31 囚われた妖精
慌てて宿屋を出た俺たちを出迎えたのは3人の男だった。
その内の2人は騎士。
そしてもう1人は年配の小男。
「こんばんは、旅のお方。私が今回の事件を担当している者です。どうぞこちらの馬車へお乗りください」
小男に促され、警戒しつつも俺たちは屋根のない馬車へと乗ることにした。
騎士たちが馬を操り、馬車は夜の街中を進み始める。
「俺の友達は無事なんでしょうね?」
俺の問いかけに座席に座る小男はにこりと微笑んだ。
「ええ。牢屋に閉じ込めてはいますが、それだけですよ。大人であれば犯罪者には足枷などをつけるところですが、さすがに10歳程度の童女に手錠と足枷をつけるのは心が痛みますからな」
「窃盗容疑で逮捕、とはどういうことなんですか?」
俺の問いに小男はすらすらと説明を始めた。
小男によるとドリアの逮捕理由は大通りの武具屋での窃盗。
ドリアが盗んだとされるのは短刀1本と首飾りが1つ。
いずれも魔石を組み込まれた高級魔道具であり、金貨数十枚もする品々。
店を飛び出したドリアをたまたま武器を購入しに来た冒険者が確保。すぐさま騎士団に通報が入り、店主の証言もあってドリアは即牢屋へとぶち込まれてしまったらしい。
「子供の犯罪はその保護者の責任。つまりは旅の仲間であるあなたにあると我々は判断しこうしてやってきたわけです。抵抗せず馬車に乗っていただけてホッとしております。荒事は嫌いですからな」
小男がにこりと微笑む。どことなく芝居臭い笑顔だ。
「盗んだ本人は何と言っているんですか?」
「否定を続けていますね」
俺の問いかけに小男はさらりと答え、
「店主と冒険者の証言があるのでお連れの子が盗みをしたのは事実です。そういう訳で我々としては、あなた方を処罰しなければならないわけですが……」
小男はちらりと俺の横に座るブランカをみた。
「ちょっと事情がありましてね。どうやらあなた方は処罰を受けなくて済むかもしれない状況なのですよ。その説明をある方がされるのでね。これからご案内いたしますよ」
「ある方? 誰です?」
小男はにこりと笑みを見せながら俺の疑問に返した。
「我が国の王子です」
馬車が辿り着いたのは塀に囲まれたとある施設の門前だった。
高さにして5メートルほどありそうな塀。
出入り口は鉄製の重厚そうな大扉。
扉や塀の上には騎士たちが配置され、油断なく周囲を監視している。
説明されるまでもなく、ここがこの国の刑務所であることは明らかだった。
鉄製の扉を抜け、馬車が施設内へと入っていく。
中にはもう1つ塀があり、表から見える塀と同じような作りをしていた。
「ここからは徒歩です。付いて来てください」
小男に案内され、俺たちは刑務所内を進んでいく。
受付で簡単な所持品検査を受けることになった。幸い魔法鞄は宿に置いて来ていたので問題はなかった。
ちょっと不安だったのはブランカの耳と尻尾の件だ。
1人の騎士がブランカの体を触ろうとしたが、それより早くブランカは騎士へと抱きついた。
予想外の行動にその場にいた男は全員虚を突かれたが、
「騎士様のお手を煩わせるわけにはいきませんわ」
そう言いながらブランカは抱きついたまま騎士の両手を掴むと、自分がリードしながら服のポケットを探らせたのだ。
ブランカに上目遣いをされ続けた騎士の表情はだらしがなくなっている。
「これでよろしいかしら?」
「う、うむ、問題ない!」
顔を赤らめた若い騎士から合格をもらうと、ブランカは俺にだけ見えるようにウインクしてみせた。
ーーお前そんな演技できるのかよ。年の功か。
ちなみに俺はというと髪を引っ張られ尻を叩かれと随分と雑に検査された。
騎士連中が監視する中、俺たちは小男に導かれるまま獄中を歩いていく。
螺旋階段を登ったその先には3つの通路があり、俺たちは左側へと案内された。
俺は正面の通路の先に重厚そうな鉄の扉があることに気づいた。扉の前には3人の騎士が油断なく見張っている。
「さっきの正面の扉って何なんですか?」
「もっとも罪の重い犯罪者を収容する場所です。さぁ、着きましたよ」
小男がそう言って案内したのは、面会室と書かれた扉の前。
小男がノックをすると、中から男の声で返事があった。
扉が開かれ中に入ると、
「あっ! ナイト!」
部屋の奥からドリアが元気よく呼びかけて来た。
面会室は思ったよりも広かった。
部屋の中央には鉄格子によって空間が2つに隔てられている。
ドリアは鉄格子の奥に入れられていた。
