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16 岩窟の盗賊団

 食事を中断し、俺たちは悲鳴の聞こえた方向へと駆けた。

 

 すると見えて来たのは森を抜けた先に停められている3台の馬車。

 それと同時に見えるのはーー


「おらぁ! 大人しくしやがれ!」


「殺されたくなかったら積み荷を置いてきな!」


 その馬車を囲む20人くらいの屈強な男たちだった。

 やや薄汚れた格好の男たちは全員が剣や弓といった武装をしている。


 囲まれている馬車にも武装した人間が乗り込んでいるようだが、


「4対20か。駄目だなこりゃ」


 その戦力差は歴然。

 馬車を守ろうと剣を握る4人の護衛を見て、俺は肩をすくめた。


「うー。何あれ、お祭り?」


「お祭り⁉︎ あたいはお祭り好きだぞ!」


 そのまま馬車の方へと走ろうとする2人の肩を掴み、俺は木の茂みへと隠れた。


「祭りじゃない。盗賊に商人が襲われてるんだ。緊迫の現場ってやつだぞ」


 魔物2人へと状況を説明すると、俺は盗賊たちへと注意を向ける。

 彼らの服装は汚れているが、その手に持っている武器はきちんと研がれ、実践に向けて準備されたものであるのが伺える。


 一方で護衛の4人は武装こそ盗賊たちより優れているように見えるが、戦力差を縮める要素にはならないだろう。それ以前に剣を持つ手が震えている有様だ。


 盗賊の男たちが馬車へと近づく。

 護衛の1人が何やら喚いていたが、盗賊数人に押さえつけられ袋叩きにされ始めた。

 

 その様子を馬車の荷台に乗っている商人らしき一家が青ざめた表情で見ている。

 4人家族らしい。娘2人を抱きしめる母親らしき女性と、その横で恐怖に染まった顔で棒立ちしている夫らしき男性の姿が確認できた。


 護衛たちは次々と盗賊団に捉えられ、ボコボコにされ、武装を奪われていった。


「人間って不思議ね。仲間同士なのにあそこまで酷いことできるんだもんなぁ」


 ブランカがのんびりとした口調でそんなことを呟いた。俺としては苦笑いするしかないセリフだ。


「ん? ナイトはあの商人を助けないのか? てっきりナイトが勇者みたいに助太刀に入ると思ったぞ。そしたらあたいも大暴れしてやるのに」


 ダリアが準備体操のつもりなのか腕回しをし始める。


「待て待て。飛び出そうとするなよ。あの商人を助けはするけどもう少しだけ待とう。タイミングが来たら2人に暴れてもらう。もちろん俺も参加するよ」


「今じゃなくて? 早く助けてあげたほうがいいんじゃない?」


「ブランカも待ってくれ。タイミングは俺が指示する。そうだな。あの家族が殺されそうになったところで助けに入ろう。大声で『待てぇ!』とでも呼びかけて、そこから一気に救出する」


「なんでそんなことするんだ?」


「それはだな、ドリアーー」


 俺は首をかしげる妖精の質問に答えてやった。


「絶体絶命の大ピンチって瞬間に助けたほうがお礼を要求しやすいだろ?」


「…………」「…………」


 俺たちがそんな会話をしている間にも事態は変化し続ける。


 ついに護衛全員がいなくなり、残ったのは馬車に乗っていた商人一家と従者らしき男女2人。

 その6人も盗賊団によって次々と馬車から引きずり下ろされた。

 盗賊たちは6人の所持品を次々と奪い取っている。

 娘の1人は髪飾りを強引に奪われ泣き叫んでいた。


「うー。そろそろ良いんじゃない?」


「まだまだ」


 盗賊団は3チームに別れると3つの馬車にそれぞれ乗り込み、馬車ごと荷物を奪うつもりらしかった。

 娘2人が盗賊団数人によって担がれ、馬車へと運ばれていく。

 父親らしき男が必死の形相で娘を取り返そうともがいているが、屈強な男たちに叶うはずもなく殴られ、踏み付けられ、押さえ込まれてしまう。


「よし。今だな。ブランカは耳を隠せ。ドリアは羽を消せるか? 突撃するぞ。2人は人質を頼む」


 俺は『魔物図鑑』を起動させると、グリードグリズリー(大灰熊)を召喚し、


「待てぇ‼︎」


 茂みから飛び出すと、盗賊団めがけて走り始めた。


 盗賊団は俺の声に振り向く。そして自分たちへと突進してくるグリードグリズリーを見て目を見開き、


「「「うわああああっ!」」」


 大パニックとなった。

 

 逃げ出す者。馬車の荷台へと潜り込む者。


 中には弓を素早く構えて攻撃に転じようとする猛者もいたが、


「させないって!」


 そういう奴には俺の魔法攻撃を打ち込んだ。

 威力こそ低いが、的確に顔面へ光弾と撃ち込んだことで射手は驚き武器を手放した。


 グリズリーの方は盗賊団を射程圏内に捉えた。

 腰を抜かし震える男たちを魔物の剛腕が吹き飛ばす。

 男たちの絶叫が周囲へと響いた。


 俺は地面に落ちた盗賊団の剣を手に取ると、光弾を打ち込みながら商人たちの方へと走り出す。

 商人たちを押さえつける連中は5人。そのうち3人は父親を抑えるために屈んでいる。


 グリズリーに気を取られていた男たちは、俺の接近に直前まで気づくことが出来なかった。

 1人の男の顔面を剣の柄で殴打した俺は、勢いそのまま体を回転させつつ、別の男を蹴りとばした。

 

