14 報酬ゲットし再び逃亡
「こんなに早く解決してくれるなんて素晴らしいわ!」
夕方ごろ、『麦の国』の庁舎内ーー首長室。
迷惑妖精ことドリアを仲間にした俺はすぐさま首長へと報告にやってきた。
首長室には椅子に座る首長と俺とブランカがいる。そして、ブランカの前には縄で腰を縛られたドリアがちょこんと立っていた。
「これが噂の妖精ね」
首長が興味深そうに椅子から身を乗り出す。ドリアがにかっと笑ってみせると、首長は驚いた様子だ。
「なんというか、人間の子供にしか見えないわね。羽があるから妖精だとはわかるのだけど」
「そうですね。こいつは妖精の中でもかなり珍しいタイプみたいです」
「そうみたいね。この妖精はもう悪さはしないという理解で良いのね?」
「それは信じてもらっていいですよ。俺が言い聞かせましたから。そうだろ、妖精?」
俺に促されたドリアは、
「ソウダヨー。私、モウ悪イコトシナイヨー。ヤクソクスルヨー」
事前に練習させた通りのセリフを口にした。
棒読みではあったが、とりあえず首長は納得してくれたらしい。
テーブルの下から銀貨の入った小袋と、
「これが約束の品よ。受け取って」
茶色の肩掛け鞄を首長は取り出し俺へと差し出した。
「本当にもらっていいんですか?」
「いいのよ。こんなのどかな国ではその鞄をいっぱいにするようなことなんて滅多にないし。もう何年も使っていないから不必要なの。旅人さんの方が上手に使えるでしょ。受け取ってちょうだい」
「そうですか。じゃあ遠慮なく使わさせてもらいますよ」
「そうしてそうして。ところでその妖精はどうするおつもり? 国民の中にはーー特に林業関係者からは八つ裂きにしろなんて言う人たちがいるのよね。私もそうするべきだと考えていたけど」
そう言って首長は再びドリアへと視線を向ける。
ドリアはと言えばにらめっこだとでも勘違いしたのか、唇を尖らせたり目を見開いたりと変顔を披露していた。ブランカに脳天へとチョップを受け、ようやくドリアの変顔は止まった。
「これだけ人間に近いとちょっと八つ裂きはしにくいわね。ましてかなり可愛らしい顔立ちをしているし。国民の中に『あの妖精を飼いたい!』と主張する男性が何人かいるのも肯けるわ」
「あぁ、そのことなんですけどね。この妖精は俺に任せてくれませんか?」
「あら? 何か使い道があるの?」
「こんな外見でも魔物ですからね。魔石を抜き取って、残った体は粉末状にして魔法薬の原料にしようと思うんですよ」
「なるほど。魔法使いらしい活用の仕方ね。じゃああなたにその妖精の処分を任せますわ」
「それじゃあ俺たちは失礼します」
「この国にはいつまで滞在されるのかしら? よろしければディナーに招待しようとも思うのだけど」
「ありがとうございます。でもすいません。すぐに出国する予定なんですよ」
「あらあら。ゆっくりされればいいのに」
「宗教的な理由でしてね。明日の朝までに山頂に行ってボンボルックガムチャの踊りを神に捧げないといけないんで。それじゃあ、失礼しまーす」
「何よ、ボンボルックガムチャの踊りって」
『麦の国』を出国してから小一時間後。
小高い丘を越えたところでブランカが俺へと問いかけてきた。
後ろを見ると、すでに『麦の国』は遥か先。
日が暮れ家々に明かりが灯り、遠くにいる俺たちにも国の明かりが見える。
人目を気にしなくていいこともあり、ブランカは狼耳をフードから出していた。
「ん? あぁ、ただの出まかせだ。しつこくディナーに誘われるような気がしたから断る口実として口にしただけだよ。俺は神様は信じてないけど『宗教上の理由』ってのは結構便利な言葉だぜ」
俺は指先から魔法の光を発しながらブランカの問いに答える。
「そうなの? てっきり私も何か踊らされるのかと思って冷や冷やしたよ。でもディナーにお呼ばれされても良かったんじゃない? ご飯がタダで食べれるってことでしょ? もしかしたら牛肉も……そうだよ! 牛肉だって食べれたかもしれないじゃない! むわー! 何で断ったの?」
ブランカが俺の前に回り込んだ。
俺の行動を非難してか下から覗き込むように睨んできた。
「お座り」
「わん! ……はっ」
俺の命令を受けブランカはその場にしゃがみ込む。
膝立ちし、両手を胸の前で構える仕草は完全に犬のそれだ。
「ひゃははは! わんわん『お座り』させられてる!」
俺の横を飛んでいたドリアがぴょこぴょこと楽しそうに笑っている。
ブランカは顔を真っ赤にして俺とドリアへと交互に視線を向けてきた。
「土下座」
「ひゃん! ……え? なんであたい土下座させられてるの?」
俺の言葉にドリアは素早く空中から滑り込むように着地しつつ、見事な土下座を決めてみせた。
