40 魔女の魔石
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女は目立つ格好をしていた。
胸の谷間を強調する下着同然の大胆な上着。へそを出し、太ももを見せつけるように露出させた下半身。
赤いベールをマントの様に纏ったその姿はとても旅人とは思えない。
祝宴の場で見かけるダンサーと勘違いしそうなほど扇情的な格好だ。
女に詰め寄られる騎士もその大胆すぎる格好に冷静ではいられない様子で、顔を赤らめ女から視線を逸らしつつ、
「し、しかし! 現在この塔は封鎖されているゆえ、通すわけにはいかない!」
必死に女へと事情を伝えていた。
「もう〜真面目な人ね〜。じゃあ、あの王子様に確認取ってよ! この塔は私の物なんだから!」
手に持っていた杖で塔を指しながら、女が騎士へと密着する。
女の言葉に俺は興味を持った。馬車から降りた俺はまっすぐに女と騎士のいる場所へと歩いて行く。
「あっ! 魔法使い殿! 申し訳ない。ちょっと今は取り込み中ですので」
騎士が俺に気づきそう告げるが、
「んんー? 何この男の子?」
女の方が俺へとにじり寄った。
近くでみると女がかなりの美人であることが分かる。
美しい褐色の肌に銀髪。
ぷりっとした唇と綺麗に整えられ目元。
そして男ならばどうしても目がいってしまう豊かな胸。
ブランカとは違う『大人の女性』として完成された色気が暴力的に溢れている。
ただ、そうした色気以上に俺はこの女から奇妙な圧迫感を感じていた。
美貌も色気も霞んでしまう様な、一緒にいて息が詰まりそうになるこの感覚。
ーー最近、似た様な感覚を覚えた気がする。どこでだ?
疑念が心に生じたが、それ以上に女と謎の塔への興味が勝り俺は女へと語りかける。
「王子様なら先日の革命によって身柄を拘束されていますよ。お姉さん、あの王子の知り合いなんすか?」
「ええええっ! 革命が起こったの! 嘘ぉ」」
女は頭を抱えると、
「なーんか騎士の顔ぶれが違うと思ったらそういう事情だったわけね。はぁ〜面倒ね〜」
心底面倒くさそうに大きくため息をつくのだった。
「ん? ボウヤって騎士と知り合いなの?」
「いや。知り合いというよりは……」
女の問いに俺がどう答えようか思案していると、
「こちらの魔法使い殿は今回の革命に助力してくれた英雄であります! 王子と対決し、勝利した方です!」
と若い騎士が何故か誇らしげに解説してくれた。
一応俺が会釈すると、騎士は親指を立ててキメ顔をしてみせる。変な人だ。
「ふーん。じゃあボウヤは関係者ってことね。ねぇねぇ、この騎士さん説得してくれなぁい?」
そう言って女は俺へと抱きついて来た。
むせ返りそうな香水と女性特有の香りに頭がくらくらしそうになる。
押し付けられる素晴らしい弾力も合間って、俺は思考がぐらぐらしてきた。
「ちょっと! なにするのよ!」
抗議の声をあげたのはブランカだった。
自慢のパワーで俺と女を引き離すと、俺の腕を掴みながら女へと唸り始めた。
「ん? お友達かしら? 何するのって単にそっちのボウヤにお願いしていただけよ?」
引き離された女は怒る様子もなく、むしろ楽しげにブランカへと言葉をかけた。
「うー。だ、だったら言葉だけでいいでしょ! 人前で抱きつくとか……そんな……」
「あらあら、交渉手段は言葉だけじゃないのよお嬢ちゃん? 暴力だって、財力だって立派な交渉手段じゃない。もちろん女の武器だってそうよ」
そういって女は両手を頭の後ろで組むと、
「というわけでどうかしら、ボウヤ? もし塔に入れてくれるならもう少しサービスするけど?」
胸を強調させるボージングのまま、俺へと問いかけてくるのだった。
「もうぅ、外壁が壊れちゃってるじゃない!」
謎の塔ーーその内部の螺旋階段を昇りながら、先頭を歩く女が喚いた。
女の後ろには俺とブランカ、そしてドリアが付いて来ている。
「しょうがないわね。とりあえず上に行こうかしら」
女は不満げではあったが、階段をずんずん昇って行く。
「うー。なんか嫌な奴」
俺の後ろを歩くブランカが不機嫌そうにそう呟いた。
「おいおい、ブランカ機嫌直せって」
「ふん。色気にほだされた情けないご主人様の言うことなんて聞きたくないもんねー」
舌を出し、ブランカは機嫌悪く俺を睨むばかりだ。
最上階の部屋に辿り着くと、
「かぁ〜まだ派手に散らかしてくれたわね。この床の焦げ跡は……爆破魔法か。んー? ちょっとぉ、雷魔法まで使った痕跡あるじゃない!」
部屋の荒れ様に女が頭を抱えている。
「さぁ、最上階の部屋まで着きましたよ。んじゃあ、早速サービスをお願いしますよ」
俺は女の側まで近づいた。
地上で交渉された時は抱きつかれたのだから、期待するのはそれ以上の行為だ。
「ちゃんと騎士の人を説得したんすからそれなりのサービスでお願いしますよ」
「あぁ、そうだったわね。うんうん。ボウヤはちゃんと働いてくれたしご褒美はあげないとね」
俺の言葉に女も笑顔を見せる。
迫る女に俺は胸を高鳴らせた。
俺の背後からは、
