配するのに相当な魔力を消費する上に、脳も酷使するから。例えるなら手足が2本ずつ増えたような感じ。1匹支配するだけでも頭がパンクしちゃう。2匹以上を使役するなんて、無理」


「でも現実としてナイトって奴は狼人間を使役している。ひょっとしたら妖精も。ロード、そのナイトって野郎だが想像以上に厄介な奴なんじゃないか?」


 大男が深刻な表情を見せた時だった。

 

 7人を乗せた荷車は森を抜けていた。進む先には煌々と輝く人工の灯火が見える。


「『竜のわだち』へ続く街道だね。今夜はあそこで寝泊まることにしよう」


 リーダーの言葉に全員が頷いた。





 街道は『七色の風』の登場に湧いていた。

 道ゆく彼らへ商店から店員が声をかける。


「どうか当店の料理を味わってください」「ぜひともうちの装備を買っていってください」「お疲れでしょう。こっちにとても素敵な旅館がありますわよ」


 商魂逞しい彼らへと笑顔を見せながら『七色の風』は中級クラスの宿を選んだのだった。


 食堂にて彼らが食事をしていると、周囲にいた冒険者たちが興味津々といった感じで覗いてくるのだが、


「何か用か?」


 大男に声をかけられると途端に逃げるように食堂から去っていく。


「ベルデさん。もう少し笑顔を見せなきゃダメですよ」


 白い祭服を纏った美女に指摘され、


「……結構愛想よくしたつもりなんだけどなぁ」


 大男は首を傾げる。その様子を見て他のメンバーは思わず笑顔になってしまった。


「ベルデの旦那は風格がありすぎるんだよ。ロードを見習った方がいい」


 そう言うのは緑の服に弓を担いだ男だ。


「バカ言え。俺みたく外見から中身が判断できる奴の方が良いだろう。優しそうな外見のくせして魔物以上に強いとか、ロードの方がよっぽどたち悪いぞ」


「おいおい、俺を巻き込まないでくれよ」


 大男の切り返しにリーダーは半笑いだ。他のメンバーはと言うと、


「「「確かに!」」」


 大男の意見に納得したようだった。


 食事が運ばれ和やかな夕食の時が流れる。

 他のメンバーが楽しそうに話す横で、リーダーと金髪女は明日以降の行動について話し合いをしていた。

 聞き込み捜査に向けてメンバーの割り振りを考えているリーダーの手がぴくりと止まる。

 怪訝そうな表情をみせる金髪女を無視し、リーダーの耳は彼らから離れた別のグループの声を拾っていた。


『ナイトくんは今頃どこにいるのかな?』


 会話をしているのは商人の一団だった。4人家族らしく両親と2人の娘がテーブルに座っている。


『大丈夫。私たちの恩人はきっと元気にしているわよ』『いや、今思うと彼は異様に大山脈を超えるルートに関心をもっていたな』『ねぇ、まさかあの盗賊団に会いに行ったんじゃ』


 不安そうに呟くのは2人の娘たちだ。

 リーダーは立ち上がると素早く商人たちの元へと移動し、


「すまないけど、今の話をもうちょっと詳しく聞かせてもらえないかな?」


 驚く商人たちへと次々と質問をぶつけ始めるのだった。


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