20 正体と人望
図鑑を開き、俺は追加された魔物のページを開いた。
「なるほどね。そういうことか」
図鑑を読みながらブツブツと呟く俺へとブランカとドリアが近づいてきた。
「何をブツブツ言ってるの、ナイト。戦いの中で頭でもおかしくなったの?」
「あたいにも図鑑見せてよ! ドラゴンのことが知りたいぞ!」
口々に言葉を発する2人を無視して、俺はロックドラゴンの方へと向く。
視線の先にいるロックドラゴンは体をすでに再生させ、ぼーっと突っ立ていた。
「ロックドラゴン……いや、ロックリザードよ。姿を見せろ」
俺の言葉にブランカもドリアも、そしてボスも目を見開く。
命令を受けたロックドラゴンの体にひび割れが広がった。
がらがらと音を立てながら崩れるドラゴンの体。そして、その尻尾の根元辺りの岩だけを残し全ての岩が地面へと積もる。
浮遊している岩の隙間から白く光るトカゲが1匹姿を見せた。大きさは50センチほど。
「ロックリザード。周辺の岩を身に纏い他の生物へと擬態する魔物だ。擬態する姿は個体ごとに違うが、こいつの場合はドラゴンの姿に擬態するらしいな」
俺が図鑑の記述を読み上げると、
「ええええっ! ドラゴンじゃないの! 偽物⁉︎」
ドリアが残念そうに肩を落とした。
「トカゲが擬態していたわけね。ドラゴンにしては弱すぎると思った」
ブランカが得心がいったという感じで頷く。その横でドリアが地団駄を踏みならした。
「むわぁ〜せっかくドラゴンに会えたって思ったのにぃ〜あたいの感動を返せ!」
「あんたね。本物のドラゴンだったら今頃殺されてるわよ」
「でもドラゴン見たかったんだもん」
「はいはい。落ち着きなさい、ほら」
ブランカがドリアの後ろに立ちその頭を撫で始めた。撫でられたドリアは不満げな表情からうっとりとした顔つきへと変わり、ブランカへ甘えるようにもたれかかった。
共闘を通じて少しだけ2人は仲を縮めてくれたらしい。
「お疲れ様だ2人とも。良い連携だったよ」
「うー、お疲れ。ナイトはドラゴンじゃないって分かってたの?」
「人間がドラゴンなんて操れるわけないし、図鑑の捕獲条件が『外殻を破壊して、本体を見る』だったから、あの姿が偽物とは思ってた」
「なるほどね。それで? ボスはどうするの? あと5剣って人たちも」
「5剣にはメディックビーの痺れ毒を刺す。このボスにはーー」
俺は自分の右手へと魔力を集め、紫色に輝く鎖を作り出した。
「この『封魔の鎖』を使う」
鎖が俺の手から離れ、ボスへと巻きつき始める。
「なっ⁉︎ 小僧、なんでそんな上級魔法を! くそ、離せ!」
疲労と魔物を奪われたショックからか、ボスは俺の鎖に満足な抵抗もできず身動きを封じられた。
「このボスはブランカに任せる。ブランカはこの鎖を握って魔力を注いでくれ。俺じゃあ出現させるのが精一杯で鎖の維持なんて出来ないんだ。頼む」
「いいよ。でもこのボスって魔法使いでしょ? こんな鎖で縛っても魔法で抵抗するんじゃない?」
「その鎖は魔力を抑制するんだ。ブランカの魔力で鎖が維持されている限り、そのおっさんは魔法を使うことができない」
「ふーん、便利ね」
ブランカの魔力が鎖に注がれる。禍々しい紫光を輝かせ、鎖はその効力でボスを完封する。
こうして俺たちは『岩窟の盗賊団』を制圧してしまったのだった。
「さて、西岸地方に向けて洞窟を攻略しようと思うわけだけど」
ロックリザードを捕獲してから小1時間後。
洞窟の広間にて俺たちは昼食を取っていた。
炙った肉を頬張るブランカ。小瓶から水をラッパ飲みするドリア。
その2人に挟まれる形で俺は椅子に座っている。その椅子は先ほどまでこの盗賊団のボスが座っていたもの。
そして俺たちと対面する形で盗賊団が広間へと集まっていた。
メディックビーの毒によって盗賊たちは体が痺れている。そのため、広場には50人近い男たちが呻きながら寝転がるという異様な光景が広がっていた。
そんな部下達を背に盗賊団のボスは『封魔の鎖』に縛られた状態で座っている。
「道案内してくれる気にはなった? おっさん?」
「こんな目にあって素直に首を縦に振るやつはいねぇだろうよ、小僧が」
俺の言葉にボスは歯茎をむき出し、敵意丸出しの返答をしてみせる。
「蛇の魔物を中心に洞窟内には魔物がいるそうだけど、少なくとも1回はそのルートを突破してここに来ているんだよね? 突破は不可能じゃないってことだ。前回はどんな風に攻略したのかだけでも教えて欲しいな」
「教えねぇよ。もう無駄だ。このルートを安全に突破できるとしたら、この洞窟を作り出した蛇の王だけだろうよ」
「蛇の王?」
「……西岸地方にある伝説だ。ドラゴンとの戦いに敗れた蛇の王が大山脈を越えるために地中を潜り、東岸地方へ抜け出たっていう与太話よ。真実がどうかは分からん。だが、洞窟内には大蛇もいる。連中は案外その蛇の王の子孫だったりしてな」
「……他にはどんな魔物がいる? 洞窟は一本道じゃないよね? どうやって正しいルートを判断すればいい?」
「教えねぇ。というより俺も分からん。すっきりする攻略法なんてない。世の中には未知の空間であっても正確な地図を作り出せる宝具があるそうだが、そんな便利なものがない以上は手探りで攻略するしかねぇよ」
「教えないって割には結構喋ってくれるんだ、おっさん」
