34 革命のファンファーレ
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ーー『風車の国』の王宮内。その一室にて。
「ぐずぐずするな! こっちへ来い」
呼びかけるのは頭頂部にだけ毛が生えた王子と周囲から呼ばれる男。
上半身裸でベッドへと座る王子の視線の先には、
「…………はい……」
消え入るように声を震わせる乙女が1人。
ピンク色の薄着に身を包む乙女を王子は舐め回すように眺める。その視線に堪え兼ね、乙女は悔しさと羞恥からか顔を背けた。
ーー結局フードの娘は手に入らなかったが、まぁいい。一昨日見つけたこの娘で今日は憂さ晴らしだ。公務のせいでこんな真夜中になっちまったが、むしゃくしゃした気分じゃ寝られないからな。
王子に手を引かれ、乙女は強引にベッドへと押し倒された。
王子の手が乙女の柔肌へ触れようとした時ーー
「お、王子! 大変でございます!」
勢いよく扉が開き、年配の太った男が血相を変えて室内へと飛び込んできた。
「おい! 大臣! 貴様、俺の楽しみを邪魔するのか!」
王子から叱責され、大臣はベッドへと倒される乙女と王子の姿を見て、
「も、申し訳ありません」
と一旦は謝ったものの、
「い、いやいや、王子よ! そんなことをしている場合ではありませんぞ!」
「そんなことだと⁉︎ 俺の楽しみを奪ったんだ。覚悟はできているんだろうな? ああ?」
「王子! 反逆者の『赤影』が脱獄したと報告が! すでに国民を巻き込み暴動が起き始めております!」
大臣の言葉を受け、王子は一瞬固まった。が、すぐさま窓へと駆け寄り国内の様子を確認し始めた。
窓を開けた王子の目には国のあちこちで火災が起きている光景が飛び込んできた。燃えている建物の位置を確認してみると、
「なんだこれは! 燃えているのは騎士団の拠点だ。それに国民どもの声も聞こえてくる。俺のことをバカにする言葉も聞こえてくるぞ! 『赤影』が脱獄したと言ったな、大臣。何があったんだ⁉︎」
喚く王子へと大臣が、
「そ、それが……刑務所からの定時報告がないため不審に思った騎士団が刑務所に行ってみると、反逆者を閉じ込めていた牢が破壊されていたそうです。警備をしていた騎士も魔法使いも毒で動けなかったりと全滅。収監していた反逆者全員が外へと出たようで」
「なんてこった。赤影を始め、反逆者どもは明後日にも公開処刑する予定だったのに! ちくしょう。なんでこんなことに!」
王子が怒りで顔を歪める。王子の様子に大臣は怯えるばかりだ。
「いや、待て待て! いくら連中が脱獄したからと言ってせいぜいまだ2、3時間程度だろ? 騎士達は何をやっているんだ⁉︎ 赤影を逃したとしても、騒動くらい鎮静させろよな!」
「いや、その、それがでございます。王子」
「何だよ。まだ何かあるのか?」
イライラを隠すこともなく王子は大臣を睨む。
「き、騎士達は動けませぬ。現在この王宮へと魔物が襲撃しておりまして、その対策にほとんどの騎士を動員させている状況なのでございます」
「はぁ? 何を言っているんだ? 魔物だと?」
王子は部屋を出ると通路の窓を勢いよく開け、王宮の正面広場を見下ろした。
すると、
「な、なんで大猪がこんな場所に!」「城門の警備連中はなにやってるんだ!」「おい、魔法使いはまだか!」「い、いやだ、食われたくない」「ちくしょう! この蜂どもが!」「ぎゃああ、う、腕があああ!」
広場には100人近い騎士達が大型の魔物と戦闘を繰り広げている。
大猪に大灰熊。見たこともないような不定形の魔物。
いずれも人里にいるはずのない魔物ばかり。しかも連中は王宮内へ侵入しようとしていた。
騎士達が武器を持って魔物を倒そうとしているが、魔石を組み込んだ武器を持ってしても体格とパワーで勝る魔物を止めるのは容易ではない。おまけに騎士の多くは毒でも食らったかのように動きを鈍らされている者が多くいた。
眼下で繰り広げられる光景に王子が唖然としていると、騎士が1人駆け込んできた。
「失礼します! 国民の一団が王宮へと迫っております! 先導しているのは反逆者『赤影』! 連中は騎士団拠点より奪取した武器を手にしているとのこと。国王様はすでに王宮より脱出されました。王子も我々とご一緒ください。安全な場所へとご案内します!」
緊張した様子の騎士が報告を済ませるが、王子は拳を握りしめ、怒りの形相だ。
「ふざけるなよ。この俺が国民どもから逃げるだと? 俺は選ばれしものなのだ。下賎な者どもなど俺が返り討ちにしてやる! おい! 地下に閉じ込めている人質どもを王宮の上階へ連れてこい。それで連中をまず止める。そこから先は虐殺ショータイムだ!」
「今頃王子は『人質を連れてこい』とか言っているかもな」
『風車の国』のとある騎士団拠点。
外壁の一部が崩れ、拠点としての機能を失ってしまうほどボロボロになったその建物にて、俺とブランカはテーブルを挟んで座っていた。
テーブルの上にはティーポットとカップが置かれ、俺たち2人は優雅に紅茶を啜ってティータイムだ。
「うー。そうだね。でも一歩遅かったって感じじゃない?」
カップから口を離しながらブランカも俺もちらりと拠点の広間へと目を向ける。
そこには涙を流しながら抱き合う人々の姿。
女性が圧倒的に多く、そんな彼女達を恋人らしき男性や、家族が抱きしめているのだ。
