表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/99

27 明日を夢見て旅まくら

「感想」「ブックマーク」は創作の励みとなります。

 面白いと思ったら、ぜひ評価してください。

 ブランカによって殴り飛ばされたヴェノマムは岩へとぶつかり悶えていた。

 

「ふーん。結構硬いわねコイツ。もうちょっと出力上げるか」


 そう呟いたブランカの体が白く輝き始める。強化魔法を全身に巡らせているらしい。


「ブランカ。そいつは首が一番柔らかいぞ」


「そうなんだ。で、この蛇はどうすればいいの? これだけ強靭だと気絶で済むくらいに手加減するのは難しいよ?」


 俺の呼びかけにブランカは肩回しをしながら答えてみせる。

 

 そうしている間にヴェノマムは体勢を整えていた。

 牙の一本がへし折れ口内から血が流れているが戦意を失ってはいない。大口を開き、威嚇するように鎌首をもたげてみせる。恐るべき闘争心だ。

 

 不意にヴェノマムが体を小刻みに震わせ始めた。始めてみせる行動にブランカも立ち止まる。

 やがてヴェノマムの全身からドロリとした赤い液体がにじみ出てきた。

 

 血のようにも見えるその液体が地面へと落ちる。

 すると、音を立てながら地面が溶け、窪みが形成された。


「毒の鎧ってわけか。とんでもないな」


 思わず俺は呟いた。

 紫色だったヴェノマムは今や真っ赤に染まっている。ヴェノマムの本気状態というところか。


「捕獲できるように手加減してたらこっちがやられる。ブランカ、全力で叩き潰してくれ」


 俺が言葉を発すると同時にヴェノマムはブランカへと大口を開けながら突進を仕掛けてきた。

 俺たちと争っていた時とは比べ物にならないスピードで、ヴェノマムがブランカへと噛み付こうとする。


 そしてーー

 ヴェノマムの頭部が消し飛んだ。


 その光景に一拍遅れて爆音が周囲に響く。

 ブランカの高速攻撃を受け、ヴェノマムは上顎から上を一瞬で失ってしまったのだ。

 恐ろしいことに頭を失ってなお、胴体はまだ蠢いている。そして恨みを晴らそうとするようにブランカの方へとめちゃくちゃに体をくねらせながら再度体当たりを仕掛けてきた。


「はあああああっ!」


 ブランカの蹴りがヴェノマムを吹き飛ばした。空中に打ち上げられたヴェノマムの胴体が岩へと落下する。

 ビクッと一度振るえると、事切れたのかヴェノマムの動きが止まった。

 砂ぼこりが舞い、地響きが起こる。


「なんてこった……あのヴェノマムをこんな簡単に倒すとは……」


 俺の隣でボスが大口を開けながら呆けている。


「お疲れさん、ブランカ」


 俺が呼びかけると、


「お疲れ、ナイト。ごめんね。私がミスったせいでこんなことになって」


 振り返ったブランカは狼耳をしょんぼりと垂れさせ、先ほどまでの勇ましい攻撃が嘘のように泣きそうな顔をしてみせた。

 強化魔法が解かれ、ブランカを包む光が消える。


「気にするな。あれは不意打ちだったんだ。無理ないよ。回復機能がギリギリ間に合ってよかった。体は大丈夫か? 素手であの赤い毒に触れたように見えたけど」


「大丈夫。魔法で体を包んでたから毒には触れてないよ。体調は……うーん、まだちょっとクラっとするかな? でも戦えるよ。ほっ、ほっ! てやぁっ!」


 元気アピールのつもりなのかブランカはパンチと蹴りを披露してみせる。

 が、垂れた狼耳からして本調子では無いようだ。もう一度『回復』を使ってやる必要があるだろう。


 ちらりとヴェノマムの亡骸を俺は見た。

 完全に死んでいる。その亡骸は透明になることなく原型を留めたままだ。

 体内の魔石はどうやらブランカの攻撃で破壊されたらしい。