「ブランカが恥ずかしそうだからさ。ドリアも土下座させたら恥ずかしさが減るかなって」
「理不尽だぁ! ナイトがやらせたことじゃん!」
ドリアの抗議を無視し、俺は2人へと語りかける。
「ディナーに呼ばれて飯を食うのもよかったんだけどな。俺が急いで『麦の国』を出国した理由は2つある。1つ目は『七色の風』の存在だ。『麦の国』と『石畳の国』は近すぎる。あの人たちと正面からケンカしたくない。下手すれば殺されるぜ」
「『七色の風』ってあの7人の冒険者のことか? 何々、わんわんとナイトって追われてる身なの? 危険な逃走中なの? 面白そう!」
ドリアが何を勘違いしているのか目を輝かせた。
妖精であるドリアが『七色の風』を知っていることは驚きだ。魔物界隈でも彼らの伝説は話題になっているのだろうか。
「その話はまた寝る前にでも話してやるよ、ドリア。2つ目の理由だけど、これはブランカとドリアのバトルに関係してる」
「ん?」「ん?」
2人が首を傾げた。
「ほら、ブランカがクレーター発生させるようなパンチを放ったろ? あの影響でさ――」
俺は頭を掻きながら続けた。
「あの岩から出ていた水が止まっちゃったんだよ」
「え? そうなの?」「あ、あたいの元餌場が?」
「うん。地下水の流れが衝撃で変わっちゃったんだろうな。帰り際にチラッと確認してみたら岩から水は流れてなかった。多分だけどあの原っぱで岩の周辺だけ香木の木が生えていたのは、岩から流れる水にわずかばかりの魔力が含まれていたからだと思うんだよな。それが流れなくなったということは――」
「特産品の香木が採れなくなる?」
ブランカの回答に俺はそのとおり、と首を縦に振った。
「そういうこと。あの国の人間だって水の重要性は理解しているだろ。それが止まった。いつ? あの魔法使いが妖精退治してからってことに気付くのも時間の問題。重要な資源が採れないとなれば大問題。俺らへと不満をぶつけるかもな」
「そうなる前に逃げてきたってこと?」
「その通り。報酬はもらったし、鍋とか調味料とか旅に必要な買い物もできたからな。もうあの国に用はない。とっとと出ようって考えたわけ。明日くらいになれば水が止まったことに国民も気づくだろう。あの首長はどうなるかな? 責任取らされるかもな」
俺はぱちんと指を鳴らしてみせた。
ブランカとドリアは体の自由を取り戻し、各々思い思いに体を伸ばし始める。
その様子を横目で見ながら、俺はこれから進もうとしている方向へと注意を向けた。
俺たちのいる丘から下には森が広がっている。
ワイルドボアを見つけた森よりもさらに広い森。
時折聞こえる咆哮や大量の鳥たちが一斉に飛び回る音。
それらは夜というシチュエーションと合わさって、俺の心を不安にさせるのに十分だった。
『七色の風』から逃げ、次は『麦の国』からの報復から逃げている。
学校を卒業してから1週間もたっていないのに、まるで大犯罪者にでもなったかのようだ。
--魔物を匿った上に連れているのだから十分犯罪者か。
人知れず自分へと突っ込みを入れながら俺は今後のことを考える。
可能な限り追手の手が届かない遠くへ行きたい。
それが俺にとって一番大きな願い。
俺だっていつまでも逃亡する気はないし、どこかで腰を落ち着けたいものだ。
そうなると頭に浮かぶのは西岸地方への移動だった。
『石畳の国』と『麦の国』があるのは俗に東岸地方と呼ばれている。
そして西岸と東岸。2つの地方は大山脈によって隔てられていた。
大山脈はその標高と気候条件の悪さに加え、多数のドラゴンが住む危険地帯。
いかに名の知れた冒険者パーティーでも攻略は不可能とされている。
ゆえに西岸と東岸の地方は大山脈を大きく迂回して行き来しなければならない。
商人たちはともかく、冒険者は好き好んで東西の地方を行き来することは少ないと聞いたことがあった。
東西共に出現する魔物や鉱石などの資源に大きく差はないため、冒険者は基本的に自分の住む地方を中心として活動するのが普通だ。
『七色の風』は東岸地方の冒険者。
東岸の様々な国からの依頼や人間関係やしがらみがあるはずだ。
俺たちが西岸地方へ逃げれば、いかに彼らでも簡単には追えないだろう。
今の俺は何も持っていないが故の身軽さがある。それは大きな武器だ。
俺は今晩の寝床を決めると簡単な食事を済ませ、ブランカとドリアを図鑑に入れようとした。
しかし、快適であってもやはり外の世界の方にいたいと言う2人の要望もあり、3人で川の字となって寝ることになった。
明日からは西岸地方目指しての旅を始めよう。
俺は静かに瞼を閉じ、眠りにつくことにしたのだった。
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