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13 妖精と鬼ごっこ

 妖精の強さは俺の想定を超えていた。

 植物を操るという能力。ブランカ相手に戦意を喪失しない精神力。そして、魔力切れまで追い込んだとは言え、ブランカの攻撃を耐えきった耐久力。


 体の大きさだけでなく、能力の強さも妖精の常識から外れている。

 俺たちの前にいる妖精はそんな規格外の存在だった。


 ブランカが戦えば、最終的に妖精を倒すことはできるだろう。

 現にこの妖精はブランカの一撃を防ぐだけで魔力が切れかけている。あと一撃で殺せるはずだ。

 だが俺はその選択肢を選ぶのをやめた。


 理由は簡単。俺はこの妖精を仲間にしたいと考え始めたからだ。


 この妖精の能力は攻撃にも防御にも使える応用の効くものだ。ブランカと戦って十分に対抗している点も素晴らしい。欲しかった盾役とサブの攻撃手をこの妖精なら1人でまかなうことができる。はっきり言って逸材だ。それに少々幼稚な印象はあるものの会話が出来る点も高評価。


 そうなると『魔物図鑑』の捕獲条件を満たす必要があるわけだが、果たしてブランカと戦闘させてこの妖精は負けを認めるだろうか? そもそもこのバトルが事前の取り決めもなく始まった喧嘩そのもの。図鑑が示す『勝負』として、ブランカの勝利を図鑑は認定するのだろうか?


 答えは分からない。

 ならば、しっかりと捕獲条件を満たすように行動するべきだ。

 だからこそ俺は『バトル』から『かくれんぼ』へとステージを変えることにした。


「さっきかくれんぼなら相手してやるって言ったよな? 鬼役は妖精、お前がやれ。俺たち2人を制限時間内に見つけたらお前の勝ち。俺たちはお前を追い出すことを諦めて国を去るよ。時間まで逃げ切れば俺たちの勝ちだ。ちなみに能力や道具は存分に使ってくれて構わない。ただし殴る蹴るみたいな暴力は無しだ。妖精にタッチされれば、俺たちは捕まったと判断される」


 クレーターの中央で俺は妖精へとルールを説明した。


「むむむ! 遊びの天才であるあたいにかくれんぼを挑むとはお前バカだな? いいぞ! あたいの強さに平伏すがいい!」

 

 妖精はノリノリだった。ぴょこぴょことその場で嬉しそうにジャンプを繰り返している。


「……バカはあんただよ」


 ブランカがぼそりと呟きつつ、俺へと目配せしてくる。

 うん、やっぱり分かってるな、ブランカのやつ。

 

「それじゃあ、始めよう。隠れる場所はこのクレーターから半径400メートル以内だ。境界線上に俺の魔法で赤い光の帯を作っておく。そこから先に出てはいけないことにしよう。じゃあ、妖精。目をつぶって60秒数えろ。数え終わったらゲーム開始だ」


「あたいには楽勝だな! 相手になってやる!」


 ゲーム開始。

 そして3分もしないうちに俺は妖精に捕まった。


「あはははは! 1匹目捕まえた」


「ああ、捕まっちまったな。あとはブランカだけか。残り時間はあと17分だな」


 クレーターの中央に座らされ、俺は妖精から見下げられている。


「ふふふ。17分なんて必要ない。1分で見つけちゃうもんねーっ!」


 そう言って妖精は宙へと浮かび飛び去って行った。

 そして、そのまま16分が経過。


「もう隠れる場所なんてないのにな。あのわんわんどこに行ったんだ?」


 宙を飛びながら妖精が困り果てた様子で俺へと尋ねてくる。


「聞かれて答えるわけないだろ? さぁ、あと1分だ」


「むむーぅ!」


 そして、タイムアップとなった。

 

「むきーぃ! このあたいが人間と犬に負けるなんて!」


 俺の前に降り立った妖精が悔しそうに地団駄を踏んでいる。

 俺は立ち上がると妖精の目の前で『魔物図鑑』を出現させてみた。

 突然現れた本に驚きながらも妖精は興味津々といった様子。図鑑の中を覗こうと俺の後ろへと回り込んできた。そして、


「あーっ! わんわんがいるー!」


 妖精は図鑑の中に2頭身で描かれたブランカがいることに気づき大声をあげた。


「というわけで、お前の探していたわんわんはずっと図鑑の中にいたんだ。悪いな」


「ぬぅ。ずるい!」


 妖精が悔しそうに歯ぎしりをして俺を睨んできた。

 

「人間ってのはずる賢しこい生き物なのよ。肝に銘じときなさい、妖精」

 

