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22 地下空間進行中

「感想」「ブックマーク」は創作の励みとなります。


面白いと思ったら、ぜひ評価してください。

 広間の奥へと進み始めて1時間ほどが経った頃。

 

 先頭には操った盗賊たち20人ほどを歩かせ、俺とドリアはその後ろを進んでいた。

 俺たちの後ろにはブランカとその横で鎖に繋がれたボスが続き、さらにその後ろを残りの盗賊たちが呆けた表情で付いてくる。

 聞こえてくるのは俺たちの足音だけ。

 松明と照明魔法がなんとか視界を照らしてくれるが、圧倒的な闇の濃度に緊張は高まる。


 洞窟の道幅が狭くなっていき、大人が7人ほど並列して歩けるほどの幅になってきた。

 ボスは蛇の王によってこの洞窟は作られたと話していたが、確かに洞窟内はは巨大な円筒形の物体が這いずったように緩やかな蛇行を繰り返している。道幅から大蛇の大きさを想像してしまい、思わず俺は顔をしかめてしまった。

 

 やがて俺たちはやや開けた場所に出た。

 薄暗いその先には5つの穴がぽっかりと空いている。

 指先に灯していた光を強めてみるが、俺の目では穴の先がどうなっているのかはまったく分からない。果てしない闇が続いているだけだ。


「5つのルートに別れるのか。厳しいな。うーん。穴の大きさはだいたい同じか」


 予定通り俺は盗賊たちをグループ分けし、それぞれのルートに進ませた。

 幸いなことにその内4つのルートはいずれも大した距離を進むことなく行き止まりとなった。

 すぐに盗賊団を引き揚げさせ、俺たちは正解のルートへと進んでいく。


「うー。今みたいな感じですぐに行き止まりだと助かるんだけどね」


「そうだな。でもここから先はそうも行かないだろう。全部の道がずっと続いているかもしれないし、魔物だって出てくる」


 ブランカとそんな会話をしてみるが、残念ながらそんな事態となってしまうのだった。


 しばらく進んでいると、俺たちの前に3つのルートが出現した。

 盗賊団を4チームに分け、そのうち3チームにルートを探索させる。しかし、3つのルートはどこまでも続き、正しいルートであるかの決定打も見つからない。

 

 そうこうしているうちに1つのチームがゴブリンの集団と出くわしてしまった。

 ゴブリン。

 小鬼とも呼ばれるその魔物は大きさこそ人間の半分程度だが、性悪で、凶暴。

 何よりも群れで行動する点で厄介な存在だ。

 人間の半分ほどの大きさの魔物が、わめきながら盗賊団へと原始的な武器を投げつけて襲撃してくる。


 そのチームにはワイルドボア(大猪)を護衛につかせていたのだが、ゴブリンたちは多過ぎた。防御しきれる様子ではない。

 俺はチームを引き揚げさせるしかなかった。

 ワイルドボアを操作し、盗賊団が逃げられるようにゴブリンたちを足止めすることで、なんとか誰1人欠けることなく撤退に成功する。


 残り2つのルートのうち、1つが人間が進めないほどの道幅となったことを確認し、


「もう1つのルートを進んで行こう。ゴブリンがいたルートは一旦保留だ」


 俺たちは地道に洞窟内を進んでいった。


 基本的には一番道幅の大きいルートを選びながら俺たちは洞窟内を探索して行く。


 大蛇によって生み出されたルートという伝説の通りなら、正解のルートはだいたい同じ道幅をしているはずだ。空気の流れや匂いなども参考にはしたが、結局のところ俺は伝説を信じてみることにしたのだ。


 道幅が同じようなルートが分岐しているときは盗賊団の出番。


 魔物が出現した場合は俺やブランカたちが撃退、もしくは捕獲した。


 空が見えないため、洞窟内では時間の感覚が次第に狂う。

 スタートしてどれくらい経過したのかはもはや不明だが、盗賊団たちが疲労してきたのを見て俺は休憩を取ることにした。


 鞄から食料と水を取り出し、連中へと配給する。

 

 護衛につかせていた魔物たちも一度図鑑に戻し休息させることにした。


「じゃあ、ドリア。ゆっくり休んでいてくれ。ドリアの休憩が終わったら、次はブランカの休憩だ」


「わかった! じゃあわんわん、またあとでね!」


 ドリアの姿が消え、出現している魔物はブランカと盗賊団を操るための3種だけだ。


「わんわんって呼ばれるの訂正しないのか?」


 俺の問いかけに、


「もう諦めた。あいつ馬鹿だもん」


 肩をすくめながらブランカが答える。ただ、諦めたと言う割にはその表情は柔らかく、呆れている様子は見えない。


「出来の悪い妹を持った気分。困ったちゃんね」


 微笑みながらブランカはそんなことを口にした。


 そのブランカの横ではムスッとした表情で盗賊団のボスが鎮座している。

 『封魔の鎖』が窮屈と見えて、ときどき体を動かし疲れない体勢を探しているようだった。


「そう言えばおっちゃんたちって、西岸地方からこっちまで洞窟を抜けるのにどのくらいかかったの?」


「…………4日くらいじゃないか? 正確な日数は分かんねぇよ。洞窟の中じゃあ太陽も見えんからな」


 俺の方を見ることなくボスは問いかけに答えた。


 4日か。

 食料の残量から考えれば何とかなる日数だ。

 それに普通に西岸地方へ行こうとすれば大山脈を回避するのに80日近くかかる。

 そのことを考えれば破格のショートカットと言えるだろう。


「おっさんは脱獄囚らしいけど、よくこのルートのこと知ってたね。知ってたとしてもよく使う気になったもんだよ。俺が言えることじゃないけどさ」


 携帯食料をかじりながら俺はおっさんへと聞いてみた。

 

