37 夜明け前の決戦
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王子の放った紙は真っ直ぐに俺へと飛んできた。
紙には赤い光を放つ魔法陣が浮かんでいて、直感的に俺は危険を感じた。
光弾を練り出し、迫り来る紙を撃ち抜く俺。
撃ち抜かれた紙たちは大爆発を引き起こす。
火柱によって視界が一瞬紅に染まってしまう。
衝撃によって窓が割れ、壁にかけてあった拷問道具が床へと落ちてしまった。
王宮広場で使われていたものより小さな爆発であるが、その熱気と風圧に俺もブランカも吹き飛ばされる。
「へへっ。嬲り殺してやる」
ニヤリと王子が笑う。
王子が再び紙を飛ばそうとするのを、俺は光弾を打ち込むことで妨害した。
「っ!」
光弾に手元を撃たれ、王子は左手に持っていた紙を床へと落とした。
拾い上げようと王子が屈んだその隙にブランカが王子に迫る。
気づいた王子が顔を引きつらせるが、ブランカは容赦なくその顔面へと拳を打ち込んだ。
「むっ!」
しかし、ゴーンという鈍い音と共にブランカの拳が空中でピタリと止まってしまう。
よく見ると王子の周囲がわずかに歪んでいる。透明な壁が王子とブランカの間に出現しブランカの攻撃を防いだらしい。
王子の手元にある紙から魔法陣が浮かび上がっている。
透明な障壁を発生させる防御魔法だ。
ブランカの拳を止めるとなると、かなりの性能だと伺える。
ーーなるほど。さっきの爆発で王子が無傷な理由はこれか。
ブランカが2撃目を放とうと拳を握るが、その前に王子が床へと紙を放った。
数枚の紙が床に落ち魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣から現れたのは太く巨大な槍だった。
槍は出現されるや否や、高速でブランカへと発射される。
ブランカは両手を胸の前で交差させ槍の攻撃を防御した。
人間と同じくらいの太さの槍。3本の槍が、ブランカの正面へと直撃した。
衝撃によって後方へと押されたもののブランカは無傷だ。
勢いを失った槍が床へと落ちるが、音を立てることなく溶けるように消えてしまう。
「ちっ! 化け物め!」
「うー、面倒くさいわねその魔法陣!」
王子の両手から紙が飛ばされ部屋の四方八方を飛び交った。
紙から魔法陣が浮かび上がると、紙同士が魔法の光によって繋がれ網のような物体を形成していく。
生み出された光の網によって俺たちは閉じ込められた。
隙間があるように見えるが、魔法による障壁で網の中は外と完全に遮断されている。
「食らいやがれ!」
そう叫びながら王子は10数枚の紙を網の隙間へと投げ込んでくる。
術者の許可を受け、紙たちは網の結界へと入り込んできた。
ーーまずい! 結界の中であの爆弾紙使うつもりかよ!
俺とブランカの間へと落ちたその紙は、結界内に轟音と衝撃波を発生させた。
爆弾紙とは違う衝撃波だ。視界が一瞬真っ白となり、特徴的な大気を震わせ奏でられる音が響く。
落雷の魔法だった。
「ぐああああっ!」
全身を均等に殴られるような衝撃を受け、俺はぐらりと片膝をついた。
「ナイト! 大丈夫?」
「な、何とかな」
俺は若干体が痺れているものの、親指を立てて平気をアピールした。
俺の周囲には紫色に輝く鎖が5本ほど漂っている。
「雷魔法まで使えるのかよ」
俺がそう呟くと同時に鎖は泡のように消えてしまった。
まさか小規模の雷を生み出す魔法陣まであるとは驚きだった。
とっさに『封魔の鎖』で抑制していなかったら今頃俺は灰になっていたかもしれない。
ちなみにブランカは無傷だ。相変わらずデタラメな防御力だった。
「嘘だろ……何で雷受けて生きているんだ、こいつら……」
王子が顔を引きつらせている。とどめのつもりだったらしい。
ブランカが光の結界を抜けようとするのを見て、王子は紙を鞄から取り出した。
それを見て俺も光弾を発射する。
「無駄だ!」
王子が叫ぶと同時に周囲が歪み始め、再び障壁が王子を防御するために形成される。
王子はその隙に大量の紙を手で鷲掴み、魔法陣を発動させようとしていた。
しかし、それよりも早く俺の光弾が障壁を突破して王子の手元と顔面へと打ち込まれた。
「ぶがぁっ!」
情けない悲鳴を上げて王子が後ろへとよろめく。
王子が体勢を立て直した時には、もう遅い。
王子の目の前には光の結界を力づくで突破したブランカの姿。
魔法陣を発動させる隙などもう無い。あっという間に王子の手をひねり紙を奪い取ったブランカは、王子の腹へと膝蹴りを打ち込んだ。
