18 洞窟内での戦闘
悠々と洞窟内を歩いていると俺たちは広い空間へと出た。
天井までは30メートルほどの高さ。
それでいて家が10軒は並べられそうな平坦な場所だった。
地面には道中と同じくメディックビー(薬バチ)の影響を受け倒れている男達の姿。
松明に照らされた空間内には、盗品らしき武器や荷車が無造作に置かれている。
それに負けないくらいの袋や木の箱も積まれていた。食料らしい。
そんな空間の奥には、5人の男と偉そうに椅子へと座る男の姿が見える。
『岩窟の盗賊団』の幹部ーー5剣とボスだと考えて間違いないだろう。
「うへぇ。なんつー人相の悪さ。入れ墨も目つきの悪さも怖ぇよ。街中で出会ったら絶対に話しかけたくない連中だな」
男達の外見に対し、俺は正直な感想を漏らした。
「ナイト、ビビってるの?」
「いやいや、ブランカ。あんなヤバそうな顔の男たちに話しかけるとか普通人の感覚じゃないって。あんなおっかないおっさん達に喧嘩売るとか頭がおかしい奴か調子に乗ってる若造くらいなもんだぞ」
「じゃあナイトは頭がおかしいんだね」
「うーん。できれば調子に乗っている若造でありたいな。実際そんな感じだし。もういいや、ここまで来たら勢いだ」
俺たち3人がやってくるのを見て、5剣らしきおっさんたちが、
「おいおい、蜂の魔物の次は旅人かよ。今日はお客が多くて退屈しないな」
「報告にあった魔法使いか?」
「娘っ子2人連れているから間違いないだろ。ちっ、両方ともまだ餓鬼じゃねぇか」
「いやいやフード被った姉ちゃんは中々のべっぴんだぞ。隣のちびっ子は流石にないな。可愛いけど」
「魔法使いの方はグリードグリズリー(大灰熊)を使役するそうだ。熊は無視して、本人を潰した方がいい」
口々に言葉を発する。彼らの手には剣が握られ、身につけている防具も昨日馬車を襲撃した手下連中よりも上等なものだった。
「止まれ小僧」
椅子に座る大男が唸るように声を出す。
俺たち3人が歩みを止めると、5人のおっさんたちが剣を構えて俺たちを包囲した。
「昨日は俺たちの商売を邪魔してくれたそうだな。その上今日はさらにアジトを攻めてくるとは。よっぽど俺たちに殺されたいとみえる」
椅子に座る男ーーおそらくはボスだろう。
「倒れているお仲間ならメディックビーの痺れ毒にやられているだけ。命に別条はないよ。メディックビーは治癒毒も持っているから、すぐに治すこともできるさ」
「ならすぐに俺の部下を治せ。そのあとで八つ裂きにしてやるよ小僧」
「その前に質問する。あんたら『岩窟の盗賊団』は大山脈を超えるルートを知っているそうだな。さっき俺たちを尾行していたお仲間から聞いたよ。俺たちは西岸地方にできるだけ早く行きたいんだ。そのルートってまだ使えるの?」
俺の質問に5剣達の顔が変わった。
驚きと、そして悔しげな顔。
ボスもすぐには返事をしない。
やや間を空いて、ボスは口を開いた。
「冥土の土産に教えてやろう。ルートそのものは通じている。この洞窟の奥さ。だが道は枝分かれして迷路のような状態だ。俺たちがこの東岸までたどり着けたのは運が良かったのと、道中に払った犠牲のおかげさ。おまけに蛇の魔物を頂点とした生態系が構築されている。道を歩けば間違いなく連中が襲ってくる地獄の道よ。俺たちはもうこのルートを使う気は無い。たとえ故郷の地に戻りたくともな」
ボスが指を鳴らした。
それと同時に5剣たちが俺たちへと切りかかって来た。
「説明は以上だ。では、死ね」
5剣たちの殺意を乗せた攻撃が俺へと降りかかるが、
「「「なっ‼︎」」」
突如として地面から生えた植物の壁によってその攻撃は防がれる。
男達の剣を受け止めた植物はぐねぐねと動きながら硬化していく。
硬い木の幹とかした植物。
剣は木の幹へとしっかり食い込み人力では取ることができない状態となった。
剣を手放した5剣は腰に装備していた短刀を手にすると、植物の壁を迂回し攻撃を再開し始める。
「あらよっと!」
だが、彼らの攻撃は待ち構えていたブランカによって阻止された。
短刀をさばききり、ブランカは男達を次々とぶっ飛ばしていく。
「なんだその娘達は! ……いや、ちびっ子の方は妖精か?」
部下が倒される様を見て、ボスが驚きの声を上げる。
「あとはあんただけよ、ボス猿さん」
