28 技と名前
西岸地方へと到着した翌朝。
目を覚ました俺は柔軟体操と格闘の訓練を済ませると、
「たまにはやっておくか」
意識を集中し、自分の魔力へと働きかけた。
イメージを元に体内の魔力を練り上げると、俺の正面に親指サイズの赤い光の玉が現れる。
『光弾』、もしくは『魔弾』と呼ばれる上級魔法だ。
俺が見つめる先には1本の木があり、小さな実をたくさんつけている。
距離にしておおよそ15メートルほどだろうか。
黄色いその果実に向かって俺は光弾を放った。
赤い光弾に撃ち抜かれ果実が1つ落下する。
間髪入れず俺は瞬間的に100発近い光弾を形成した。
放たれた大量の光弾が曲線を描き地面に落ちる寸前の果実へと攻撃を加えていく。
攻撃を受け再び宙へと舞った果実へとあらゆる方向からそ次々と光弾が打ち込まれた。
数回の攻撃を受け、果実は宙を舞い続ける。
やがて、
「あらよっと!」
跳ね飛ばされ続けた果実は俺の元へと運ばれた。
空中の果実をキャッチした俺は、
「うん。威力と軌道のコントロールは絶好調だな」
成果に満足しつつゲットした果物を俺はかじった。
「うぇ、まずっ!」
果物を放り捨て、俺は再び魔力を練ると、
「お次は『封魔の鎖』だ」
空中へと紫色に輝く鎖を出現させた。
1本。2本。3本。4本、と。
連続で鎖を生成し続ける。
やがて頭の中に鈍痛を感じ始め俺は作業を止めた。
「うーん。1分間で40本作るのが限界か。いつもと変わらないな。まぁ、良しとするか」
生み出された鎖はどれも数秒程度で泡のように消えてしまった。
相変わらず維持は出来ないが、上々だろう。
魔法の練習を終え、俺は『魔物図鑑』を出現させると、
「うー。おはよう」
「あたい参上!」
狼少女のブランカと、緑のドレスを着た妖精のドリアを召喚させる。
「2人とも朝飯は食ったか?」
「私は食べたよ。体調もだいぶ良くなった気がする」
「あたいも大丈夫」
2人の返事を聞き、俺は図鑑からワイルドボア(大猪)とシェアリングクロウ(伝播烏)を召喚し、
「じゃあ、早速出発だ。移動はワイルドボアに乗っていくぞ。シェアリングクロウで周辺の様子を調べながら進んでいこう」
俺たちはワイルドボアに乗りながら森の中を進んでいた。
前から、ドリア、俺、そしてブランカの順にワイルドボアの背に座っている。
比較的木々の感覚が広いため、森の中は朝の日差しを受けとても明るく進みやすい。
木々の匂いを感じるたびに穏やかな気持ちになってきそうだ。
「ナイトって朝に訓練するんだね」
携帯食料を食べていると背後からブランカが話かけてきた。
「こういう放浪生活ともなればいつ荒事になるか分からないからな。剣術と魔法の鍛錬は続けないといけないだろ」
「ふーん。そのおかげでヴェノマム(惨毒蛇)を倒せたわけね。私、驚いたよ。あの蛇かなり強そうだったからナイトじゃ勝てないって思ってたもん」
「はっはっはっ! 見直したか?」
「うん。ナイトって逃げたり誤魔化したり卑怯なことしか出来ないと思ってたからさ。私、びっくりだよ」
「…………そ、そうか。そりゃあ、よかった。うん。
まぁ、実際のところあのヴェノマムを倒せたのは運が良かったからだけどな。幼体だったし、地形にも助けられた。俺だけの力だったら無理だったな」
「違うよ」
ブランカが後ろから俺へと抱きついてきた。
「そうやって毎日努力してたから運が味方してくれたんだよ。だから、あれはナイトの実力なんだよ。魔石をゲットしたのも、そのおかげで私を回復させることが出来たのもナイトの実力なんだよ」
ブランカは続けた。
「助けてくれてありがとうね、ご主人様」
服越しでも感じるブランカの体温と弾力。
そして首元で囁かれたことで俺は不覚にも返事が遅れた。
「お、おう」
ややあって、そう答えるのが精一杯だった。
「………………」
ちらりと前方へと注意を向けると、ドリアが俺とブランカへと呆れたように視線を向けている。
「な、なんだよドリア?」
「お邪魔ならあたい図鑑に戻ろうか?」
「気を遣わなくていいって! ていうかむしろ居てくれ! なんか小っ恥ずかしくなってきた!」
お昼を過ぎ、森を抜けた俺たちの前には緩やかに流れる小川と、
「おおお。すげぇ、風車だ」
「うー。いっぱいある!」
「なにあれ? なにあれ? あたい初めて見たぞ!」
その先に広がるたくさんの風車が視界に飛び込んできた。
風車の周囲には家々が連なっている。城壁に囲まれたまぁまぁな大きさの国だ。
「思ったより近くに国があったな。よし、次はあの国に行ってみよう」
昼休憩ということで俺たちは小川の岸辺へと移動する。
携帯食料を食べようとしたが、
「ちょっと贅沢するか」
気が変わった俺は魔法鞄から紙包みを取り出した。
中にはハムや魚の燻製が入っている。
魔法で火起こしをすると、俺は燻製を炙り始めた。
「むわぁああああああっ!」
途端にブランカが舌なめずりと共に息を荒げ始める。
「はぁはぁ、何これ? すっごくいい匂いがする」
「落ち着けって。尻尾振りまくってるぞ、ブランカ。ちゃんと分けてやるよ」
俺とブランカが燻製を食べている横では、
「むー。なかなかいける」
