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32 秘められたボルテージ

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 ーーくっくっくっ! ざまぁみろ! 


 目の前で固まる旅人2人を眺めながら、王子は胸の奥から沸き起こる征服感に震えていた。

 

 ちらりと後ろを振り返った王子は鉄格子に閉じ込められた童女の様子を伺う。

 小さな手で鉄格子を握りながら、童女は悔しそうに唇を噛んでいた。


 ーー間抜けなガキだ。まんまと俺のシナリオ通りに捕まって仲間のお荷物になってやがる。俺を腐った球根呼ばわりしたのはお前なんだ。まだまだその可愛い顔を歪めてもらうぞ。


 王子は旅人2人へと視線を戻した。双方ともに顔が赤らんでいる。

 

「さぁ、どうする? お前ら2人が俺の手駒になるのなら、この小娘は明日にでも解放してやろう。手駒にならないのならこの小娘は獄中で強制労働だ。ちなみに独房じゃなくて雑居房な。四六時中乱暴な男どもと共同生活となると、果たしてこの可愛い小娘が無事でいられるかな?」


 王子は旅人へそう話しかけると、懐から2つの首輪を取り出した。


「俺の手駒になるならそれをつけろ。意識を保ったまま俺の命令に従う様になる魔道具だ。嫌なら付けなくてもいいが、その場合はこの童女がどうなるかは分かってるよな」


 ーーくっくっくっ! ルールとは俺の様な選ばれし者が作るのだ。お前らは俺の作ったルールの上で足掻き苦しむのがお似合いなんだよ。仲間を裏切ることなんて出来やしないだろ? ましてこんな童女を見捨てるなんて出来るはずがない。


 王子が心の中であざ笑っていると、娘の方が首輪を手にした。悔しそうに王子を睨んでくる娘の表情に王子はぞくぞくと身を震わす。


「ああ、そうそう。力づくで小娘を取り返そうとか馬鹿なことは考えない方がいいぞ。この部屋の周囲は30人近い騎士が待機中。すぐに駆けつけられるようになっている。加えて俺と小娘には専属の魔法使いによって危険があればすぐに別の部屋へ魔法で移動できる様に仕掛けが施されているんだ。そして暴れたお前らは『反逆罪』で裁いてやるよ」


 王子の言葉を受け、面会室の扉が開き5人の逞しい騎士たちが中へと入ってきた。

 その腰には剣が装備され、王子と同じ様に旅人2人へとニヤニヤと笑みを注ぐ。


「安心しろ。俺は優しいからな。素直に手駒になった場合は2人とも寝食は保証してやるよ。それ以外は知らないけどな。にひひひっ」


 王子の言葉に2人とも言葉を発しない。

 娘の方はブルブルと震えている。その様子をみた王子は自分へと恐怖し絶望しているのだろうと再び征服欲を感じご満悦だ。実際には娘が震えているは王子へと殴りかかろうとするのを必死で我慢しているためなのが、王子に分かるはずもなかった。


 一方で男の旅人は顔色が戻り、何かを思案する様に目を閉じ腕を組んでいた。

 王子としてはちょっと気にくわない。もっと焦燥し、ヘロヘロになって泣きつかれると思っていただけに、男の思いの外落ち着いた様子に王子はややイラつきを覚えた。


「おいおい。まさか状況が分かっていないわけじゃないよな? 仲間を助けたいのなら俺の手駒になればいいだけのことだ。簡単だろう? さっさと首輪をつけたらどうだ?」


 旅人が目を開いた。

 その双眸が静かに王子へと向けられる。


「おっしゃる通りだ。仕方がないね」


 旅人が残念そうに口を開く。


「ふん。分かればいいんだ。さっさと」


 『さっさと』と王子がその続きをしゃべろうとするのを遮り、旅人は言葉を発する。


「ドリアは置いていきます。じゃあ、俺らは帰るんで後始末よろしくお願いしますね」






 俺の発した言葉によって面会室は沈黙に包まれた。


 俺の隣に座るブランカが信じられないっと言った様子で俺を見つめる。

 鉄格子にしがみついていたドリアは表情が消え、呆然としていた。


 そして、


「……………………はぁ?」


 目の前に座る腐った球根ーーもとい王子は口を半開きにして間抜け面を晒している。


「え……お、お前、何を言って」


「いや、言った通りですよ。ドリアは置いていきます。あっ、ドリアっていうのはそこに捕まっている小娘の名前です。それじゃあ、俺らはこれで失礼します」


 そう言って俺は立ち上がる。

 ブランカが俺の袖を引っ張り何かを言いたげに口を開いたが、


「ん?」


 何らかの気配を察したらしく口を閉じ、俺に従って立ち上がった。


「待て待て待て待て! お前自分が何を言っているのか分かってるのか? お前らが俺の手駒にならないならこの小娘は強制労働の刑を受けるし、もしかしたら他の囚人に酷いことをされるかもしれないんだぞ?」


 部屋を出ようとする俺へと王子が慌てた様子で呼びかけてくる。

 俺は歩みを止め、王子へと振り返ると、


「いや、ですから。それで構わないと言っているんです。あなたの手駒にはなりたくないですからね。それにドリアは盗みを働いたのでしょう? それは悪いことですからね。罰を受けるのは当然じゃないですか。そんな犯罪者をいつまでも仲間扱いしたくないですし」