「偉そうなおっちゃんは強いのか? あたいとバトルしようよ」
腕を組むブランカと、無邪気そうに笑うドリア。
「今この嬢ちゃんの頭の上が動いたのを見たぞ。耳がある。この嬢ちゃんは魔物だ!」
ボスがブランカの狼耳に気づいた様子で喚いた。
「魔法使いの小僧! お前が使役するのはグリードグリズリーだったはずだ! それなのにメディックビーに加えて妖精と魔物の娘まで使役しているだと! 複数の魔物を支配するなんて賢者と呼ばれる魔法使いにだってできない。何者だお前?」
「それに答える気は無いな。さてと。あんたらがルートを使いたく無い理由はわかった。でも道が続いているというのなら俺たちは是非とも使いたいもんだ。俺は『ルナアウル』っていう人を操る魔物を使役している。ボスさんを操って案内でもしてもらおうかな?」
俺は肩へとルナアウル(夜梟)を出現させボスへと催眠の視線を送り込ませる。
ところがーー
「ナイト、あのボス猿には催眠が効いてないっぽいよ」
ブランカの指摘通り、ボスにルナアウルの催眠は効いていないようだった。
ということはこのボスは魔法耐性があるーー魔法使いというわけだ。
「部下達の仇は取らせてもらう。覚悟しろ」
そう言ってボスが取り出したのは魔法陣の書かれた1枚の紙切れ。
ボスはその紙切れを地面に放る。
ひらりと地面へ紙切れが落ちると、描かれた魔法陣が青く輝き地面へと同じ模様を浮かび上がらせた。
「召喚魔法か」
俺がそう叫ぶと当時に青い光が空間を満たし、魔法陣の輝きが増した。
そして陣の中央から巨大な影が現れる。
「うそ……ドラゴン‼︎」
その姿を見たブランカが驚愕とともに一歩後ずさった。
全長は20メートルほどだろうか。
4足歩行で大地を踏みしめるその魔物は長い首と尻尾を持ち、全身が岩石に覆われている。
長い首をもたげ、遥か頭上から俺たちを睨みつけるその姿はかなりの迫力だ。
「うおおおおおっ! かっこいいいい!」
ドリアが大興奮のご様子でぴょこぴょこと跳ねている。
岩の竜は前足を持ち上げると、俺たちめがけて勢いよく踏みつけてきた。
「あたいに任せろ!」
ドリアが両手を広げる。
地面から無数の植物の蔓が出現し、俺たちと岩の竜の間に割って入った。絡み合いながら幹へと硬化する蔓はあっという間に木の壁を作り上げる。
が、竜の攻撃はドリアの木の壁を軽々と粉砕してみせた。
幸いにも勢いは殺せたらしく、竜の足は俺たちに触れる前に木の壁にめり込み止まってしまった。
力任せにめり込んだ足を引き抜く竜。
反動でやや竜が後退したのを見計らい、
「はああああっ!」
気合を入れ、ブランカが反撃に転じた。
竜の前足をぴょんぴょんと飛び跳ね駆け上がったブランカは、勢いそのままに竜の頭部へと強烈なパンチを打ち込んだ。
竜はほぼ無抵抗でその頭部を粉砕される。
「「おおおっ」」
俺もドリアもその速さと拳の威力に驚嘆の声を上げた。
地面へと降り立ったブランカの背後で、頭部を砕かれた岩の竜が倒れた。
「流石だなブランカ。うちのエースは間違いなくお前だよ」
「くそぉー、わんわんに良いところ取られた。次はあたいが強い奴倒すもんねー」
俺たちへとブランカは手を振って応えてみせるが、すぐにその表情が曇る。
俺もドリアも異変に気がついた。
地面へと降り注ぐ岩の竜の破片。
それらがふわりと宙へ吹くと、倒れた岩の竜へと集まり砕かれたはずの頭部を再生させたのだ。
地面を震わせながら再び岩の竜が立ち上がる。
「がっはっは! そんな程度の攻撃じゃあロックドラゴンを倒すことは無理だな」
高笑いをしながらボスが椅子から立ち上がる。ボスが右手を動かすと、同じようにロックドラゴンも右前足を動かし、俺たちへと攻撃を仕掛けてくる。
ドリアの植物が地中から飛び出してきた。
数本の蔓が絡み合い、先端の尖った丈夫な幹へと変化する。
右前足へと突き刺さった幹によってロックドラゴンの攻撃は止まった。
しかし、幹の方も途中から硬い岩に耐えきれずボロボロとなる。
ロックドラゴンの右前足からボロボロとなった幹が排出されると、再び砕けた前足へと破片が集まっていく。5秒も経つと、前足は完全に治っていた。
「再生能力か。面倒だな」
俺は思わず舌打ちをした。
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