ドリアが小川の水を飲んでいた。
と言っても川に直接顔をつけて飲んでいるのではない。
ドリアは俺が見たこともない植物を出現させ、その植物を介して水を飲んでいるのだ。
「ドリア、その植物って何?」
「よくぞ聞いてくれましたなのだ! こいつはあたいが作った植物で、こうやって泥水を根っこから吸い上げるんだぞ。そんでもって」
そう言ってドリアは自分より少し高い位置に咲いている花の下に立つと、あんぐりと口を開いて待ち構えた。
やがて、花からピューっと水が吹き出しドリアは器用にそれらを飲み干した。
「こんな感じで綺麗な水にして出してくれるんだ! むふふ、あたいの自信作」
腰に手を当て、ドリアは平らな胸を自慢げに突き出してみせた。
「へぇ。便利ねそれ。私も飲んでみていい?」
ブランカが試してみると、
「んん! この水すっごく美味しい」
「むふふふふ! あたいの力は凄いだろ? 見直したかわんわん?」
「うん。びっくり。ドリアの能力って本当に便利よね」
こんな感じで穏やかに昼休憩の時間が過ぎていった。
食事を終え、火の始末をしていると急にドリアが俺へと声をかけてきた
「ねぇねぇ、ナイト? あたいってどうやったらもっと強くなれるかな?」
「なんだよ急に」
「んー。ほら、あたいの植物ってあの毒蛇に効かなかったじゃん。あたいがもっと強かったらナイトが危ない目に合わなく済んだし、わんわんだってそもそも毒を食らうこともなかったじゃん? だからさ。強くなりたいなって思ったの」
俺はドリアへと顔を向けた。
気を付けの姿勢でドリアは真剣な表情で俺を見上げてくる。
ーーそう言えばドリアはブランカへと泣きながら謝まっていたな。
ヴェノマムの件はドリアにとって苦い経験となってしまったらしい。
真剣に悩んでいるのなら、安い慰めの言葉は逆効果だな。
俺も主人として向き合わないと。
「そうだなぁ。今のところバトルしてる時のドリアって、植物を杭にして突き刺したり、薔薇の鞭で叩いたり、木の壁を作ったりしてるよな。ブランカの身体強化魔法と違って、ドリアは火力よりも攻撃手段の豊富さが武器になるんじゃないかな? なんていうか、新技みたいなのを作ってみたらどうだ?」
「新技かぁ、なんかいい響きだなぁ。新技。新技。むむぅ」
腕を組みドリアは考え始めた。やがてーー
「なんにも思いつかないっ!」
真顔で俺を見るドリア。
考えることは苦手なタイプらしい。まぁ、分かってはいたけどさ。
「そうだな。植物を操る能力。植物を改造することもできる能力か。うーん」
俺も腕組みをして思考を巡らせてみる。
「例えばさ、ドリア。俺の光弾みたいに種を飛ばして攻撃するとかはどうだ? できそう?」
「むむぅ。やってみる」
そう言ってドリアはドレスのポケットから黒い種を取り出すと、
「はああああああううううううっ!」
種を握りながら気合いを込めた奇声を発し始めた。
「そうやって魔改造するのかよ」
「むほおおおおおおおおおっううううっ! むぅ。できた!」
ドリアが種を地面へと放つ。すると時間が加速されたかのように地面から1本のユリの花が急速に生えた。奇妙なことにそのユリは花部分が大きく、葉が無く茎が極端に短い。
ドリアはユリを地面から抜くと、根元部分を握って構える。
ユリの根元は直角に曲がっているため、上ではなく前方に花が向いている状態だ。
「おりゃ!」
ドリアが小さく叫ぶ。
すると、バンッという破裂音とともに花から何かが高速で飛び出した。
人の親指より大きな種が高速で花から発射されたらしい。
飛び出した種が小川の中央にあった小岩へとぶつかると、大きな音を立てながら小岩が砕かれた。
「「「おおおおおおおおっ!」」」
全員がその威力に驚きの声をあげた。
「すごいじゃん、ドリア! そうやって武器が作れるならどんどん強くなれるぞ!」
「うー、やるわね」
「にひひひっ! あたいはやっぱ凄かった!」
ドリアの表情が輝いている。どうやら自信を取り戻したらしい。単純なやつだ。
「よーし、この花は『種ポンポン』と名付けよう。あたいの新しい植物だ」
「た、種ポンポン? どうみても『ポンポン』なんてレベルの威力じゃないと思うけどな」
「というより、そのネーミングはどうなのよ? かっこ悪い」
ブランカが呆れ顔だ。
「むむぅ。わんわんパンチと同じだと思うけどなぁ」
「ちょっと待った! わんわんパンチ? ドリア! あんた私の攻撃をそんな風に呼んでたの⁉︎」
「分かりやすくていいじゃん! あたいの目標はわんわんパンチの威力を超えること! もう決めたもんね!」
ドリアは俺へと笑顔を向けてきた。
「と言うわけでナイトも今度からわんわんに指示するときに使うんだぞ!」
「ええっ! マジで? 俺今度から、『ブランカ! わんわんパンチだ!』って言うの⁉︎」
「やめてよ! 想像するだけで恥ずかしい!」
結局ブランカの技名は不採用ということになった。
ドリアは納得いかないようだったが、新武器を手に入れたことでだいぶ機嫌が良くなっている。
こうして俺たちの昼休憩は平和に過ぎていくのだった。
「感想」「ブックマーク」は創作の励みとなります。
面白いと思ったら、ぜひ評価してください。