「いや、まぁ、それはそうだろうが…………お前、この小娘の仲間だろうが! 仲間を見捨てるのか?」


 王子の言葉に対し、


「旅の途中でたまたま出会っただけの仲ですしね。さっきは怒鳴りましたけど、俺があなたの手駒になってしまうリスクと天秤にかければ見捨てる選択肢を取れるくらいの仲間意識ですよ。俺は我が身が一番大事なんでね。俺の足を引っ張る奴なんて仲間じゃない。というわけで、ドリアにはしっかり罰を受けてもらいます。俺たちはすぐにでも出国することにしましょう。ご迷惑をおかけしました。お勤めご苦労様です」


 そう言い残し、俺はブランカを連れ唖然とする騎士連中をかき分け刑務所をあとにしたのだった。






「おお、昼間の旅人さんじゃねぇの!」


 刑務所を出た俺たちが通りを歩いていると、『腐った球根呼ばわり事件』の現場にいた商店の店主が俺を呼び止めた。散歩中だったようだ。


「聞いてくれよぉ。夕飯は玉ねぎ料理でさ。女房と息子と一緒に大爆笑しながら食べたんだ。こんなに楽しい夕飯は久しぶりだよ。あんたが連れてたお嬢ちゃんのおかげだぜ……………………あれ? あのお嬢ちゃんは? 一緒じゃないのかい?」


 店主の言葉に、


「今しがた刑務所に行ってきました。そこには王子と騎士がいて、あなたの言うお嬢ちゃんもいました。まぁ色々と王子から話がありましてね」


 俺が詳細を省いて話したにも関わらず、


「……そうか…………それは…………すまねぇ、無神経なこと言っちまって……ちくしょう」


 店主は何かを察したらしく、苦しそうにそう呟いた。

 この国では似た様な出来事が頻繁に起こっているのかもしれない。


「ところで、ちょっと聞きたいことがあるんですよ、店主さん」


「ん? 何だい?」


「昼間新聞をご覧になっていた時に革命家のことを話してくれたじゃないですか。その人って国民から結構支持されていたんですか?」


「そりゃあ、もちろんさ! 元々は王宮に仕える騎士団長だったんだが、王子が横暴をしようとすれば横から止めてくれたし、貧しい家に援助もしてくれていたよ。あの方が王子を制御していなかったら、今頃若い娘の半数が王宮に連れて行かれていかれたかもしれないな。品行方正で文武両道。他国の王や首相からも『我が国に来ないか』ってスカウトされたほどなんだよ。王政を廃止して、国民一人一人で政治をしようという考えを2年くらい前から訴えていてね。それ以来、王宮とあの方の支持者とでかなり揉めたよ。双方から死人が出ることもあった」


「ふーん。でも捕まったんですね」


「あぁ、残念なことにね。王子には色々と不可解なことがあってね。300対100で革命軍が国王軍を圧倒していたはずなんだが、王子が加わった途端に形成が逆転してしまったそうだよ。噂では王子は魔法を使うそうだ。本人に魔力はないはずなんだがね」


「それは……良い情報です。じゃあ、もしですよ。仮にその革命家が解放されたら国民の間に革命運動が再燃しますかね?」


「もちろんさ。あの方が捕まって以来、王子の横暴は以前よりも酷くなったからね。国民の間には不満が溜まっている。あの方が表立って行動すれば、間違いなく皆、ついていくと思うよ」







「あの旅人が出国したのは本当か?」


 『風車の国』の王宮ーーその一室にて王子は従者へと問いかけていた。


「はい。間違いございません。刑務所を出たあと、まっすぐ宿へと向かいそのまま荷物を持って国境の門を出たそうです」


 従者がすらすらと説明すると、


「まさか見捨てる選択肢を取るとは。くそっ! 俺としてはあの娘が欲しかったのに。予想外の行動に虚を突かれちまったよ。あの童女は幼すぎる。俺にそっちの趣味はないしな。ちっ、むかつくぜあの旅人!」


 イライラしながら王子は遅い夕食をとるのだった。







「ねぇ、ナイト。何を企んでいるの?」


 『風車の国』を出た俺たちは国の近くに流れる小川へと戻ってきていた。

 焚き火を使い肉を炙る俺へと、ブランカが問いかけてくる。


「本当にドリアを見捨るつもりなんてないんでしょ?」


「あぁ、当たり前だろ」


 肉をドリアへと手渡しした俺は携帯食料を鞄から取り出し頬張った。


「あの面会室で一瞬だけどナイトから気配を感じた。あれはたぶん何かの魔法を使った気配だよね?」


「すごいな。そんなことまで分かるのかよ。騎士や王子はもちろん、監視している魔法使いだって気付かなかったのに」


「褒めなくていいから説明してよ」


 携帯食料を飲み込むと、俺はブランカへと向き直り、


「通信魔法を使ったんだよ。離れた相手へと心の声で会話する魔法だ。魔力によっては十数キロ離れていても会話できるそうだけど、俺には10メートルくらいが限界。それでも密談には十分だ。ドリアには『今日の夜中まで大人しくしていてくれ。必ず助けに行く。俺たちを信じろ。もし、それまでの間に人間共に酷いことをされそうになったら、能力を使え。4、5人くらいなら殺して構わない』と伝えたんだよ」


「じゃあ、今から助けに行くんだね!」


「あぁ、だからしっかり食っとけよ。真夜中に行動する」


 俺は続けた。


「魔法学校でも散々不快な思いはさせられたけど、それはあくまで俺自身に関することだった。だから耐えられたし、我慢もした。だけど、あの王子は俺の仲間に手を出しやがった。はっきり言って過去最大級に不愉快だ。単純にあの面会の場面で大暴れしてから出国する手もあったけど、それじゃあ俺の気がすまない」


「私だってそうだよ。あの腐った球根、本当に嫌い!」


「ああ。だからこそ、あの王子様を完膚なきまでに叩き潰してやろうぜ!」

 

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