「むごおぁああ‼︎」
汚い悲鳴をあげながら王子は崩れる。
腹を抱え、芋虫のように床に寝そべる姿は滑稽だった。
「ん?」
苦痛に呻く王子の服から何かがこぼれ落ちた。からんと音を響かせ、ポケットから落ちたのは黄色く光る宝石ーーいや、魔石だった。
魔石を拾い上げた俺はしばらく石を眺めると、
「よっと」
魔石を床へ落とし、踏みつけて粉々にしてやった。
「うー、ナイト。それって魔石だよね? 壊して良かったの?」
「ああ、大丈夫。この魔石には魔法がかけられてた。遠魔石を組み込まれた人形へと指示を出す遠隔操作の魔法だな。この王子はこいつで首なし騎士達へと指示を出していたらしい」
「ふーん。じゃあ、それで広場にいた首なし騎士達は敵じゃなくなったってこと?」
「命令が途絶えたから動きを止めているはずだ」
ブランカへの説明を終え、俺は寝転ぶ王子から紙の入った鞄を奪い取った。
「あっ……あぁ……」
唯一の武器を失い王子が青ざめる。
ブランカによって力づくで王子は座らされると、ぶるぶると震え始めた。
ブランカはナイフのように鋭利な右手の爪を見せつけると、左手で王子の頭を鷲掴みする。
「まままま、待て!」
首元に右手の爪を添えられ、王子が悲鳴をあげる。
「こ、こんなことをして許されると思うのか、貴様ら! 俺を傷つけてみろ! この国の騎士団が黙ってはおらんぞ! 反逆者と一緒に拷問して磔にして処刑してやる!」
俺もブランカも何も言わない。
王子は震えながら続けた。
「だ、だが、今なら寛大な俺が許してやろう! 俺への無礼もなかったことにしてやる。ど、どうだ?」
「ねぇ、ナイト。こう言っているけどどうする?」
ブランカが呆れ顔で俺へと振り返った。
俺は『魔物図鑑』を取り出すと、
「そうだなぁ。どうも王宮前の広場は決着がついたみたいだ。王宮の魔法使いも首なし騎士も全滅。王宮は革命側が制圧したようだぜ」
シェアリングクロウからの情報を俺が口にすると、
「そ、そんなバカな……」
王子が弱々しく呟いた。
「まぁ、殺すのは可哀想だ。ブランカ、そのまま王子様を抑えててくれ。爪はしまっておけよ」
「えぇ〜、もうちょっと痛めつけようよ。ドリアを罠にはめたんだよ、こいつ! 私はまだ怒りが収まらないんだからね!」
ブランカが不満そうにボヤくがが、俺は無視して部屋の壁へ向かった。
手頃な手錠と縄を見つけると、俺は王子へと近づきその体を拘束していく。
「ブランカの気持ちは分かるけどさ。武装は解除したし、革命は成功した。もう俺としては十分だ。これ以上俺たちがこいつをボコボコにする必要はない」
俺の言葉を受け、こわばっていた王子の表情が緩んだ。殺されないことに安堵したのだろう。
「その代わりに拘束したまま国民の前に放り出してやろうぜ。多分、そっちの方が怖いだろうし」
王子の表情が消えた。俺は気にせず話を続ける。
「みんな、革命の騒動で興奮しているだろうな。さっき王様の銅像とか破壊されてたし、そこへ縄で縛られた王子本人を放り込んだら何が起こるんだろう? ブランカ、試してみたいと思わないか?」
「あぁ〜、なるほどね〜。それは面白いかも」
ブランカがにやりと笑う。
「そうだな。ボコボコにされるのは当然として、色々と王子様に恨みを持っている国民は多いだろうしなぁ。目玉をえぐられたり、生きたまま腹を切り裂かれたりして」
俺は王子に聞こえるように言葉を発し続けた。
「あとは素っ裸にされて国中を引きずり回されるかもしれない。あっ、そうだ。俺としては首輪をつけて曳き回したいところだな。ドリアに首輪なんかつけやがったし」
「よーし。じゃあ早速こいつを国民に届けに行こうよ、ナイト」
「わああああああああああっ! やめろおお! やめてくれ! 頼む、何でもする! 何でもするからあああっ! 金でも魔石でもあげるからああ! やめてくれええ!」
王子が大声で喚き始めるが、俺たちは無視して王子を部屋の外へと引きずり始めた。
「あああああああっ!………あああぁ………ああっ……あ…………」
王子が急に静かになった。大口を開けた状態で王子は失神していた。
「思った以上に脅しが効果あったな。失禁までしてる」
「うー、どうする? 本当に群衆の中に放り捨てちゃう?」
「いや、赤影のおっさんに預けよう。俺もこいつに聞きたいことがあるし」
気絶した王子を塔から運んでいると、空が明るくなり始めてきた。
いつも通りに登る太陽の下で、この国はいつもとは違う朝を迎えることとなる。
国を巻き込んだ俺たちの仕返しは無事に終わったのだった。