「なぁ、わんわん。ナイトは何をあのメスに求めてるんだろう?」
「知らないわ。どうせ下品なことよ。いい、ドリア? オスっていうのは本当にどうしようもない生き物だからね。あんたも気をつけなさい。覚えておくのよ」
「むぅ。分かった。でもナイトが言うことを聞くのならあたいもあのポーズ真似てみようかな? こうやって胸を突き出せば良いんだな?」
「やめなさい」
と魔物2人の仲睦まじい会話が広げられていた。
女は下着同然の上着の中へと自らの指を差し入れた。
ごそごそと中を弄り回す様はかなり蠱惑的。
やがて、抜き出された女の指にはきらりと光る小さな石が摘まれている。
「はぁい。これがご褒美よ」
俺の手へと小石を握らせ女がそう説明した。
「…………えっ。これがご褒美?」
「そうよ」
「……もっとこう、なんと言うか体で楽しませてくれる的な奴だと」
「あら? そんなことするなんて私言ってないけど?」
「いやいや、あんなポーズして『もっとサービス』なんて言われたら期待するに決まっ」
「言ってないけど?」
「ちくしょうぉぉぉ!」
俺は床を両手で叩いた。
なんてこった。期待させておいてこの顛末。悪魔だ、この女。
「そんな怖い顔で睨まないでよ。君が勝手に期待して、誤解しただけじゃない。どうしてもボウヤが期待していたことがしたいのなら、そこのフード被った女の子に頼んでみたら?」
言われて後ろを振り返る俺だったが、
「ばーか」
とブランカから軽蔑の視線を受けるだけだった。
「コホン。そろそろ真面目に話をしますね」
天蓋付きベッドへ寝転がる女へと俺は呼びかけた。
ちなみに俺はブランカによって床へと正座させられた状態。
その様子を見て女はくすくすと笑っている。
「今渡してくれたこの小石ですけど、魔石ですよね? しかもサイズの割にかなり純度が高い。こういう魔石を俺は最近見たことがあるんですよ。甲冑を人形にするための魔石です。あれとよく似ている」
足が痺れて来たが俺は構わず言葉を続けた。
「それにさっきお姉さん、『爆破魔法』とか『雷魔法』って言ってましたよね? 一昨日この場所で王子と俺たちで戦闘がありました。確かに王子は『爆破魔法』も『雷魔法』も使っていた。でもお姉さんにはそんな話をしていない。にも関わらず言い当てたのは、お姉さんも魔法使いだから、ですよね?」
「ふふっ、その通りよ。まぁ、正確には魔法使いではなく魔法陣使いだけどね」
寝転がったまま女が答える。
「王子と知り合いみたいですけど、ひょっとして王子に魔法陣を渡したのはお姉さんですか?」
「ちょっと魔法陣を見せてやったら『俺も使いたい』とか言い出したからね。魔法陣1枚につき金貨1枚で売ってあげたのよ。おかげでいい小遣い稼ぎになったわ。直接戦った君たちなら分かるだろうけど、なかなか厄介だったんじゃない? あちこちに移動もされるし、高火力の攻撃と強力な障壁や結界も王子は繰り出して来ただろうし」
「ええ。一筋縄では行かなかったですよ」
「でも最終的には王子を倒したのね。お姉さん、ちょっとビックリよ。だってボウヤは魔力が低そうだし、後ろのお嬢ちゃんたちが戦えるようには見えないもの。どうやって勝ったのかしら。興味深いわ」
体を起こし、ベッドから降りた女はその双眸で俺たちを眺める。
その視線が与える圧迫感に再び俺は既視感を覚える。
ーーどこだ? どこで俺はこれに似た視線を受けたんだ?
頭が疑問に染まる俺へと女は続けた。
「質問されるだろうから先に答えてあげるわ。王子ーーあぁ、もう元王子か。あいつに魔石を売っていたのも私よ。王家が所有していた大量の魔石が見つかっているだろうけど、そのほとんどは私が売ったものよ。格安でね。私は魔法陣使いであり、魔石商人なの。この国の王子はお得様の1人ってわけ」
「なるほど。でも高純度の魔石を帰るほどこの国の王家は豊かではないと聞きましたが?」
「あぁ、そこは交渉よ。あの王子とはこの塔をタダで貰う代わりに魔石を格安で譲るという約束を交わしていたの。私としてはこの国は便利だからね」
「便利? いったいこの塔は何なんです?」
俺の問いに女は答えなかった。
「さぁ、そろそろ退席願うわ。長旅で疲れちゃってね。お風呂に入ってすぐ寝たいのよ。革命ってことは新政権とも交渉しないといけないし。ふぅ〜面倒だわ。というわけで、はい!」
女が床を杖で突くと同時に、俺たち3人の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「また会いましょう。じゃあね」
気がつくと俺たちは塔の外へと移動していた。
「空間移動魔法か。いつのまに仕掛けてやがったんだ」
俺が小さく独り言ちる。
とりあえず宿へ帰ることにした俺たちは再び馬車へと乗り込み帰路についた。
「ねぇナイト。あの女なんだけどさ。誰かと似た空気がしなかった?」
横に座るブランカが問いかけてくる。その瞬間に俺は思い出していた。
女が放つ圧迫感に対する既視感。その原因である体験を。
「そうだな。あの姉ちゃん、『七色の風』のリーダーに似た雰囲気があったよな」




