17 アジトへの潜入
一夜明け。
朝食もしっかりとご馳走されたところで、俺たちは商人一団と別れた。
「もう盗賊たちは来ないと思いますけど、お気をつけて」
「えぇ、ナイト君達も達者でね」
別れの挨拶を済ませた俺は商人達の姿が見えなくなると、
「よし。盗賊団のアジトを探すか」
くるりと後ろを向くと、森の淵に沿って歩き始めた。
「うー。アジト探し? ひょっとして大山脈を抜けるルートを聞き出すつもりなの?」
ブランカの問いかけに、
「そのつもりだ。早く西岸地方に着いて落ち着きたいからな。それに本当にそのルートがあるのなら放って置けない。『七色の風』にそのルートを知られたら、俺が予想しているよりも簡単に彼らが西岸地方に進出してくる。俺たちの安住のためにもよろしくない事態だ」
理想としては俺たちが西岸地方に到着次第、そのルートを塞いでしまいたいところだ。
実行可能かはともかくとして、最低でもルートが存在するのかを確認したい。
「そのためにもまずは連中のアジトを探さないとな。えーっと、確か大山脈の麓に拠点を構えているとかあの商人は教えてくれたな。噂レベルの情報だけどさ」
「ねー、ナイト。案外簡単にアジトの場所は分かるかもしれないよ」
そう言いながらブランカは森の方へとちらりと視線を送った。
その仕草を見て俺も注意を森へ向ける。
一瞬ではあったが木の陰に隠れる何かが見えた。
「昨夜からずっと私たちを見てるよ。多分人間のオスだね。だいたい3人くらいかな?」
「……偵察か。狙いは俺たちの方か? 商人達の方にも偵察が付いてるのか?」
「うーんとね。昨夜から偵察してる人数は変わってないよ。3人のまま。その全員が私たちを追いかけてる」
「俺たちが狙いか。報復? それとも単純に動向が気になるだけか?」
「どうするのナイト? 私なら全員捕まえられるよ」
「そうだな。とりあえずその前に……」
俺は背中に感じる重さとその原因を意識すると、
「いつまで寝てるんだ、ドリア。いい加減に起きろよお前」
俺におんぶされている寝坊助妖精へと呼びかける。
すやすやとだらしない顔で寝る妖精は、俺の呼びかけに反応もなくむにゃむにゃと寝息を立てている。
「ブランカ。尻叩いて起こしてやってくれ」
「おまかせあれ。ほいっ!」
「ひゃうんっ!」
ぱんっという良い音が辺りへと響き、尻を叩かれたドリアが目を覚ました。
「むぁ〜。あたいのお尻が割れたぁ」
「尻は割れてるんもんだ。安心しろ」
尻をさするドリアを降ろしながらも、俺の注意は森に潜む連中へと向いている。
ドリアを背負っている状態だったにも関わらず連中は攻撃して来なかったことから、少なくとも今いる3人は俺たちを攻撃するつもりはないと言えるだろう。
そうなるとやはり偵察が主な目的か。
「ブランカ。あの3人を捕まえろ。2人は行動不能に、1人は意識を保ったまま連れて来てくれ。できるか」
「まっかせなさーい」
命令してから30秒後。
俺の前には3人の男達が倒れていた。
注文通りに2人は気絶させられ、もう1人は意識こそあるものの腹を抑え苦悶の表情を浮かべている。
「さすがブランカだな。流れるような良い仕事ぶり」
「これくらい朝飯前だもんね」
「あー、わんわん尻尾振ってる。ナイトに褒められて嬉しいんだ」
「え? ……あっ、これは……その」
「基本的に犬っぽいよな、ブランカって。割と従順だし」
「狼よ!」
いつものやり取りを終え、俺は男へと問いかけた。
「おはようさん。一晩中偵察してご苦労様だけどさ、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
俺の言葉に男が呻き声と共に俺へときっと睨んできた。
「噂で聞いたんだけど、『岩窟の盗賊団』は大山脈を超えるルートを知っているそうだな。それってどういうルートなのか教えてくれないか?」
「てめぇに話すことなんかねぇよ」
男が唾を吐く。
「うーん。じゃあアジトの場所教えてくれない? あんたのボスに聞いてみるよ」
「ふざけんなガキ。誰が教えるか」
「やっぱそういう反応だよな。じゃあいいや。教えてもらえるように細工するから」
男の目に動揺が走る。拷問でもされるのかと考えたのかもしれなかった。
俺は『魔物図鑑』を取り出すと、
「召喚。ルナアウル」
俺の言葉に反応し、何もない空中から1羽のフクロウが出現した。
俺の肩へと止まったそのフクロウはくるくると可愛らしい鳴き声を鳴らし始める。
「それって昨日捕まえた魔物だよね?」
ブランカの問いかけに頷きながら俺はルナアウルを操作する。
呻く男へとルナアウルが視線を送る。
男も突如として出現したフクロウへと興味を持ったのかその姿を凝視する。
そしてーーそれで完了だった。