 他の男たちが俺へと反撃しようと動くが、光弾を織り交ぜた俺の攻撃に即応できず陣形が崩れる。


 ーー剣術を習っておいてよかった。ホルスに感謝だな。


 不意を狙ったことと魔法が使えるという強みがうまく作用してくれた奇襲攻撃。

 それらが作用し、商人を解放することに俺は成功した

 解放した商人達を背に俺は男達に対峙する。

 男達は顔や腹を抑えつつよろよろと立ち上がった。一様に俺へと怒りの目を向けるが、


「ナイト! こっちは終わったよ〜」


「あたいらには楽勝な仕事だったぞ!」


 ブランカとドリア、そしてグリードグリズリーの姿を見て驚きの表情へと変わる。

 

 残りの盗賊達は地面へと横たわっていた。

 囚われていた娘2人もブルブルと震えているが、ブランカに手を引かれ無事な様子。


「な、何なんだよこのガキは」「大熊を使役してやがるぞ」「魔法使いめ」


 盗賊達が口々に恨み言を呟いているが、


「グリードグリズリー。男しかいなくて悪いけど、新鮮な餌だ。好きに貪っていいぞ」


 俺の言葉を耳にした途端、男達は顔を青ざめ、急いでその場を逃げ出した。

 動けない仲間を担ぎ、手荷物をまとめ、男達はあっという間に森の淵にそって去っていく。


 商人の娘達はようやく平静を取り戻したのか、わっと泣き出し両親の元へと走り出す。

 娘達を抱きしめた両親は大泣きだ。従者達は自分たちの無事を実感したのかぺたんと地面へと座り込んでしまった。





「おかげさまで命拾いしました。その上積み荷も全て無事。これは幸運と言えましょう。どうか遠慮なくお食べください」


 日が沈み始め、周囲が薄暗くなってきたころ。

 森の近くにある岩場にて、俺たちは商人たちから夕食をご馳走になっていた。

 

 塩漬けの牛肉に胡椒(こしょう)をかけたステーキを中心になかなか豪華な夕食だ。


「お肉と胡椒最高! もう死んでもいい」


 ブランカが大はしゃぎで牛肉を頬張っている。

 その横では水筒からぐびぐびと水を飲むドリアの姿。その手には砂糖が握られ、どうやら砂糖水にして飲んでいるらしい。


「お嬢ちゃんは砂糖水だけでいいの? お肉とかポテトとかもあるのよ?」


 見かねた商人の妻が声をかけるが、


「水と砂糖より美味いもんなんてあたいにはないのさ。うぃ〜」


 まるで酔っ払いのような態度でドリアはケラケラと笑ってみせた。

 

 焚き火を囲み食事をとる俺たちと商人一団。

 主人である商人が俺へと話しかけてきた。

 

「護衛の手当までしていただきありがとうございます。夕食だけでなく、何か必要な物資があれば提供しましょうか?」

 

「そいつはありがたい。では旅の道中に食べられる携帯食料とか水とかを分けていただけませんか? 魔法の鞄があるのでいくらでも持っていけるんですよ。それ以外にも役立ちそうなものがあれば色々と欲しいですね〜例えば香辛料とか薬とかいいっすね。使って便利。売って満足な品とかあれば欲しいな〜命の恩人だもんな〜」


 俺の言葉を受け商人は従者達へ何やら指示を飛ばす。

 俺はブランカとドリアにだけ見えるようにニヤリと笑みをみせた。


 従者達が運んできたのは大量の携帯食料と水に加えて、塩漬け肉にチーズと香辛料、それから薬品だ。


 俺は運ばれた全ての品を魔法鞄へと詰め込む。


「こんなに貰ってそちらの旅は大丈夫なんですか?」


 口で言うほど心配もしていないのだが、一応俺は訪ねてみた。俺の質問に対し、主人は明日の昼には目的地である街へと到着するので問題ないことを説明してくれた。

 色々と話をしてみると、商人達はその街へ香辛料を売るためにやってきたらしい。

 ところが本来使うはずだった道が落石によって塞がれていたため、仕方がなく森沿いのルートを選んで旅を続けたそうだ。


「そして、『岩窟の盗賊団』に出くわしてしまったわけです。ナイトさんが助けてくれなければどうなったいたことか。本当にありがとうございます」

 

 再び俺へと頭をさげる主人。

 

「『岩窟の盗賊団』? あの連中にそんな呼び名があるんですか?」


 俺の問いかけに、


「ええ。この森の西側にある大山脈の麓を根城にしている盗賊団です。西岸地方からやってきたならず者たちだと噂を聞いたことがあります。彼らの使っている武器は西岸の国々で使われているデザインですから」


「こんな東岸地方の中央部に西側地方の盗賊団がいるとは奇妙な話ですね」


「それも噂がありましてね。昔、運良く彼らの根城から逃げ出した旅人がいたそうですが、その旅人が言うには彼らは大山脈を通り抜けるルートを知っているそうなんですよ」


 主人の口から飛び出た言葉に俺は口へとチーズを運んでいた手を止める。

 大山脈を通り抜けるルート。

 それは東西の地方が願い続けた夢の道。

 

 ーーそんなルートをあの盗賊団が知っているだって?


 にわかには信じられないが、事実ならば俺たちの逃亡生活に関わる案件だ。


「ご主人。もう少し詳しくその話を聞かせてくれませんか?」


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