39 風車の役目と謎の塔
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新国王と別れた俺たちは国の中を探索することにした。
ブランカとドリアには人間に変装してもらっている。
2人のことを魔物と新国王に打ち明けてはいるが、そのことを理解しているのは革命の現場に居合わせた人くらい。
加えて、革命成功の祝宴に沸いた国民の間ではお酒の席における単なる与太話のように話がなされたらしい。
よってほとんどの国民は2人のことを魔法使いと認識しているのが現状だ。
「魔物と騒がれるよりはいい状況だよ。昨日まではお祭り騒ぎに巻き込まれてたからな。今日はのんびり国を見て回ろう」
朝の市場を通り抜ける俺たちだったが、
「おお、英雄さんだ!」「お兄ちゃん、新鮮なりんごがあるんだ。食ってけよ!」「可愛らしいお姉さん。昨日は宴にきてくれてありがとうね。あぁ、何度見てもすべすべな肌ね。羨ましぃわ」「よぉ、お嬢ちゃん! 広場に生やしてくれたあの巨木だけど、革命の記念樹として保存することになったんだ!」
四方八方から声をかけられ、その度に手を振り返ることになってしまった。
「初めはいい気分だったけど、だんだん疲れてくるな」
「うー。私も愛想振りまくのがきつくなってきた」
「だらしがないなぁ。あたいなんて歌って踊ってやってもいいくらいなのに」
そんなこんなで疲れながらも俺たち3人は国を見て回った。
崩れた騎士団拠点や、破壊された前王政時代の主要施設。
それに対してほとんど被害のない一般国民の生活施設。
街ゆく人々の表情も笑顔に溢れとても平和そのものだ。
俺たち3人は路肩に止まっていた馬車を見つけると、
「ナイト! あたいあれに乗りたい!」
というドリアに促され、利用してみることになった。
ちなみに馬車を引っ張るのは馬の人形だ。
馬車の中には、『利用料金1時間につき金貨1枚。この馬車は王国より支給されている。国民は国王と王子に感謝しながら利用せよ』という案内文の貼られた集金箱が置かれている。
ただ、その文章は赤いインクで二重線が引かれて消されていた。その上には小さなメモが貼られていて、『利用の際は銅貨1枚をお入れください。集金したお金は馬車と馬人形の管理に利用されます。次の人が気持ちよく利用できるようにゴミは持ち帰りましょう』という案内が書かれていた。
銅貨を集金箱に入れると、馬人形がヒヒーンと嘶きゆっくりと歩き始めた。
馬車の前方には30センチほどの人形が一体設置されている。御者役らしい。
「ドチラヘ、ムカワレマスカ?」
人形が問いかけてくる。
「すっげー! 人形が喋ったぞ!」
はしゃぐドリアを抑えながら、
「じゃあ、この国の観光名所に連れてってくれ」
俺は人形へと命じてみた。
10分ほどして馬車が到着したのは風車の前だった。
国のあちこちに設置された巨大風車。その内の1つだ。
「うー。近くでみると結構迫力あるわね」
ブランカがぼそりと呟くが、俺もその言葉には同意だ。
案内された風車の塔はおおよそ20メートルほどの高さがある。
そして風に乗って回る羽の部分はなんと塔とほぼ同じくらいの大きさがあるのだ。
ゆえに地面すれすれを羽が回るというハラハラするような光景が目の前に広がっている。
「おや? 革命の英雄さんじゃないか」
俺たちへと声をかけてきたのは風車の塔から出てきたおじさんだった。
「こんにちは。馬車に案内されて来たんですよ。すごい迫力っすね。俺、こんなにデカイ風車初めてみました」
「そうだろそうだろ。伊達に『風車の国』なんて名乗っていないさ」
おじさんは嬉しそうに胸を張ってみる。話を聞いてみると風車の管理者だそうだ。
「ねぇねぇ、おじちゃん! このでっかいグルグルは何しているんだ?」
ドリアからの質問に、なんでだと思うと逆に管理者は問いかけてきた。
「うーん。分かんない。わんわんはどう思う?」
「私に聞かないでよ。うーん……えっと…………風とお友達になりたいから?」
無茶振りをされたブランカが答えてみせる。意外にもメルヘンチックな回答をするブランカに、
「あははは! 可愛い回答だね!」
管理者はほっこりしたのか笑顔だ。ちなみに俺は失笑してしまい、機嫌を損ねたブランカに足を踏まれた。
「正解は排水をするためなんだよ」
管理者の言葉に俺たち3人はそろって首を傾げてしまった。
そんな俺たちのリアクションに苦笑いをしながら管理者は続ける。