「俺だっておっさんたちが突破に成功したっていう前例がなきゃ、こんな洞窟を進む気にはならなかった。おっさんはどうしてここを進む気になったんだ?」


「なんだよ急に。俺の事情なんか知ったって何にもならないだろう」


「先駆者への興味さ。それにひょっとしたらその事情に洞窟攻略のヒントがあったりするかもだし」


 自由に動かせる左手を使い、おっさんは俺が与えた携帯食料をかじった。

 なにやら思案している様子でしばらく目を閉じおっさんは沈黙する。

 やがて、


「俺は王宮に仕える魔法使いだった」


 ゆっくりと口を開いた。


「俺の住んでいた国は昔から水害が多い場所だった。そういう事情もあって堤防を築くことのできる土魔法は重宝されていてな。俺もその使い手の1人。それなりにいい暮らしをしてた。水害がないときは堤防の見回りをするだけだから、時間が余った。そんな時に俺は趣味でやっていた地質の調査と研究をしている途中でこの洞窟の存在を知ったんだ」


「なんだ。やっぱり良い仕事に就いてたんじゃん」


「まぁな。やがて俺はその洞窟が大蛇伝説の舞台である可能性に気付いた。東岸地方と西岸地方をつなぐルートが祖国の近くにある。とんでもない話だ。もし安全なルートとして確保できれば祖国の発展に大きく貢献する話になる。早速俺は国王へとこの洞窟のことを報告しようとした。

 ところがだ。王宮に着いた俺はその場で逮捕されちまったのさ」


「逮捕?」


「数日前から降り続いた雨で農村部が洪水被害を受けたらしい。その地区の堤防は俺が作ったものでな。魔法の綻びが原因で堤防が決壊したって結論づけられてた。つまりは俺が堤防作りをミスったって調査に当たった魔法騎士団どもが国王へ報告したわけよ。堤防の決壊は担当した魔法使いの責任であり、重罪。俺はろくな裁判もさせてもらえないまま獄中へと放り込まれた」


「ふーん…………でもおっさんは自分のミスじゃないと思ってるんだ?」


「なんでそう思う?」


「勘かな? さっき戦ってみた感じだとおっさんはかなりの土魔法の使い手だろ。それにしゃべっている間、おっさんは何ていうかこの場にいない誰かに怒っているように見えたからさ」


「…………報告書を見せられて愕然とした。初歩中の初歩の作業工程に重大なミスがあったと。自惚れていると思われるかもしれんが俺の土魔法はかなりのレベルにあると自負している。報告書にあるようなつまらんミスなどしない。証拠はないが俺のことを疎ましく思っている奴が何らかの細工をしたんじゃないかと考えた。投獄された後に王宮内の人事に関する新聞記事を読んで自分の考えが合っていると確信した」


 その時のことを思い出したのか、拳を握りボスは歯を食いしばっている。

 

「俺の家や財産は色々と因縁をつけられ没収された。地位も剥奪され、俺は懲役30年の刑を受けることが決まった。怒りと悔しさで頭がどうにかなりそうだったな。なんとか名誉を回復させる手はないかと考えるといつも洞窟のことが頭に浮かんだよ。東西を結ぶルート。その発見者となれば名誉を回復できるのではってな」


「ふーん」


「だが、事態は俺の願いとは逆行する形になった。投獄されてから2年後に、別の魔法使いによってこの洞窟が発見されちまったのさ。しかも、そいつは俺を貶めたであろう魔法使いだった。多分、没収した俺の家にあった資料を読んだりして気づいたんだろう」


「ありゃりゃ。そいつは辛いな。心中お察しするよ」


「……そいつは早速国王に洞窟の存在を報告した。国王は洞窟内の調査を行おうとしたようだが、先発した報告部隊が早々に撤退した。洞窟内の魔物を突破できなかったのさ。悩んだ末に国王は俺に目をつけた。土魔法の使い手である俺なら洞窟を突破し、東西のルートを確立できるのでは、とな。他の魔法使いーー特に俺を陥れた奴は反対したようだが結局は国王の考えは変わらなかった。俺と100人近い囚人は洞窟の探索隊として洞窟探索に駆り出されたわけよ」


「そういう事情だったわけか。俺はてっきり脱獄して逃げるために洞窟を抜けたのかと思ってた。悪人面だしさ、おっさんたち」


「好きで盗賊なんかやってない。東岸地方で生活していけるだけの信用も財もなかったし、仲間は皆元犯罪者だ。まともな仕事などする気もない奴らさ。生き延びるために盗賊をしていただけだ。俺自身もう一度地獄の洞窟内を抜けるなんて考えたくもなかったし、故郷に戻れないことで自棄になっていたかもしれん」


「引き返す気がなくなるほどこの洞窟は厳しいのか」


「出発当初は俺も含めて洞窟探索はせいぜい道に迷うくらいしか問題点はないだろうと考えていた。だが、洞窟を進むうちに俺も仲間たちも洞窟の洗礼を受けることになった」


「そう言えば蛇の魔物がいるから抜けられないって言ってたよね。ロックリザードを支配するようなおっさんが手こずるような相手なの?」


 俺の疑問におっさんはしばらく黙った。怒りの表情が消え、浮かび上がっていたのは恐怖の表情だ。


「ゴブリンや牙獣どもなら俺の魔法やロックリザードで対抗できる。そうでなくとも5剣を始め100人近い数の力で俺たちは洞窟内をほぼ安全に攻略できていた。だが、奴だけは。奴らだけはダメだった。逃げるしかない」


 おっさんが口を開く。


「惨毒蛇ヴェノマム。この洞窟における生態系の頂点にいる大蛇だ」


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