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15 広がるページと聞こえた悲鳴

 丘での一夜が明ける。

 

 日の出とともに起きた俺はブランカとドリアを起こさないように2人から離れた。

 簡単な柔軟体操と格闘の練習。そして魔法の鍛錬。

 魔法学校時代から続けている朝のルーティンを終えると、俺は鞄から携帯食料を取り出し朝食を済ませた。味は良くないが贅沢を言っているわけにもいかない。

 

 しばらくして目を覚ました魔物2人へ俺は図鑑の中で食事をするように命じた。

 2人は不満げであったが、食事については図鑑の中にある物のほうが美味しいので結局は素直に図鑑内で食事を摂ってくれた。


「腹は満たしたか?」


 俺の言葉に、


「うー。チキンの詰め物が最高だった!」


「あたいは『最高水』と果物をいっぱい食べたぞ!」


「くそぉ、俺より良い朝飯食いやがって!」


 腹を満たし、調子を整え、俺たちは森に向けて歩き始めた。



 

 薄暗い森だった。

 太い木が立ち並び、空を覆うように葉が茂っている。

 地面へと光が届きにくく、やや冷んやりと空気が漂う場所だ。


「森に入ったは良いけど、どこを目指せばいいの? 西岸地方とかいう場所に行くんだよね?」


 俺の横を歩くブランカが訪ねてくる。


「このまま南下すると『竜のわだち』って呼ばれている交易路に出る。東西の地方を結ぶ長大な道だ。いくつかある交易路のなかで一番安全だって言われてる。その道を通って西岸地方に行こうって考えてるよ。正直なところ他の交易路までは遠すぎるし、そこに行くまでの道が分からない。西岸地方到着までに80日くらいかかるだろうけど、『竜のわだち』は道も舗装されれるから行きやすい。まずは『竜のわだち』を目指す」


「西岸に行くのって面倒なんだね。大山脈を超えられればいいのに」


「それが理想だけど今のところ無理だな。危険すぎる。大山脈を超えられるのはドラゴンだけだろうよ」


 そんなやり取りを交わしながら森を進む俺たち。

 そしてこんな大きな森を進む道中が安全なわけがなかった。


「おおお! でっかい熊だ!」


 先頭をふわふわ飛んでいたドリアが、5メートル近い体高の熊型魔物を見つけ大声を出した。


「ブランカ!」


「任せて!」


 ドリアへと攻撃してきた熊型魔物をブランカが一瞬で殴り飛ばす。

 

「おおおお! 今度はでっかい猿だ!」


「おおおおお! 次はぐねぐね動く触手だぁ!」


「わああああ! 小さい鬼がいっぱい来たあああ!」


 ドリアが魔物を見つけ、ブランカが瞬殺する。

 縄張り意識が強いのか、森の魔物たちはこちらへと積極的に攻撃してきた。

 2時間ほど歩いただけで30体ほどの魔物に遭遇するとはなかなか刺激的な道中だ。


「朝なのにこんなにたくさんの魔物に遭遇するなんてな。片っ端から図鑑に捕まえておくか」


 大きい魔物。小さい魔物。強い奴に弱い奴。

 分け隔てなく俺は図鑑へと魔物を収容していく。

 ブランカとドリアに匹敵するような魔物には遭遇しなかったが、数としてはなかなかの収穫だ。


「なんか不思議な感触。気持ちいいかも」


 ブランカが触っているのは半透明の体を持つスライムと呼ばれる魔物だった。

 

「『イコールスライム』って名前らしいぞ。他の生き物にくっついて感覚を共有する能力があるらしい」


 『魔物図鑑』の記述を眺めながら俺が説明していると、


「あっ! 私にくっついた!」


 イコールスライムがブランカの左手から離れなくなってしまったようだった。


「何これ! スライムを触ってるはずなのに自分の手を触ってる感覚がする」


 スライムを剥がそうとブランカが奮闘しているが、剥がせないだけでなく、


「むぐっ! 取ろうにもスライムを引っ張ると私の手が痛い」


 このスライムは他の生き物の皮膚にくっついてその老廃物を食べるらしい。

 自分を取ろうと宿主が攻撃などをすると自分が受けた痛みの感覚を宿主にも感じさせる。

 自分の食事を邪魔されないようにするための能力のようだ。


「って冷静に説明しないでスライムを取ってよ!」


 ブランカの要望に、


「よぉし! あたいの出番だ! わんわんから離れろ、こいつ!」


 ドリアがブランカの左手につくスライムをひっぱ叩いた。そしてーー


「あっ。あたいもくっ付いちゃった!」


 ブランカの左手を握る形でドリアもスライムの餌食となってしまった。


「このバカ妖精! どうするのよ。あんたと手なんか繋ぎたくないのよ。この!」


「ごめんごめん。ぽかぽか殴らないでわんわん! ……ん? なんか変な感じ?」


「え? ちょ、何これ?」


 ドリアを軽く叩いていたブランカの動きが止まった。


「どうしたんだ、ブランカ?」


「ナイト。変な感じ。この妖精を殴ると私も頭を叩かれた感覚があるの」


「あたいもそんな感じ。頭に耳があって、お尻に尻尾がある感覚もするぞ! なんだこれ! 変なの!」


「うわぁ。頭の中に景色が見える。これってドリアの視界? いつもより低い視点で森が見えるわ」


「この音ってわんわんの聞いている音? いつもり遠くまで聞こえる気がするぞぉ!」

 