 ちょっと残念ではあるが、なんとか1人の死者も出さずに洞窟を突破できたのだ。おまけに西側の入り口だけではあるが、ルートを潰すこともできた。

 十分に当初の目的は達している。

 魔石まで望むのは贅沢というものだろう。


 俺とボスはゆっくりと立ち上がった。

 まだ足が痛いが、いつまでもここで突っ立ているわけにもいかないだろう。


 俺は図鑑を開き、ワイルドボアとドリアを呼び出した。


「わああああっ! わんわぁん‼︎」


 現れるや否やドリアが涙と鼻水を出しながらブランカへと突撃した。


「あ、あたい、わんわんが死んじゃったがど思っだ。ぐすっ。うう、あたいが逃げながっだがらっ!」


「平気よ。もう大丈夫。私の判断も間違ってたしね」


「ああああ! うわぁあああんぁああっ!」


「もう、うるさいってば! それにあんたね。鼻水が服に着くって。離れなさいよ!」


「ぼおおおおおっ! おおおおおぅおんおおおお! ぶぅうう!」


「ちょっと! 私の服で鼻かみするな! このバカ妖精‼︎」


 怒りつつもブランカは泣きじゃくるドリアの頭を撫でている。

 狼耳もピンと立ち、気恥ずかしそうに微笑んでいる。


 そんな2人の様子に俺も自然と笑みを浮かべていた。

 

 



 ワイルドボア(大猪)に乗り俺たちは森の中を抜けて行く。

 魔物に出くわすこともなく、道中は極めて安全で快適だった。

 

「ブランカが大暴れしたおかげで森の魔物達も逃げ出したのかもな」


「さすがわんわんだな! まぁ、あたいだって同じことできるけどね!」


 俺とドリアの言葉に、


「ふん。あの程度で逃げ出すなんてこの森の連中は腰抜けね」

 

 ブランカは得意げに腕組みをしてみせた。

 服の一部が動いているのは尻尾を振っているからだろう。

 なんとも分かりやすい。まさにわんわんだ。


「今失礼なこと考えてなかった、ナイト?」


「別に。それよりおっさん。俺に復讐するんじゃなかったの?」


 俺たちと少し距離を置いてボスはワイルドボアの背に座っている。

 その体には『封魔の鎖』は巻かれていない。自由の身だ。


「……その狼嬢ちゃんの強さを見たら復讐なんかする気にならねぇよ。こっちがボコボコにされる。おい狼の嬢ちゃんよ。あんた、俺とロックリザードと戦ってた時は本気じゃなかったってことか?」


 ボスの問いかけにブランカはそうだよ、と返した。


「だって、あんな洞窟で私が本気出したら洞窟壊しちゃうよ。皆生き埋めになるのは嫌でしょ?」


「冗談に聞こえないな。おい、小僧。間違ってもこの嬢ちゃんと喧嘩しないほうがいいぞ」


「肝に銘じとくよ。ところでおっさん。そろそろ森を抜けるぜ。この先におっさんの故郷があるんだろ?」


「そうだ。だが、帰ったところで俺は牢獄にぶち込まれるだろうな。結局東西のルートは確保出来なかった。…………また犯罪者扱いか」


 ボスが力なくため息をつく。

 俺もブランカ達もそれ以上は何も声をかけられない。

 

 そうこうするうちに俺たちは森を抜けた。

 ワイルドボアを止め、森の先に広がる光景を見た俺は、


「これは……」


 言葉が出なかった。


 森の先には泥水に浸かった国の姿があった。

 茶色く濁った水によって家屋や畑などが汚され破壊されている。

 もう少し遠くには教会や王宮らしき建造物が見えるがその土台あたりも水没していた。

 

 水が流れている様子はなく、淀んだ水が留まったまま。


 小舟によって子供達が運ばれる姿。騎士らしき男達が懸命に土嚢を運び、水の流れを変えようと奮闘している様子。泣き叫ぶ女性や、地面へとうずくまり呆然としている若者たち。

 

 そうした光景があちこちに溢れていた。


「うー、水害だね。堤防でも決壊したのかな?」


「あたいこういうの初めて見たよ」


 俺の後ろからブランカとドリアが顔を出す。

 

