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30 傲慢王子にご注意を

 王子の言葉を受け、騎士2人が隊列から離れ俺たちの方へと歩いてきた。

 甲冑が擦れる音と騎士の足音。重量感のあるそれらの音に思わず緊張してしまう。

 群衆は俺たちから離れ、騎士達へと道を作るのも無リらしからぬことだろう。


 体格のいい騎士達は無表情のままブランカの前までやってくると、


「王子よりご指名だ。娘、こちらへ来い」


 そう言ってブランカの手を掴もうとしてきた。女性に対する気配りなどない、石ころでも拾うかのような無遠慮な手つきだった。


「ちょっと待った」


 俺が騎士の手首を掴むと周囲がざわめき始める。

 ちらりと視線を巡らせると、群衆が怯えたように俺たちへと注目しつつ後退していた。


「おい小僧。何のつもりだ」


 手首を掴まれた騎士が俺を睨みつける。騎士といえば凛々しく精悍な印象を抱かせるものだが、俺を睨む騎士の目は不愉快と侮蔑にまみれているように感じた。何というか品性を感じられない。


「それはこっちのセリフだよ。俺の友達をどうするおつもりで?」


「王子がこの娘をご所望なのだ。それ以上の説明は不要だろう」


 そう言って騎士は俺の手を振り払った。

 俺の周りに数人の騎士が集まってくる。


 ーーしまったな。やばい展開だぞ、これ。


 お辞儀を強要させるパレードや、理不尽な暴力。そして気に入った娘を強引に連れて行こうとする様子。

 

 どう考えてもこの国の権力は横暴だ。

 そんな連中の行動を俺は妨害した形となっている。


 馬車から王子が降りてきた。

 のっそのっそと俺たちの方までやってきた王子は、


「小僧。それ以上邪魔をするのなら『反逆罪』で捕まえるぞ。奴隷になりたいのか? ん?」


 意地悪そうに王子が言葉を放つ。周りにいる他の騎士もニヤニヤとバカにしたような笑みを見せてきた。


「奴隷は嫌っすね」


「そうだろな。だが、お前はすでに俺と騎士団の公務を妨害した。つまり!」


 王子が指を動かした瞬間、目の前の騎士が俺の顔面を殴った。

 群衆から息を飲む声が沸き起こる。


 どさっと地面に倒れる俺を見て、王子や騎士達が下品に高笑いをした。


「あはははっ! バカな小僧だ!」「我らに逆らうとは、頭の程度が悪いのだろう!」「無様だな!」


 ただ唯一、俺を殴った騎士だけはーー


「…………え?」


 不思議そうに自分の拳を眺めていた。


 ーーいきなり殴りかかるとか、どういう指導受けてるんだこいつら。


 地面に倒れながら俺は呆れていた。

 俺を殴った騎士が不思議そうにしているが、当然だろう。

 殴られる寸前に俺は自分から地面に倒れたのだ。

 騎士の拳は実際には軽く俺に触れた程度。ダメージはない。


 ーーさぁて、どうしたもんか。面倒なことになったな。


 地面に横たわりながら俺はちらりとブランカを見た。

 

 ブランカの顔は真っ赤だ。歯ぎしりし、うつ向きながら拳を握りしめている。

 どう見ても怒っているのだが、騎士に暴力を振るう様子はない。

 ……いや、よく見ると右手を左手で抑えている。殴りかかろうとしたのを理性で止めたらしい。


 ーーそれでいいよ、ブランカ。下手に暴れたらもっと面倒なことになるからな。


 正直なところ俺だって内心穏やかではないが、権力者って奴は厄介だ。ましてこんな横暴をしでかすような連中だからな。暴れたりしたらどんな報復を受けるか分かったもんじゃない。


