19 岩竜との戦闘
「うー、胸部をぶち抜いてもダメか」
「むぅ〜、硬くてあたいの植物じゃあ壊すこともできないぃ!」
ロックドラゴンの攻撃を回避しつつ、ブランカとドリアは攻撃を続ける。
ブランカのパンチとドリアの植物杭を受けるが、ロックドラゴンはすぐに傷を修復してしまうのだ。
攻撃しても意味がない。なんとも面倒な相手だ。
「がっはっはっ! どうしたどうした? そんな手ぬるい攻撃じゃ俺様のロックドラゴンには無意味だぜ」
盗賊団のボスが両指を奇妙に蠢かせながら叫ぶ。
するとそれまで前足を振り下ろす程度だったロックドラゴンの動きが変わった。
尻尾、後ろ足、首、頭部、そして胴体。
全身を使った幅広い肉弾戦を披露し始める。
「ちょ!」
「ひゃん!」
ブランカは尻尾の一撃を受け、ドリアは振り下ろされた首によって吹っ飛ばされた。
「大丈夫か!」
俺の呼びかけに、
「うー、こんの馬鹿力!」
「ドラゴンってすごーい!」
2人とも無事らしい。
ブランカは壁に激突していたが、強靭な肉体ゆえかほとんどダメージがない。
ドリアの方は地面へと打ち付けられる瞬間に植物を生やし、クッションを作り出していたようだ。
それでもブランカに比べればダメージを負っている。左肩が負傷していた。
俺は魔物図鑑を取り出しドリアを『回復』させる。
それとともに、図鑑へと追加されているロックドラゴンの記述を読む。
その内容を頭に入れ、俺は指示を飛ばした。
「ドリア、攻撃はするな! ロックドラゴンの手足を植物で抑えつけろ。動きを封じるんだ!」
俺の指示を受けドリアが服のポケットから何かの種を地面にばらまいた。
すると太い荊が地面から生え、一斉にロックドラゴンへと伸び始める。
何本もの荊がロックドラゴンの四肢へと巻きついた。荊の棘が岩へと食い込み、ロックドラゴンの動きが目に見えて鈍る。
「ぬぅうう! すごいパワーだ。荊が引きちぎられそう」
ドリアが顔をしかめながら懸命に植物へと力を注いでいる。
「ブランカ! ロックドラゴンの体をしらみ潰しに破壊しろ。弱点部位は必ずある。そこを見極めるんだ!」
「させるか!」
ブランカへの指示をかき消すような大声でボスが叫ぶ。
手足を動かし、再びロックドラゴンへと命令を与えようとするボス。
が、それよりも早く俺は光弾を作り出すとボスへと打ち込んだ。
「ぬぅ!」
放たれた光弾を受けボスがよろめいた。
その間にブランカがロックドラゴンの体を砕き続ける。
俺が次弾を放ったが、ボスは地面へと手をかざし土の壁を作り出して防御してみせた。
「おっさんは土に関する魔法が得意ってわけ? ロックドラゴンを操っているのもあの竜が土魔法の操作範囲内である岩だからかな? 結構な使い手だね、おっさん。雇ってくれる王宮とかいっぱいありそうなのに、なんで犯罪者なんかしてるわけ?」
「やかましい! 小僧に話すことなどないわ!」
「だろうね。ただあんたにロックドラゴンを操作されるのは面倒だからね。俺と遊んでもらうよ」
俺は魔力を集め、再び光弾を形成する。
ただし先ほど放ったものとは違い1発の大玉ではなく、100発ほどに分割した光弾を作り出した。
光弾が俺の周囲を漂う様にボスが目を見開く。
「なっ、お前!」
ボスが呻くと同時に俺は光弾を発射した。
先ほどと同じように土壁でボスは防御しようとするが、
「がはっ!」
土壁を迂回し光弾はボスへと直撃した。
「光弾をあそこまで分割……しかも1発毎に別々の軌道を飛ばすだと。小僧、お前」
「コントロールには自信があるんだよ。次行くよ」
俺は再び光弾を練り上げる。今度は200発だ。
発射された光弾は軌道だけでなく、1発毎の弾速も調整してある。
縦横無尽に飛び交う光弾。
ランダムなタイミングでボスへと打ち込まれるその光弾を回避するのは至難だろう。
ボスも先ほどとは違い自分の周囲全てを土壁で覆うという防御手段を取るしかない。
土壁が形成され、ボスの姿が覆い隠される。
光弾は土壁に防御され消え失せた。
俺は間髪入れず次弾を発射する。
ーーこれでいい。ボスを仕留める必要はない。
魔物を操る魔法使いは決して珍しい存在ではない。
自分たちより強い魔物を支配したい、と考える魔法使いは昔からいた。
一定の条件させ満たせば魔物をある程度使役することはできる。
基本的には1人につき1匹を使役するのが限界とも言われ、そのコントロールも大雑把なことしかさせることができない。
ゆえに魔物を操る魔法使いを相手にする場合は、魔物ではなく操っている魔法使いを狙うというのは王道の攻め方だ。
魔物に守らせようにも大雑把なコントロールではどうしても隙ができる。
それに魔物を操りながらでは他の強力な魔法は使いにくい。
そういったデメリットもあり、魔物を使役する魔法はあまり人気がないと言われている。