「……そういえば、洞窟の中で水漏れがあったな。地上で大雨でも降ったのかも。なぁ、おっさ……」


 振り返った先にボスの姿はなかった。

 いつの間にワイルドボアから降りたのか、ボスはふらふらと俺たちを置いて祖国の方へと歩いていく。

 拳を握り、肩を震わせ、ぶつぶつと何か呟いていた。


「馬鹿野郎が……第1、第2堤防が決壊してやがる。あそこはこの国の要だから補強策を施せってあれほど言ったのに……それに、排水もまるで進んでない。この様子だと水害が起こって3日目くらいか? 水魔法使いの連中は何をしてやがるんだ……」


 国へと通じる坂道を下り始めるボス。

 俺はその背中へと呼びかけた。


「助けに行くつもり?」


 ボスの足が止まり、俺たちへと顔を向けた。


「当然だ。俺はあの国を守る土魔法使いだぞ」


「おっさんを牢獄に閉じ込めるような見る目のない国だろ? 助けたところでまた牢獄にぶち込まれるんじゃないかな?」


「……構わん」


 そう言い残しボスは再び歩き始めた。

 

「嫌なことされたのに助けに行くとか変なの」


 ドリアが不思議そうに首を傾げる。


「俺たちには分からない愛着や使命感みたいなものがあるんだろ」


 ドリアへと言葉をかけながら、俺は『魔物図鑑』を取り出しあるページを開く。


 次の瞬間、低い重低音と共に地響きがおきた。森から鳥達がやかましく鳴きながら飛び出してくる。


 さすがにボスも音のする方へと振り向いた。

 その視線は、俺たちの横へと召喚された岩の竜に擬態した魔物ーーロックリザードへと向けられている。


「こいつは返すよ、おっさん!」


 俺の呼びかけにボスが目を丸くしたが、俺は構わず続けた。


「こいつのパワーと巨体があれば色々と便利だろ。俺は他に優秀な仲間がいるからこんなドラゴンもどきのトカゲなんて要らないんだ。ほら、主従契約をやり直すまでは動きを抑えててやるからさ、早く手駒にしなよ」






「本当にロックリザードを返して良かったの、ナイト?」


 ボスと別れてから1時間後。

 大山脈の麓に沿ってワイルドボアを走らせた俺たちは小さな川の近くで休憩をしていた。

 

 洞窟探検ですっかり汚れた服を洗濯していると、後ろからブランカが俺へと話しかけてきたのだ。その後ろには洗濯物を干すためにドリアが木々へとロープを張り巡らせていた。


「良いんだよ。俺よりおっさんのほうが多分使いこなせるだろうし、必要だったはずだ。それに俺はこれからもっと面白い魔物を仲間にするから1匹くらい手放したって問題ないさ。ブランカとドリアっていう頼もしい仲間もいるしな」


「まぁ、ナイトがいいなら別にいいけどさ。うーん、それにしても洞窟探検長かったね。これからどうするの? 無事に西岸地方には着いたわけだし、魔物を捕まえまくるの?」


「もちろんそのつもりだ。でも今日のところはこの辺で休もう。久々に岩以外のところで寝たい。冒険はまた明日からだ」


 洗濯物を吊るし終えると、俺たちは早めの夕食を準備した。

 焚き火を起こし、干し肉を炙る程度の簡単なメニューが出来上がる。質素な夕食だが、それでも3人で洞窟探検の話を交わしているとあっという間に時間が過ぎ周囲が暗くなった。

 

「それじゃあ、ナイト。また明日ね」


「風邪ひいちゃダメだぞぉ。おやすみ」


 ブランカとドリアを『魔物図鑑』内に戻し、俺も適当な木に寄りかかった。


 目を瞑り、頭に浮かび上がるのはここ数日の目まぐるしい出来事の数々。

 我ながら濃厚な日々だった。


 多分、明日からも慌ただしい日々が続くだろう。

 なにせここは西岸地方。

 俺にとっては知人もいないし、勝手もわからない未知の土地。

 落ち着けるようになるには時間がかかるはずだ。


 でも不思議と不安はない。

 頼もしい仲間。危機を乗り切ったという経験。そしてーー


「なんか生きてるって感じだな」


 そう呟き俺は眠りについた。

 

 まだ見ぬ明日に備えるために。


 俺たちの冒険はこれからなのだ。

 

「感想」「ブックマーク」は創作の励みとなります。

 面白いと思ったら、ぜひ評価してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼1クリック ご協力お願いします▼
script?guid=on小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