「ルナアウル。月梟とも呼ばれる。夜行性で小動物や小さな魔法道具を食べる。ルナアウルと目を合わせると、その行動を支配されてしまう。目をそらされると支配が解かれるため、一度に操れる存在は1つだけ、か」
俺は図鑑に書かれたルナアウルの生態を読み上げた。
ルナアウルと目を合わせた男は、すでに術にかかったらしい。目がとろんと呆け、口を開ける様は間抜けそのものだ。
「さて、質問だ。お前ら『岩窟の盗賊団』は大山脈を超えるルートを知っているのか? 簡潔に答えろ」
俺の問いかけに対し、男はすぐに答えた。
「知っている。地下の洞窟だ」
「洞窟? それは今でも使えるのか? お前達はそれを使って西岸地方から来たのか?」
「そうだ。洞窟を通じて俺たちは西岸地方からこちらへと来た。洞窟は今も続いている。でも、ボスは使おうとしない」
「使おうとしない? 何か問題があるのか?」
「巨大な蛇の魔物がいるからだ。最初に洞窟を抜けて東岸地方にやってくる道中で20人近い仲間が食われた」
「蛇、か。お前はそのルートを案内できるか?」
「無理だ。洞窟は複雑すぎる。ボスや5剣ならもう少し詳しいかも」
「5剣とはなんだ?」
「俺たち『岩窟の盗賊団』の幹部だ。武闘派の5人だ」
俺はここで一度尋問をストップした。ルナアウルに指示を出し男はしばらく呆けさせておいた。
大山脈を超えるルートは洞窟。そしてそれは今でも実在しているという。
国や貿易商が耳にすれば大騒動になる発見だ。
すでに噂になっているのだから、有力者が噂を本気にすれば本格的な調査と盗賊団の殲滅が行われるかもしれない。そうなればこのルートの存在は世間に知られるだろう。
俺としては望ましくない。
「おい。アジトへと案内しろ。お前達のボスに直接聞いてみる」
『岩窟の盗賊団』のアジトは大山脈の麓ーー岸壁の一部に空いた洞窟の中だった。
俺たちは洞窟から少し離れた岩陰に身を隠し洞窟の様子を伺う。
洞窟の前には剣を持った男が4人いた。見張りだ。
操った男の情報によると、盗賊団は56人の男で構成されているらしい。
昨晩の俺たちとの戦闘でそのうちに15人程度が戦力から外れると言っても、まだ40近い人数が戦力として存在していることになる。
「お前らはどうして東岸地方に来たんだ?」
俺の問いかけに操られている男は、
「俺たちは脱獄囚さ。全員が犯罪者。地獄のような監獄生活から逃げるためにここへ来た。ボスはちょっと違うがな」
「なるほどねぇ」
俺は図鑑のページを開き、そこに書かれた魔物の記述を読む。
「ナイト。私が見張り倒そうか?」
「わんわんばっかり活躍してずるいぞ! 今度はあたいにやらせろ!」
魔物2人が頼もしい言葉をかけてくれるが、
「いや、こいつを使うよ」
そう言って俺が図鑑から呼び出したのは大量の蜂だ。
正確に言えば蜂型の魔物。その数は200匹。
「メディックビー(薬バチ)。こいつにアジトを襲撃させる。痺れ毒で動けなくなったところを俺たちは悠々と進んでいこう」
行け、という俺の指示とともに大量のメディックビーがアジトめがけて飛びたった。
見張りの男達は突然現れたメディックビーの大群に悲鳴をあげる。が、大した抵抗もできず痺れ毒の餌食となった。
見張りを突破したメディックビーは洞窟内へと侵入していく。
洞窟の入り口まで移動した俺たちの耳に野太い男達の悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴が小さくなったのを確認し、俺たちは洞窟内部へと潜入し始める。
洞窟内は思った以上に道幅が広い。
大人が10人横に並んでも苦にならない程度の空間が確保されている。
壁にはランプが取り付けられ、洞窟内を煌々と照らしていた。
そしてランプに照らされた洞窟内には、
「ううううううっ」
「体が……動けねぇ」
「ちくしょう! この、動けっ。ううう」
男達が横たわり苦悶の声を上げていた。
「効果は抜群だな。今後生身の集団にはメディックビーが役に立ちそうだ」
「うー。私の仕事がなくなる」
「あたいも活躍したいぞ」
俺の言葉に不満げな2人へと、俺は笑いかける。
「安心しろ。お前らには今から活躍してもらうんだよ。ほら、メディックビーの図鑑を見てみろ」
そう言って俺がメディックビーのページを2人へと見せると、
「数が減ってる? 200匹から180匹になってる」
「おー、本当だ。蜂さんが死んじゃってるぞ」
「そうだ。この洞窟の先に行っているはずのメディックビーが数を減らされている。つまり、メディックビーじゃあ相手にならない敵がいるんだ。多分、盗賊団のボスと5剣とか名乗ってる幹部達だろう。お前ら2人にはそこで暴れてもらう。期待してるぜ」
俺の言葉を受け、
「「そうこなくっちゃ!」」
楽しそうに魔物2人は笑顔を見せた。
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