38 ご褒美と報告
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『風車の国』の旅館。その一室で俺はベッドの上で眠っていた。
窓から室内へと陽光が入り込み、その温もりを受け俺は目を覚ます。
窓を開けるとひんやりとした空気が頬を撫で、遠くから聞こえる商店の賑わいが聞こえてきた。
窓の下には旅館の主人が商人から積み荷を受け取っている。
両者とも笑顔で、朗らかな雰囲気だ。
窓を閉め俺は軽いストレッチを済ませると、魔法と格闘の訓練を始めた。
しばらくすると、
「むわぁ……おはよう」
布団をもぞもぞと動かしなら、俺と同じベッドからブランカが起き上がってきた。
白いネグリジェ姿のブランカは大きく伸びをしてみせる。狼の耳はピンと張り、普段服の下に隠している尻尾もゆさゆさと揺れている。
白い肌にみごとなくびれ。陽光を受けて明るく照らされる太もも。
両手を上に伸ばしたポーズと合間って強調される魅力的な双房ーー
魔物とは思えない蠱惑的なブランカの姿に思わず生唾を飲んでしまった俺は、
「そんなに見ないでよ。なんか恥ずかしい」
ブランカに咎められてしまった。
お互いに着替えを済ませたところで、俺が『魔物図鑑』を取り出すと、
「じゃーん! あたい登場!」
元気よく現れたのは妖精のドリア。
いつも通り緑色のドレスを着たドリアは早速ブランカに抱きついた。
「むふぅ、寝起きはわんわんのもふもふに飛び込むに限るぅ」
「もう。朝から鬱陶しいわね」
言葉とは裏腹にブランカはドリアの頭を軽く撫でている。
見慣れた朝の光景。
支度を済ませ、俺たちは部屋を出て食堂へと向かった。
タマネギ頭の王子と戦ってから2日が経っていた。
『風車の国』における革命は成功したと言えるだろう。
王子の身柄を引き受けた革命側から、俺たちは感謝の言葉を浴びることとなった。
当日は朝から晩まで憎っくき王政が崩壊したことを祝う宴が国中で起こっていた。
商店には食べ物が溢れ、路上では即興のダンスパーティと音楽団による演奏まで開催されたほどだ。
俺たちも、
「あぁ、このお兄ちゃんが赤影さんを助けてくれたんだぞ! どうだい! うちの店で飲んでくかい?」
「そちらのお嬢さんには当店の服を差し上げるわ! どれでも好きなものを持って行ってちょうだい!」
と歓迎を受けた。
なかでも一際国民から感謝されたのはドリアだった。
例のタマネギ発言を筆頭に、広場での植物を使った攻防が現場に居合わせた国民たちによって広く語られているそうだった。
「よっ! お嬢ちゃんの『タマネギ頭』発言から革命は始まったんだよな!」「あの発言は語り継がれるべきね。教科書に載せることを提案するわ」「お嬢ちゃん、こっちで好きなもの食べていいよ! あんたなら大歓迎だ!」「好きなお洋服を買ってあげるわ。いや、そんなくらいじゃあ、感謝し足りないわね。おばちゃんが何でも好きなもの買ってあげる!」「はぁはぁ。お嬢ちゃん、おじさんと遊ぼう」
と様々な歓迎をドリアは受けたのだった。
その度に本人は嬉しそうに手を振ったりポーズをしてみせた。
ただ、そんなドリアもタマネギが串刺しにされていたり、王子に見立てて火あぶりにされている光景を見ると、
「むあああっ! あたい、今猛烈にタマネギに謝りたいよぉおお!」
と嘆くのだった。とんだ風評被害を受けるタマネギの惨状に俺もブランカも苦笑いをするしかなかった。
俺たちが新しく紹介された旅館は本来は国賓に提供されるものらしいが、
「英雄さんは国賓以上だよ」
という旅館の主人によってほぼ強制的に俺たちはここに宿泊させられていた。
食堂で食事を済ませた俺たちの元へやってきたのは、元革命家の赤影と呼ばれる男だった。
「おはようございます。新国王様」
俺が呼びかけると、
「あはは。なんだか皮肉を言われているみたいだなぁ」
赤影こと新国王は恥ずかしそうに笑顔で手を振り返した。
従業員が慌ててコーヒーを用意し、俺たちの前に座る新国王へと提供するが、
「ありがとう。慌てさせてすまなかったね」
新国王から言葉を掛けられるとうやうやしく、それでいて誇らしげに頭を下げ去って行った。
「こんな朝早くに俺らみたいな旅人のところに来て良いんですか? あんまり寝てないように見えますよ」
俺の言葉に新国王は、
「元国王と元王子の処罰や、騎士団を始めとする国の中枢機関を再構築するのに忙しいよ。かと言って手を抜くわけにはいかない。前王政時に甘い汁をすっていた輩は必ず反発してくるからね。連中を抑えるためにもあらゆる方面へと神経を尖らせなくてはね」
