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21 コンボの成功と探索開始

 『魔物図鑑』を開いた俺はルナアウル(月梟)を召喚した。


「おおっ、あたいこの子好きだぞ。もふもふで可愛い」


 ドリアが俺の肩に留まったルナアウルを取り上げ、撫で始める。ルナアウルも心地良いのか無抵抗にされるがままだった。


「ふん。宝具持ちだったのか。複数の魔物を使役するのも合点した。しかし、そのフクロウの魔物でどうするつもりだ? そいつは目を合わせた奴を操る力があったと思うが、せいぜい1人しか操作できない。俺たちを従わせることなど不可能だぞ」


 ボスが俺の図鑑を睨みながら疑問を口にした。

 

 ボスの質問を無視し、俺はさらに図鑑から『イコールスライム』を召喚する。


「げっ! そいつって!」


 露骨に嫌がるブランカの前に現れたのは、ぐねぐねとその不定形の体を蠢かせる半透明の魔物。

 俺はイコールスライムを手で掴むと、


「よっと!」


 次々とその半透明の体を引きちぎっていった。

 ブチブチとスライムをちぎり続け、イコールスライムは60近い体へと分離した。


「スライムって魔物は弱いと言われるけど、実際に対峙するとなかなか厄介だ。普通の武器じゃあ致命傷にならないからな。一般人には十分脅威だよ。見ろ、すげぇ生命力だ」


 俺の言葉通り、体を60片にちぎられたというのにスライムは元気良くぐねぐねと動き続けている。図鑑の記述によると、このまま分離した体がそれぞれ生き続けることも出来るし、集合して再び一個体になることも出来るらしい。戦闘では弱いのかもしれないが、眼前で広がる光景をみるとスライムが弱いだけの魔物とは思えない。十分に強かな存在と言えるだろう。


 ちぎったスライムを俺はボス以外の盗賊たちの頭へとくっつけていった。

 ひんやりとしたスライムをくっつけられ、男たちが冷たさと嫌悪感から小さく悲鳴をあげる。

 

「つ、冷てぇ」「スライム? まさか俺たちを食わせる気か!」「な、なんか感覚がおかしいぞ」


 男たちが動揺する様子を眺めつつ、


「召喚。シェアリングクロウ(伝播烏)」


 次に俺が召喚したのは70羽のカラスの魔物。

 洞窟内を飛び回るシェアリングクロウへと俺は指示を飛ばす。


「イコールスライムの上に着地しろ」


 俺の指示を受けて、シェアリングクロウたちが一斉にイコールスライムの上へと着地する。

 つまり、スライムを乗せられた男たちの頭に1羽ずつカラスが乗るという滑稽な絵面の完成だ。


「きゃはははっ! おっさんの頭にカラス。いっぱいカラス乗ってる! なんだこれ!」


 ドリアがたまらず腹を抱え笑い始めた。よく見るとブランカも笑いを堪えているのか肩を震わせている。

 俺自身、想像以上にシュールな絵面に笑いそうになるがなんとか堪え、


「さぁ、ルナアウル。出番だぞ。シェアリングクロウのボスへと催眠をかけてくれ」


 ドリアの腕から飛び立ったルナアウルが、岩の上にちょこんと立っている一際大きいシェアリングクロウの横へと着地する。

 ルナアウルがその催眠作用のある視線をシェアリングクロウのボスへと放ち始めた。

 シェアリングクロウの挙動が止まり、そして次第にふわふわと体を左右へと揺らし始める。催眠が効き始めたらしい。


「ルナアウル、今から俺の言う通りにシェアリングクロウのボスへ催眠をかけろ。『立て!』」


 俺の命令を受け、催眠術にかかったシェアリングクロウのボスがぴょこっと上体を動かした。

 そして、それと同時にーー


「なっ! お前たち、どうして!」

 

 盗賊たちも同じように立ち上がったのだった。

 男たちは眠そうに口を半開きにした締まりのない顔を晒している。メディックビーの痺れ毒の影響なのか男たちの体はガクガクと痙攣しているが、それでも命令に従おうと懸命に四肢へ力を込めているようだった。


「実験成功。どうやらいけそうだな」


「こ、小僧。一体何をしたんだ! 俺の部下達が、なんで、お前の指示を」


 俺がメディックビーを放ち回復薬を盗賊たちへと打ち込ませていると、ボスが信じられないといった様子で疑問を俺へとぶつけてきた。


「イコールスライムはくっついた他の生物と感覚を共有する。それは知っているだろ? じゃあ、スライムを挟んで2匹の生物がくっついた場合はどうなるか。そうすると2匹の感覚がスライムを通じて共有されることになるんだよ。今、盗賊のおっさんたちと頭に乗っているシェアリングクロウは感覚がイコールになってるってわけ」

 

 俺は説明を続ける。


「そして、シェアリングクロウは仲間同士で視界を共有する能力をもっている。1匹が見た光景は他の仲間にも伝わるのさ。ここまで言えばなんとなく分かるだろ? ルナアウルは目を合わせた相手を操ることができる。じゃあその視線を受けたシェアリングクロウの視界はどうなるか。そう、仲間内で共有される。そして今、おっさんたちはシェアリングクロウとイコールスライムの能力で感覚をーー視界を共有している。ルナアウル1匹から放たれた催眠術はシェアリンウグクロウとイコールスライムによって盗賊団全員へと伝わり効力を発揮するってわけさ」


 俺は隊列を組むように命令を出した。

 思った以上に盗賊団はきびきびと動き、数秒後には俺の前に5チームの隊列が形成された。

 

「どのくらいの精度で操れるかが不安だけど、これで優秀な探索隊が結成できたってわけだな」


「うー、あのスライムとカラスにこんな使い方があるなんて」


「ぶふっ! でも変な光景だな!」


 ブランカもドリアもそれぞれ感想を口にしながらふらふらと動く盗賊団たちを眺めた。


「さて、探検するにあたって食料は必要だ。俺の魔法鞄へと食料を詰めるだけ詰め込んでしまおう。『お前たち。広間の隅に置いてある食料と水をこの鞄へと詰めるだけ詰めろ』」


 俺の命令を受け、男たちは早速行動を開始する。

 食料の詰め込み。武具の確認。ランプなどの光源の準備。


 もろもろの支度をテキパキと男たちはこなして行く。


「ルナアウル。シェアリングクロウ。そして、イコールスライムか。今後もこのコンボは色々と使えそうだな」


 男たちの働きぶりに俺は大満足だった。1時間もかからず出発の準備が整った。

 松明、もしくはランプを持った男たちが⒌列に並び、俺の指示を待っていた。


「こんなことが……そんな、バカな……うぅっ!」


「ほら立ちなさいよ。出発するんだからね」


 部下達が俺の傀儡と化したことにボスはショックからか呆然と口を半開きにしていたが、ブランカに鎖を引っ張られ仕方がなく立ち上がった。


「あんたは私と一緒に行動よ。大山脈を超えるまでは魔法は封じさせてもらうからね」


「くそぉ、この犬っころが」


「犬じゃない。狼よ。も〜、食ってやろうかしら」


 狼耳を指差しながら、ブランカはボスを洞窟の奥へと連れて行く。

 

「それじゃあ、これより洞窟の攻略を始める。諸君の働きに期待するぜ。んじゃあ、出発」


 俺の命令とともに、操られた盗賊団が歩み始める。

 かくして洞窟の攻略が始まった。


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