 2人の反応を見るに、どうやらスライムを通じて2人の感覚が共有されているようだ。


「へぇ。面白いな。このスライムは使えるかも」


「感心してないで助けてよナイト! 妖精と繋がりっぱなしなんて嫌だよ、私」


 『魔物図鑑』の記述を確認すると、このイコールスライムを剥がすには『痛み』のある攻撃は宿主に負担があるため推奨されないようだ。その代わり、痒みやくすぐりなど『無痛』の攻撃が有効だそうだ。


 俺は2人の手を結ぶスライムへと、その辺からむしり取ったは葉っぱを当てくすぐり始めた。


「あっ……ちょっと……あ、あははははっ!」


「ひぐっ! ひゃあ、あはははあははは!」


 同時に笑い始める2人を無視して、俺はスライムをくすぐり続けた。


「あっ、んっ……あっ、ああっ……くっ、んっ」


「はぁ、ああ、もう……はぁはぁ、ふぅううううっ」


「変な声出すなよ、お前ら」


 くすぐられて力が抜けたのか狼女と妖精はぐったりと座り込んだ。

 ようやくスライムも根負けし、ぽろりと2人の手から離れ地面へと落ちる。

 俺はスライムを図鑑へと戻すと、


「大丈夫か? 災難だったな」


「もう安易にスライムにさわったりしないわ」


「あたいも学習した。面白くても苦しいのは嫌だ」


「そうかそうか。賢くなったな。まぁ、別にくすぐらなくても俺が『離れろ』って命じればすぐ終わったんだけどさ」


「「そうじゃん! 何でくすぐったの!」」


「面白そうだったから」


「「この鬼畜!」」


 こんな感じで友情を育みながら俺たちは森を攻略していった。

 

 道中で出会った他の魔物はこんな感じだ。



『種族名:クローバーラビット(手乗りうさぎ)

 能力 :人肉を与えると少しの間だけ、ラビットを持つ人の運が若干良くなる』


『種族名:メディックビー(薬バチ・200匹)

 能力 :痺れ毒を尻尾の針から出す。痺れをとるための薬も針から出すことができる』


『種族名:シェアリングクロウ(伝播鴉・70羽)

 能力 :仲間の鴉と視界を共有することができる。ボス鴉は人語をある程度、理解する』


『種族名:グリードグリズリー(大灰熊)

 能力 :普通の灰色熊よりも巨大であること。力持ち』



 この中でもシェアリングクロウは森の攻略に大いに役立った。

 上空へと70羽のシェアリングクロウを飛ばす。

 すると『魔物図鑑』のページには群れのボスの視界が映し出され、視界を共有した彼らによって森の様子が分かるのだ。

 

 こうして俺たちは安全そうなルートを選び、日が沈む前に森を抜ける一歩手前までやって来ることが出来ていた。


「ふーん。『ルナアウル』か。催眠術を使うフクロウ型の魔物。ほほぉ」


 木の上で眠っていたフクロウの魔物を捉えた俺は図鑑の記述を読みながら携帯食料をかじる。


「もう少しで森を攻略か。うー、最初に森の広さを感じたときは夜中まで歩くかもって思ったけど、案外楽に抜けられたね」


 ブランカが干し肉を食べながらそう言った。その後ろには疲れた様子のワイルドボア(大猪)がごろりと寝転がっている。


「シェアリングクロウのおかげだな。ワイルドボアを走らせることのできるルートを選んだこともあって早く進めた。この時間短縮はデカイぞ。ワイルドボアは図鑑に戻して休ませてやろう」


「あたいはもう少しボアちゃんに乗っていたかったなぁ。楽しかったのに」


 ドリアが名残惜しそうにワイルドボアを撫でた。


「予想より早く森を抜けたことで、今日は野宿じゃなくて宿に泊まれそうだな。『竜のわだち』に繋がる道には町が隣接していることも多いし、交易も盛ん。『麦の国』では不発だったけど、エメラルドフロッグ(宝石蛙)の能力でお金もゲットできるだろう」


「あっ、それなら夕飯は牛肉食べれそうね」


「あたいも綺麗な水か美味しい砂糖が欲しいぞ」


 各々が夕飯への期待に目を輝かせたときだった。


 森を抜けた先ーーつまり俺たちが進もうとした方向から悲鳴が聞こえて来たのだ。

 

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