「でしょうね。なら、なおさら俺たちのところにやってくる必要ないですよね。今朝はどういったご用件で?」
「ふむ。君らはこの革命における当事者だ。だから革命側として報酬と報告を届けにきたのだよ」
新国王は後ろに経っていた部下へ指示を出した。
部下の手にはやや大きめの鞄が入っていて、そこから袋が3つ取り出され俺たちの前に並べられた。
「君らへの感謝の気持ちだ。受け取ってほしい」
新国王に促され中を見てみると、袋には宝石と魔石が入れられていたのだ。
「宝具持ちである君にとって魔石は価値があるだろ?」
新国王がウインクをしてみせる。俺も思わず頬を緩めた。
「ありがたくいただきますよ。ところでこの魔石ってどこから得ているんですか? この国は自動人形を始めとして魔法道具が満ちてますよね? 革命のときも魔石を組み込まれた首無し騎士に苦戦しました、この国ってそんなに魔石を買い取れるくらいに裕福なんでしょうか?」
「うーん。それは私も不思議に思っていたことなんだよ。今、君らに渡したその魔石は元王子の部屋から見つけたものなんだ。小さいが高純度で、普通に買えば金貨が大量に消費される品だ。首無し騎士たちに内臓されていたものも比較的純度の良い品だったよ」
新国王はコーヒーをすすると話を続けた。
「この国は特に目立った特産品もない。工業や商業はそれなりに発展しているけど、これほど大量の魔石を買ってしまえば財政が破綻する。今までも十分国民は重税を納めていたけど、それでも足りないほどの量だ。一体前王政がどうやってこれほどの魔石を入手していたかは目下調査中。検討すら付いていない状況だよ」
この点に関しての疑問は解消しそうになかった。俺が適当に相槌を打つと、新国王が口を開く。
「さて、では続いて報告をするとしよう。まず現在の『風車の国』に関してだけど、散々ナイトくんがいうように私が新国王に即位している。現状は前王政と同じ政治構造を維持している状態だ。ここから私は国民が中心となる新政治体制を構築する予定だよ。具体的には1ヶ月後に選挙を行うんだ…………選挙って何か、だって? ……あぁ、ナイトくんの生まれた国も王政だったのか。うん、選挙というのはね…………という制度なんだよ。私も他国に訪問した際に知った制度でね。びっくりしたものさ。そうして選ばれた代表者によってこの国を運営する。その構造を作るまでが私の仕事さ」
続いて、と新国王は喋り続けた。
「元国王と王子に関して。2人は現在刑務所に収容されている。今説明した新体制になったところで裁判にかける予定だよ。それまでは質素に刑務所内で過ごしてもらおう。多分死刑になってしまうだろうが」
新国王は部下に何やら呟くと、
「これは元王子の部屋から見つけたものだよ」
と10数枚の紙をテーブルに広げてみせた。真っ白で何も書かれていない紙。
だが、あの革命の現場にいた者ならこの紙の脅威が分かるはずだ。
「魔法陣、と呼ぶそうだね。私は魔法に詳しくないが魔力がなくても魔法が使えるアイテムという理解でいいのかな?」
「そうですね。ここにある紙にも魔法陣が施されてますね。発動するまでは魔法陣は見えないですが、魔力は感じ取れます。空間を移動したり、爆発を起こしたりと強力なものばかりだ」
「そうなのか。我々革命側にも味方になってくれた魔法使いがいるんだがね。彼らもこの魔法陣の処分に困っていたよ。何でも無闇に破壊しようとすると危険だそうだ」
ああ、それならと新国王の言葉を受け、俺は『封魔の鎖』を発生させた。紙の束へと鎖の先端が突き刺さり、串刺しとなる。
「この『封魔の鎖』で魔法陣は消しました。もうそれはただの紙切れです」
俺の説明に新国王は目を丸くしたが、
「ありがとう。正直どうしようかと思っていたんだ。残しておけば使いたくなる欲望に襲われるからね。ありがとう。すっきりしたよ」
「その紙もらってもいいですか? 旅の途中で焚き火に使えるので」
「ああ、構わないよ。本当に助かる。ありがとう」
感謝の言葉を述べると、新国王は席を立ちあがり、
「朝から済まなかったね。自由に滞在していてくれ。国中が君らをサポートするだろう。なんだったらこの国の国民にならないかい? 君らなら歓迎するよ」
「ありがたい言葉ですけど、俺たちはもう少し旅を続けますよ」
「そうかね。では失礼するよ」
新国王が食堂を出て行った。その背中には重圧に対する責任感からか厳しく張り詰めた空気を感じる。
「お達者で」
俺は新国王の背中へ呼びかけた。