「国の有力者や反抗的な人から人質を取るとは、あのタマネギ頭らしいやり方だな。今まで革命が成功しなかった大きな理由か。だが、人質が解放されれば革命運動が再燃しやすい。あの革命家のアドバイス通りに革命運動も起きてるみたいだし、順調だぜ」
俺がそんなことを話している間にも、拠点へは続々と人質だった女性達が逃げ込んできていた。
拠点の床には1箇所だけ穴が空いている場所があった。
人が3人は通れそうな大穴だが、女性達はそこから次々と姿を表しているのだ。
穴の奥には緑色の植物によってトンネルが形成されていた。
強靭な蔓によって掘り進まれたそのトンネルは階段状の足場が作られている。天井には釣鐘状の花が咲いていて、そこから放たれる光がぼんやりとトンネル内を照らしていた。
「ドリアの能力もどんどんパワーアップしているわね。まさかこの拠点から王宮の地下牢までトンネルを貫通させるなんて。悔しいけど、戦闘以外ではあの子の能力の方が便利だわ」
「あいつは発想次第で色々なことができるからな。そのうち、ブランカにも常勝できるようになるかもよ?」
俺たちがそんな会話を交わしていると、
「じゃーん! あたい帰還!」
元気よくトンネルからドリアが姿を見せた。
町娘の格好から本来の緑色のドレス姿。隠していた羽も隠すことなく晒している。
ちなみにブランカもすでに狼耳を晒し出していた。
革命家である『赤影』に俺は2人の正体を説明していた。赤影は驚いてはいたが、2人を始め俺が使役する魔物が味方であることを理解すると、1000人力だと喜んでいた。発信力のある赤影によって魔物使いが味方にいることがある程度革命側に告げられ、俺たちは正体を隠すことなく全力で動くことができていた。
「お帰りドリア。お疲れさんだった。トンネルはもちろん塞いだよな?」
「もちろん。あたいに抜かりはないぞ。ちゃんと地面も埋め直してきた」
平らな胸を突き出し、ドリアは得意げに笑ってみせた。
「これで人質を盾にする方法は防いだわけだ。王子を始め、王宮の連中は純粋に自分たちの力で革命運動に対抗しなきゃいけない。ただ騎士の大半は俺の放った魔物に対抗するので出払っているから、国内の主な拠点は赤影のおっさん達が楽に制圧しまくってる。外堀を埋めたら、あとは王宮を制圧。それで革命はだいたい終わるそうだ」
「ふーん。じゃあもう大丈夫そうだね。普通に考えて国民全員と騎士たちじゃ人数が違うし、今は国民側もある程度武装しているんでしょ? 戦いは基本的に数の多い方が有利だし、王宮側の戦力は魔物と戦って消耗し続けてる。勝ったも同然だね」
ブランカの言葉に俺は首を横に振った。
「いや、まだだ。少ないとはいえ王宮側には魔法使いもいるだろう。それに宿屋の主人の言葉も気になる。人数の不利を王子がひっくり返したっていうエピソードだ。王子には何か奥の手があるんだろう」
「奥の手ねぇ。魔法かな?」
「たぶん、それに近いものだろうな。ドリアも戻ったし、俺たちも王宮へ行こう。あの腐った球根は多分俺たちが相手した方が良いような気がする」
「こりゃあ。杞憂だったかな?」
王宮前にやってきた俺は繰り広げられる光景を見て独り言ちた。
王宮の広場には国民達に手足を縛られ無力化された騎士達が並べられていた。
広場のあちこちで国民達が歌を歌いながら、旗を振っている。
国民の中には広場に設置されていた国王達の銅像を横倒しにしている。踏みつけたり、棒で叩き割るなどして積年の恨みを発散しているようだった。
王宮は下の階の窓が全て破壊され、未だに大声や破壊音が響いている。
どうやら残った王宮側と革命側の間でまだ戦闘が続いているようだ。
ただ、王宮の中階辺りからも戦闘音が聞こえることから、革命側の方が圧しているようだった。
広場の中央には馬車の屋根に乗った革命家の姿がある。
演説とともに指示をするその姿に国民達から拍手と歓声が湧き上がっていた。
「私たちの出番はない感じかな?」
「あたいはもった暴れても良かったのに。種ポンポンも実戦で使ってみたかったなぁ〜」
魔物2人からすればちょっと暴れたりないらしいが、革命なんて成功するときはすんなり進んでしまうものなのかもしれない。
すでに国民側も勝利を確信し、大合唱の大盛り上がりだ。
いつの間にか楽器を持った一団が現れ、酒盛りをしだす連中までいる。
俺が心配していた暴動も起きていない。革命者である赤影が理性的に統制しているだけあり、国民が騎士へと必要以上の暴力を振るう姿もなかった。
順調と言える光景だが、
「「「うわああああっ!」」」
王宮内から聞こえてきた悲鳴によって、大合唱は止まり、広場が一瞬静寂に包まれる。
その場にいた全員の目が王宮の正面玄関へと注がれた。
無駄に豪奢な門が勢いよく開き、中から武装した国民が飛び出してきた。
全員が血相を変え、必死になって走っている。
その背後から現れたのは、甲冑に身を纏った大勢の騎士。
だがーー
「むわっ! あいつら頭がないぞ!」
ドリアが指摘する様に、現れた騎士達は頭部がなかった。
首なし騎士達はずんずんと重そうな足音を響かせながら国民達へと剣を振るい襲撃していた。
「調子に乗るんじゃねぇぞ国民どもが!」
王宮の上階から声が聞こえる。
見上げてみると、最上階のバルコニーへと王子が姿を見せていた。
「てめら全員血祭りにあげてやる! 覚悟しろ!」