「他所の国では製粉や風速測定のために使うそうだけど、この国では水を国外の川へ流すために風車を利用しているんだ。200年くらい前からこの国には地下水が溢れるようになってね。排水をしなければ半月で国が水没してしまうような事態になってしまったんだよ。
当時のご先祖様たちはバケツや魔法で排水をし続けたそうだが、とても間に合わない。そんな時に他所の国から来た旅人が、『大山脈から吹き付ける風を利用し、風車で排水してみては?』とご先祖様に知恵を授けた。それからは排水路を作って、風車を動力に排水作業が進められたんだよ」
説明を終えた管理者が、風車へと俺たちを案内してくれた。
塔の内部は空洞で、様々な歯車と木の棒が複雑に絡み合って動いている。
力強く動く装置の根元には、
「これが排水されている水だよ」
管理者の言うように大量の水が床下の水路を流れていた。
「風車の地下には巨大な水車があってね。国の中央部から溢れる地下水を組み上げているんだよ。そうやって人工的に汲み出された水は排水路へ流され、やがて国外にある数種類の川へと流されるわけだ」
目の前で繰り広げられる大規模な仕掛けに、
「すっげぇ……」
感動で思わず俺は声を出していた。
「風車はこの国にとって生命線。それを守るのが俺の役割さ」
管理者が親指を立てて自慢げな顔を作り出した。自分の仕事に誇りを持つ仕事人の姿に、
「いやぁ、カッコいいっすね」
素直に俺は感想を漏らすのだった。
がらがらと大きな音を立てて動く歯車たち。
それを指差しながら質問をする俺と、嬉しそうに回答する管理者のおじさん。
「いやいや、面白い講義だった。本だけじゃこういう機械って分かんないんだよなぁ」
管理者との会話を終えて戻った俺に対し、
「オスってどうしてこういう物に興味持つのかなぁ? 私、お腹すいて来たんだけど」
ブランカが退屈そうに欠伸をしてみせた。その横ではドリアが植物を使っていつの間にか地下水を味見している。
「なんかこの水、変な感じがする」
「変な感じ? 不味いのか?」
ドリアの言葉に俺は首を傾げた。
「うーん。美味しいとは思うけど……なんて言えばいいんだろう? 悲しい気がする?」
「なんだよそれ」
風車の中を出た俺は、管理人から他に観光名所はないかと訪ねてみた。
「うーん。どうだろう? 風車と魔法道具以外は特に目立ったものが無いしなぁ。うーん」
管理人の困り様からして、特産品なども本当にないようだ。
俺の頭をよぎったのは新国王の言葉だ。
あれほどの魔石をどうやって王家は手に入れたのか。
特に大きな収入源を持たないこの国において、あれだけの魔石を購入することは王家であっても不可能だと新国王は言っていた。
管理人が自分がお気に入りだと言う食事処の名前を羅列し始めた時だった。
「あっ、思い出した」
ブランカが突然声を出したのだ。
「ん? どうしたんだよ?」
「うー。風車の中を見た時にね、『あれ? ここどこかで見たことある』って思ってたの。今思い出したんだよ。あのバカ王子と最後に戦った塔。あそことよく似てるなぁって今思い出したんだ」
ブランカの言葉を受け俺も記憶を辿ってみる。
「……うん。そう言えば似てるな。中身が空洞で螺旋階段を使って上に行くところとか風車とそっくりだ」
「でしょ!」
俺たち2人の会話を管理者のおじさんは横で聴きながら、
「一体なんの話だい? 塔?」
「あぁ、すいません」
俺は王子との戦闘中に入り込んだ奇妙な塔の話を管理者にしてみる。すると、
「あぁ、あの塔の話か。それならここから見えるよ。ほら」
管理者が指差す方向。国ほぼ中央付近にその塔はあった。確かに肉眼でもはっきりとその姿が見える。
構造は確かに風車の塔部分とそっくりだった。
違うのは普通の風車よりも塔部分が太いところと、風車の羽が取り付けられていないところくらいだ。
「あの塔は国民の間でも『謎の塔』って呼ばれているんだよ。どういう意図で作られたのか誰も知らない。10年くらいに突然建造されたけど、王族たちからは何の説明もなかったんだよ」
「で、来てみましたとさ」
『謎の塔』の前に馬車がたどり着くと、俺は塔を見上げながら独り言ちた。
塔の周囲には警備をしている男たちが5人ほど仁王立ちしている。彼らは新国王に忠誠を誓った騎士らしい。前国王時代にも王族の横暴に嫌悪感を感じていた騎士は何人かいた。そんな彼らを新国王は新騎士団の中枢メンバーとして受け入れたと俺は聞いている。
凛々しい顔つきをした騎士たちだが、
「なんか揉めてるね」
ブランカが言う様にどうやらトラブル中らしい。
「だーかーら! ちょっと中を見せてくれるだけで良いんだってば! もぉ〜お固いわね〜」
甲冑を着込む騎士へと1人の女が不満そうに騒いでいた。