「話したところで無駄だからな。小僧、てめぇが何体魔物を使役するのかは知らん。が、知能を持つ魔物は流石にその姉ちゃんと妖精だけだろ? 3人だけで複雑な洞窟を進めば迷うことは必至。諦めるんだな」
意地悪そうに口元を歪めるボス。
その言葉に嘘は感じられなかった。言いたいことを言ってやったという感じで、どこかボスの表情はすっきりとしているようにも感じられる。
「道中の魔物はどうやって対処したんだ? あんたのロックリザードで倒したのか?」
「さぁな」
「叶うなら西岸地方に帰りたいとか考えてたりする?」
「……さぁな」
これ以上喋るつもりは無いだようだ。
口には出さないがおそらくはロックリザードと魔法で魔物を攻略したのだろう。ボス以外でこの盗賊団には他に戦力になりそうなのが5剣くらいしかいない。そして生身である5剣たちが強力な魔物を倒すのは困難。
ボスを倒し、その力の片割れであるロックリザードを手に入れたことで俺たちの洞窟攻略はプラスの要素を手に入れたと言える。
戦力的には洞窟内の魔物に対抗できると考えて良いだろう。
そうなるとやはり問題なのは正しい道順を知る方法だ。
手探り、とボスは言った。
盗賊団は60人近くメンバーがいるから、数グループに分かれて道を1つ1つ調べながら進んだということか。原始的だが、間違いのない攻略法といえる。
そして、その方法はボスの言うように俺たちにはできない攻略法だ。
魔物を操ることができると言っても、安全なルートか正確なルートかの判断まで遠隔で確認することはできない。俺は魔物たちの感覚を共有しているわけじゃないからだ。かと言って例えばワイルドボアが数キロ先のルートの情報を俺に報告できるかと言えば無理だろう。言葉が通じないし、そもそもそんな知能もない。
知能のあるブランカとドリアに頼みたいところだが、2人は俺にとって最強の護衛だ。遠方へは行かせたくない。シェアリングクロウ(伝播烏)を洞窟内に飛ばして視覚共有する手もあるけど、暗闇の洞窟では効果が薄いだろう。
手探りで攻略するとなると、人数の少ない俺たちは盗賊団以上の時間がかかることになる。
「うーん、じゃあさ、盗賊団が手伝ってくれないかな? 道中は俺たちがあんたらを護衛するからさ」
「……同じことを言わせるな、小僧。こんな目に合わされて協力するとでも思うか!」
「だよね。アプローチの方法を間違えた。『襲撃』じゃなくて『交渉』から入ればよかったな。どうも俺は行き当たりばったりな上に、ちょっと暴力的な方法を取りがちだ。反省反省。じゃあさ、あんたを人質にするってのはどうかな? 『ボスを助けて欲しかったら洞窟攻略を手伝えって』感じでさ」
俺の言葉にボスの表情がわずかに揺らいだ。
「うー、ナイトってば悪役ね」
「さすがはあたいのご主人だな」
魔物だけあって、ブランカもドリアも俺の強迫行為を非難することはなかった。実にやりやすい。
「なぁ、あんあたはどうする? 洞窟攻略を手伝わないなら、あんたのボスを俺の魔物の餌にするぜ?」
俺は一番近くにいた5剣の1人へと話しかけた。
「いや、まぁ、うーん…………わ、分かった。えー、洞窟の攻略を……て、手伝う。うん……うん……」
ーーん? なんか歯切れ悪い返事だな。
念のために他の⒌剣にも聞いてみると、
「え? ああ、そうだなぁ。ボスが人質…………ふーん、でもなぁ……手伝わないと……うーん」
「人質? 誰が? ……あぁ、なんだボスか…………」
「ボスを人質にするだって! …………別に良いんじゃ無いか? というか連れてってくれていいぞ」
「いやだってあの人いつも命令ばっかで何にもしないしよ。もう良い加減うんざ……いや、なんでもねぇ」
それぞれの貴重な意見を聞き出したところで俺は人質作戦を中止することを決断した。
「ん? なんだ小僧? 俺の顔をじろじろ見やがって! 人質なんて卑怯な真似を! そんなことをしたら俺の部下だって命令を聞くしかねぇ。畜生! 部下を危険な目には合わせられん! かくなる上は舌を噛み切って自害を」
「あぁ、そこまでしなくて良いっておっさん。人質作戦はやめるよ。中止、中止。実行不能」
「急に態度を変えるとは変なやつだな。他に企みでもあるのか?」
ボスが俺を睨んでくるが、俺としては内心ため息を連発したい気分だった。
このボスーー人望がない! こいつを人質にしても部下達は言うこと聞きそうにないぞ。
まさかこんな形で人質作戦が破綻するとは予想外。
しかし、そうなるとマズい事態だ。
洞窟攻略にはどうしても人手がいる。そして目の前にいるのは過去にこのルートを攻略した経験者、総勢60人ほど。人材としてこの上ない。
何としても協力させたいがどうしたものか。
魔物たちを使って力づくで協力させる手もあるけど、なんとなくそれだと上手くいかない気がする。隙を見て逃げる奴も出てくるだろう。探索中に散り散りになることを考えると、反抗的な連中を制御するのは難しい。遠隔操作で魔物を操るにも限界がある。
ふとーー
俺の頭にイメージが湧いた。
ーーまてよ……もしかしたら。
イメージに導きかれるまま俺は『魔物図鑑』をめくり始めた。
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