怪我をしている様子はない。
ひとまずドリアの無事に安堵する俺だったが、
「よお、しばらくぶりだな」
呼びかけて来た男の顔を見て一気に警戒を俺は強める。
鉄格子の前。そこに用意された椅子に座りながらチーズを貪る1人の男ーー王子だった。
俺とブランカは王子の正面に用意されたソファへと座り奴と対面する。
「王子様が刑務所に足を運ぶんことがあるんですね」
俺の言葉に王子はにやりと口元を緩ませると、
「この国において俺が入れない場所はない。入りたいと思えばどんな扉だって開かれる。俺は選ばれた者だからな」
「なるほど。しかし、刑務所に入りたいとは理解しかねますよ。一体どういうことなんです? 後ろにいる案内人から連れが処罰を受けなくて済むかもしれないと説明されたんですが?」
そのことだが、と王子が話を始めようとすると、
「違うよ、ナイト! あたい何も悪いことしてないもん! ナイトが言ったでしょ? 国の中で暴れちゃダメって。あたいちゃんと言う通りにしたもん!」
ドリアが鉄格子を握りながら大声で訴え始めたのだ。
近くにいた騎士がドリアを制止しようとするが、
「お店のおっちゃんが自由に武器を持って良いよって言うからあたい触っただけだもん! お外で振り回してごらんっておっちゃんが言ったから外で剣を振っていたらこのピカピカな服着た奴らがあたいのこと捕まえたんだよ。でもあたいちゃんと我慢したもん。連れて行かれるの怖かったけど、我慢したもん!」
涙目になりながらドリアが喚き続ける。
よく見ると、ドリアの首には鉄製の首輪が装着されていた。首輪からは鎖が伸び、壁の器具へと繋がれている。
ーー何が『童女に手錠と足枷をつけるのは心が痛みますからな』だ。あの小男!
喚くドリアを制しようと騎士がドリアの口を乱暴に塞いだ。
「汚ねぇ手で仲間に触るんじゃねぇよ! 木偶の坊っ‼︎」
俺の怒声に、その場にいた全員がびくりと体を震わせた。
腕を組み俺はドリアを掴む騎士を睨みつける。
反射的にドリアから手を放すと、騎士は俺を避ける様に後ずさった。
体が熱い。
耳の奥から自分の心音が聞こえてくる。
全身へと血液が猛烈な勢いで流れるのを感じた。
ーーそういうことかよ。
ドリアの言葉から俺は何が起きたのかをだいたい察した。
権力者である王子。町の武具屋。偶然通りがかったと言う冒険者。そして騎士団。
ーーこいつらは仲間だ。裏で繋がってやがる。ドリアを嵌めやがった。
俺は正面に座る王子へと注意を向けた。
俺の怒声に驚いた様子は消え、再び王子は平静と余裕を取り戻したらしい。
椅子に深く座り、優雅に見せつける様にチーズを頬張っている。
「さて、話を戻すぞ。ご覧の通り、お前の連れは窃盗の罪で捕まった。普通ならば懲役3年ほどの罪で、この刑務所で強制労働をさせるところだ。が、さすがにこの幼さで強制労働は辛いだろう。寛大な俺はちょっとした条件をお前が飲む代わりにこの小娘を解放してやろうと考えたわけだ」
にやにやと嫌味な笑みを浮かべながら王子は俺へと話しかける。
沸騰しそうな怒りを抑えつつ、俺は相槌を打った。
「それはどうも。それで? その条件とは何ですか?」
「なぁに。難しいことじゃない。そこに座る娘を俺に差し出すことだ」
さらりと言い放たれたその言葉は予想していた通りのものだった。
ブランカに対して随分とご執心らしい。
当然だが、そんな条件を飲めるわけがない。
魔物であるブランカをこの男がどうこう出来るとは思えないが、仲間を差し出すなんて演技でも俺はやりたくない。
ただ、横に座るブランカは不快そうな表情を浮かべつつも、どこか思案顔だ。
おそらく、いざとなれば力づくで逃げられるのだからここは自分が犠牲になろう、とでも考えているのだろう。
「そして、小僧。お前も俺の奴隷として働いてもらう。これがこの小娘を解放する条件だ」
王子の発したその言葉に俺もブランカも目を見開いた。
驚く俺たちを見て、王子が見たかった表情が見れたとでも言いたげに邪悪な笑みをみせる。
「そうだ。お前もだぞ、小僧。そこの娘と一緒に俺の側で働け。お前らは仲間だそうだからな。寛大な俺は寂しくない様に一緒にしてやろうと提案しているのだ。喜べよ。お前ら2人はセットで遊んでやる。俺がその娘で楽しんでいるときにお前も横で見ているんだ。楽しそうだろぉ?」
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