 平穏のためなら多少の屈辱には耐えてやるさ。

 魔物であるブランカも200年生きているだけあって我慢というものを知っているらしい。


 ーーまぁ、ブランカに何かしようってなら最終的にはキレるけどさ。


 静かに怒気を孕みながら俺はもう1人の仲間を探した。がーー。


「こんにゃろー、ナイトに何すんだー!」


 聞こえてきたのは威勢のいい幼き声。


 俺はがばっと身を起こし声の主を視界に捉えた。

 腰に手を当てた町娘姿のドリアが、王子と騎士達を下から睨みつけている。


 意外な抵抗者の登場に騎士も王子も呆気にとられ、群衆は逆に興味を持ったのかドリアへと皆、注目し始めた。


「な、何だ小娘が。俺に文句があるのか!」


 王子が若干言葉を噛みつつドリアへと怒鳴った。だが、ドリアは動じる様子もなく、


「ナイトは何にも悪いことしてないぞ。お前すっごく嫌な感じだ。ナイトとわんわんに謝れタマネギ頭!」


 と元気よくはっきりした声で王子へと言い放った。


 瞬間ーー


 俺たちの周囲だけ時間が止まったかのように静寂が訪れた。

 

 誰も口を開かない。

 通りにいたほぼ全員の視線が1箇所へと集中する。

 騒ぎの渦中にいる1人の男。

 王子と呼ばれる小太りなその男の頭は頭頂部だけちょこんと髪があり、それ以外は無毛地帯。

 少ないその髪は油か何がで固められ、天に向かって尖っている。

 丸顔の男の顔と合間って、確かにその外見はーー


「早く謝って! 大人のくせに謝れないのか? 恥ずかしい奴だなタマネギ頭!」


「こ、このチビが! 誰がタマネギ頭だ! 無礼者め!」


 王子が叫ぶが、


「じゃあ球根頭か? あまり綺麗な花が咲きそうじゃないぞ、お前! 腐った球根だ!」


 それがトドメだった。


 俺も、ブランカも、群衆も、果ては騎士団員ですら、


「「「ぷっ!」」」


 小さく吹き出してしまった。


 王子も異変を察したのだろう。

 周囲へと睨んでみせるが、その怒りの形相と頭部との落差に、


「「「くふっ!」」」


 再び群衆から小さな笑い声が出てしまう。


 王子が羞恥かもしくは怒りなのか顔を真っ赤にさせ、目の前のドリアへと口を開いた。


「このガキが! この俺を侮辱しやがって! 騎士団長。このガキを痛めつけてやれ!」


 自分自身ではなく他人に非道をさせるところに、この王子の人格が現れていると言える。

 命じられた騎士団長もさすがに動揺していた。

 が、命令に背くわけにもいかず腰に装備していた剣を抜いてみせる。


「……腐った球根」


 ドリアの前で剣を握る騎士団長に聞こえるように俺は呟いた。騎士団長の動きが止まり、その表情が崩れる。


「おい! 騎士団長! 貴様笑っておるのか!」


「と、とんでもございません!」


 王子が一喝するが、騎士団長の表情には締まりがなくなっていた。

 他の騎士達も頬を噛んだり、下を向いたりと各々込み上げてくる笑いと必死に戦っている。

 

 突然、国の中央から鐘の音が聞こえてきた。

 鳴り響く鐘の音を受け、王子と騎士団長がびくりと体を震わす。


「お、王子。そろそろ王宮へ帰還する時間でございます」


「そんなことは分かっている! だが、この小娘と男が!」


「王子。ここは引きましょう。賢人会議に遅れては国王様より厳しいお叱りが」


 王子はまだ怒りが収まらない様子だが、さすがに国王の名を出されては、


「くそっ!」

 

 馬車に戻るしかなくなってしまった。

 逃げるように去っていく王子一団。


 連中の姿が完全に見えなくなると、周囲から歓声が上がった。


「ぶはははっ! お嬢ちゃんやるな」「面白かったわ。あぁ〜、胸がすくってこういう状態なのね」「おい、母ちゃん。夕飯はタマネギを使った料理にしてくれ! 皆で爆笑しながら食ってやろう」「これで王子が明日から髪型変えたら笑えるな。あははは」


 人々がドリアへと手を振ってくる。

 状況がよく分かっていない様子のドリアだったが、


「そうか。みんなあたいの凄さに感動したんだな」


 自分なりに納得したようで愛想よく手を振り返したのだった。


「ドリアがいてくれて助かったな。おかげで俺も面白かった」


「腐った球根は効いたわね。ドリアのネーミングセンスに助けられるなんて、変な感じ」

 