だが、このボスの場合は使役しているのがロックドラゴンという強大な存在だ。
大雑把なコントロールでも周囲に与える破壊力は絶大。
ブランカがいなければ、俺たちはすぐにパワー負けし敗北していただろう。
今の土魔法にしてもかなり精密に、それでいて余裕を持ってボスは使っている。
ロックドラゴンには最低限の指示と魔力を与え、自分自身はほぼいつも通りの実力を出すことができる状態。それをこのボスは保っているのだ。
つまり王道の攻略法がこのボスとロックドラゴンに通じない。
たとえブランカやドリアに指示してこのボスの方を攻撃させても、ロックドラゴンと土魔法が十分に対処してくるだろう。
ならば先にロックドラゴンを無力化させなければいけない。
そのためにもボスの意識と魔力をロックドラゴンから少しでも離す必要があった。
現状戦ってみた感じでは、あのロックドラゴンに対抗できるのはブランカとドリアだけ。
2人には全力でロックドラゴンを攻略してもらおう。
とはいえ俺の光弾は弾数や軌道こそ優れてはいるものの、威力の方はからっきしだ。
最初の大玉には大多数の魔力を注いだが、それでも軽い体当たり程度の威力しかなかったはず。
これだけの弾を打ち込んでは俺の魔力が持たない。多分あと3分ほどで俺の魔力が枯れてしまう。
このボスの土魔法を崩すことは俺にはできない。
「まっ、それなら仲間を呼べばいいだけなんだよな」
俺は図鑑を開き、ワイルドボア(大猪)とグリードグリズリー(大灰熊)を召喚する。
魔物2匹の攻撃が土壁を崩し始めた。
「なっ! まだ魔物を使役するのか!」
ボスが驚愕の声をあげつつも、土魔法によって岩人形を作り反撃してくる。
が、そろそろ余裕がなくなってきたのか岩人形の動きは鈍く、2匹の魔物によってボロボロに破壊されていった。
ちらりとロックドラゴンの方を見てみると、頭は粉砕され、首が崩されていた。
腹から背中にかけて大きな穴が貫通し、全身にひび割れが広がっている。
なおもブランカは動きの鈍ったロックドラゴンの全身へと猛烈なパンチを打ち込んでいた。
しかし、それだけの傷を追わせているにも関わらず、ロックドラゴンはまだ倒れる様子がない。
すでに損傷した箇所へと岩が集まり始め、回復が始まっていた。
四肢を抑えているドリアの荊もパワー負けしているのか、ぶちっ、ぶちっ、と千切れている。
その度にドリアが新しい荊を生み出し、逃さないようにしていた。
「こいつ、どこに弱点があるの? これだけボコボコにしてやってるのに!」
ブランカがイライラした口調で嘆いた。
ほとんどの敵を一撃で倒してきただけに、こういった面倒な相手が素直にストレスなのだろう。
図鑑のページを見ながら、俺はブランカへと叫ぶ。
「それで良いよ、ブランカ。胴体から尻尾へと順番に破壊してやれ。多分、それで決着がつく!」
俺の指示を受け、ブランカが攻撃を再開した。
胴体が砕かれ、腹、腰が破壊される。
それでも再生は続くようで、砕けた岩が再生しようと動きを止めない。
そして尻尾が破壊されたところで、再生した頭部がブランカを捉えた。
「ぬあっ! こいつ!」
噛み付かれたブランカが呻く。
ロックドラゴンはブランカを噛み砕こうと力を込めているようだ。
「ぬぅうううっ」
ブランカも抵抗しているが、体勢が悪いのか上手く力が込められず苦戦している。
「わんわんが食べられるよ! ナイト、どうしよう!」
ドリアが俺へと叫ぶが、
「大丈夫。もう決着はついた」
俺は図鑑を閉じると、ボスの方へと視線を向けた。
岩人形は3体ほど現れ、俺の魔物2匹と拮抗していた。
土壁が解かれ、息を荒げたボスの姿が現れる。
「すごいな、おっさん。結構余裕ないと思ってたのに俺の魔物と渡り合う岩人形を作るとか、魔力の量も出力も大したもんだね。俺もそれくらい魔力があれば色々と変わったのになぁ」
「抜かせ小僧。4匹の魔物を同時に使役するお前の方が規格外だろうが!」
「お褒めいただき大変恐縮っすよ」
「へらへらしやがって。ロックドラゴン。まずはこのガキを痛めつけてやれ!」
ボスが大声で指示を出すが、
「おい、ロックドラゴン。何してやがる! 早くこいつを攻撃しろ!」
ボスの声にロックドラゴンは反応しない。そもそも何も聞こえてすらいないような無反応っぷりだった。
「ロックドラゴン。ブランカを解放してくれ」
そして、俺の命令を受けロックドラゴンはゆっくりと頭を地面へとおろし、咥えていたブランカを解放した。
「……えっ、そ、…………そんなバカな!」
「悪いねおっさん。ロックドラゴンはもう俺のものだよ」
呆けたように口を開けるボスへと、俺はにんまり笑みを見せつけた。
「感想」「ブックマーク」は創作の励みとなります。
面白いと思ったら、ぜひ評価してください。