 妖精が驚いて振り返ると、そこには召喚されたブランカが腕を組みながら妖精を見下ろしている。


「うわっ、びっくりした。いきなり現れるなよ、わんわん」


「……もう否定するのも疲れたわ」


 ブランカが面倒臭そうに地面へと座り込んだ。


「さて、妖精」


 俺は図鑑のページをめくりながら妖精へと話を切り出した。


「今実演したように、俺はお前たち魔物を本の中にしまうことの出来る力を持っている。そして、このページを見てくれ。ここにはお前のことが書いてあるだろ? お前はすでに魔物図鑑によって捕獲可能な状態になった」


「あたい、字は読めないぞ」


「あっ、そう。そりゃ悪かった。えっとな、要するにここに『捕獲する』って書かれた図形があるだろ? ここを俺が触れば、お前は俺の手駒になるわけだ」


「な、なんだってー!」


「そうそう。良いリアクションだ。意味は分かるな。手駒になれば、お前は俺の命令に逆らえなくなる」


「そ、そんな! あたいの人生で最大のピンチじゃん!」


「大ピンチだな。同情するぜ。そしてここからが大事な点だ。妖精、お前俺たちと一緒に旅についてこないか?」


「んん? 旅? あたいにここを離れろってことか?」


「そういうこと。図鑑の力で無理やり仲間にすることも出来るけど、どうも会話できる相手だとそんな気分になれないんだよ。どうだろう? 俺はお前の力が凄く魅力的だと思った。妖精が付いてきてくれると、俺たちの旅がかなり楽になりそうなんだ」


「むむー。面白いことはあたい大好きだけど、あそこの湧き水も捨てがたいしなぁ」

 

 妖精は自分が守ってきた餌場を指さすと、口を真一文字にして頭を抱え始めた。

 

「湧き水か…………あぁ、そうだ。妖精、お前一度図鑑の中に入ってみろよ」


 妖精が聞き返す間も無く俺は図鑑の『妖精』ページを開くと、『捕獲する』の選択肢を選んだ。

 ページの項目が変化し、『図鑑に戻す』の項目が出現する。


「ここにいるブランカ曰く、図鑑の中はかなり住み心地のいい空間らしいぞ。ひょっとしたら、あの湧き水を超える水が湧いているかもしれない」


 そう説明すると俺は妖精を図鑑の中に収容した。

 『妖精』のページには2頭身で描かれた妖精の絵が浮かび上がっている。

 絵の中には森らしい場所が背景として描かれていて、妖精は泉のような場所へ口をつけていた。

 その表情は笑顔に満ちていて、絵の吹き出しは『美味い!』と連呼している。


「ほい、お帰り。図鑑の中はどうだった?」


 3分ほどして俺は妖精を召喚した。

 妖精はお腹を膨らませ、恍惚の表情で横たわりながら出現した。


「天国だぁ。天国だったよぉ。森の中にさ、泉が10個くらいあるの。1つ1つ味が違うんだけどね。どれもこれもあたいが飲んだことがないくらいに美味かった。今まで選んだ名水3選なんてゴミだ。げふっ!」


 可愛らしいゲップをしながら満足そうに妖精が感想を漏らす。

 ブランカの言う通り、図鑑内は魔物たちにとって相当快適な空間らしい。


「そりゃあ、よかった。で? どうだ妖精? お前の植物を操る能力に俺は惚れた。もし俺らについてこれば、毎日あの水が飲める」


「むむむ。あの水を……毎日……ゴクリ……」


「それにお前、今回わんわんと喧嘩して負けたろ? このまま負けっぱなしで良いのか? 俺と一緒に旅をすれば、今より強くなれるかもしれないし、わんわんとのリベンジマッチだってできるぞ」


「むぅ。わんわんに勝ち逃げされるのは嫌だ。それになんかお前ら面白そうだしなぁ〜」


「ふん。何回勝負したって私が勝つわよ。あと、わんわん言うな」

 

 ブランカの抗議を聞き流し、妖精はガバッと立ち上がると俺へと抱きついてきた。


「ん? 何だよ妖精?」


「くっくっくっ。あたいの力が必要って言うのならしょうがないな。特別に旅に付いて行ってやるよ人間」


「そうか。そりゃ大歓迎だ。じゃあ、自己紹介しないとな。俺はナイト。魔法使いというよりは宝具持ちって呼ばれる方が適しているだろうな。ご覧の通り18歳のオスだ。よろしく」


「ふむふむ、ナイトか。あたいはドリアだぞ。そこのわんわんの名前は?」


 ドリアと名乗った妖精がブランカを指差した。


「こっちはブランカだ。犬じゃなくて狼人間な。仲良くしてくれよ」


「ふーん。ぶらんこ?」


「ブランカ! 1文字違うわよ、このバカ妖精!」


「あーっ! バカって言った! バカって言った奴がバカなんだぞ!」


「うー。やっぱりこいつ嫌い」


 互いに睨み合う狼と妖精。

 

 2匹の相性はともかくとして、こうして俺はブランカに次ぐ、重要戦力となる魔物を得ることに成功したのだった。


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