 俺とブランカに褒められ、


「えへへっ」


 ドリアは無邪気ににかっと笑ったのだった。






 ーー『風車の国』の王宮。その一室。

 円形のテーブルが置かれたその広い部屋には十数人の男達が椅子に座り、思案顔だ。


 特に豪華な椅子に座っているのはでっぷりと太った60近い男。

 その頭には金色に輝く王冠が乗せられている。


「では国王様。以上で会議を終了いたします」


 1人の男が発言すると、


「うむ。皆、ご苦労だった」


 国王と呼ばれた男は威厳たっぷりに頷いてみせる。


 国王の横には小太りで、頭頂部に髪が少しだけ生えた男ーー王子が座っている。


 不機嫌さがにじみ出ているその表情を見て、国王以外に座る男達は緊張していた。会議が終わると王子から逃げるように男達は部屋を足早に去っていく。


 ーーくそっ! 忌々しい。


 もともと義務ということで仕方なく参加している会議。これまでも王子は上の空で聞いていることが多いのだが、今日は特に話が耳に入らなかった。


 理由は明白。

 3時間ほど前の出来事のせいだ。

 狙った女を諦めなくてはならなかっただけでなく、童女に笑われ、群衆からも笑われた。


 思い出しても王子は怒りで腹が煮えたぎり、拳を握ってしまう。

 自室に戻ろうと席を立つが、父である国王に呼び止められた。


「息子よ。会議前に外を散策していたそうだな。この前の娘もよかったが今日はどうだった?」


「父さん。悪いけど今日は収穫なしだよ。極上の娘がいたんだけど、邪魔されてね」


「それは残念だ。お前のおこぼれを楽しみにしていたんだがなぁ」


 助平そうな笑みを浮かべる父親へと王子は今日の出来事を説明した。


「なるほど。それは良くないな。王族を笑うなど下賎な国民共に許されることではない。その者たちを処罰し権威を見せねば、バカな国民共は調子付くだろう。すぐさまその童女と男を処罰するべきだな」


 国王の発言に、王子は頷きつつも、


「いや、父さん。普通に処罰するんじゃあ、つまらない。あいつらの方から俺へと頭を下げざるを得ない状況を作る。散々屈辱を味あわせたあとで、無残に処刑してやるよ。この国におけるルールは俺と父さんだからね」


 邪悪な笑みを浮かべるのだった。





 王子との一件から数時間後。


 俺は旅支度をある程度済ませ、旅館の一室にいた。

 部屋にいるのはブランカと俺だけで、ドリアは外出中だった。


「新しい武器のアイディアがあるかも!」


 そう言ってドリアは小一時間前から商店へと出かけているのだった。


「ナイトからのアドバイスがピッタリはまったみたいだね。あの子買い物の時もハサミとか、のこぎりを見ながら植物で再現できないかブツブツ呟いてたもん。ドリアったら武器作りに夢中になっちゃったみたい」


 ベッドに寝転がりながらブランカが話しかけてくる。

 

「自信をつけてくれるのは良いけど、さすがにそろそろ帰って来てほしいな。ただでさえ、俺たちは昼間の件で危うい状況にいるんだからさ」


 俺は窓の外へと目を向ける。すでに陽は沈み、夕飯時だ。


「うー。心配し過ぎじゃない? 昼間恥ずかしい思いさせたんだもん。あのタマネギ頭も反省してるよ」


「むしろ全力で仕返ししてきそうなタイプに見えたけどな。くそっ、やっぱり今からでも出国するべきか」


「もー。臆病だなぁ。ナイトだってここの宿屋に『面白いもの見せてくれたから宿代は格安にしてやる』って言われて喜んで宿泊決めたくせに」


「そんなこと記憶にないなぁ〜」


 俺たちがそんな会話をしていると、ドアをノックする音が響いた。

 ブランカがフードをかぶり狼耳を隠すのを確認すると、


「どちら様ですか?」


 俺はドアの向こうにいる人物へと呼びかけた。


「すいませんねお客さん。その、騎士の方が宿屋の前に来てまして」


 声からして宿屋の主人らしい。騎士が来ただって?


「お客さんのお連れだった女の子がいらっしゃるでしょう? あの子が窃盗容疑で逮捕されたそうですよ」

 

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