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12 緑と無色の対決

 妖精が高度を上げようと力むのを俺は見逃さなかった。

 

 俺の周囲から赤い光弾が10発出現し、妖精の頭上へと発射される。

 妖精は横へと移動して光弾を回避するが、上昇することを妨害された形だ。

 その間にブランカは妖精の目の前へとジャンプして移動していた。


 ブランカのパンチが妖精へと襲いかかる。

 昨晩のフィールドワーク中にも空を飛ぶ魔物には似た方法で対処してきた。

 ジャンプの勢いも合わさった強力なパンチに魔物たちは一撃で沈んだのだ。


 ーー捉えた。


 と俺もブランカも勝利を確信したのだが、


「えへへっ!」


「なっ!」「おっ!」


 妖精が楽しそうに笑うのと同時に地面から何やら茶色い物体が出現し、ブランカと妖精の間に割って入ったのだ。

 思わずパンチを止めてしまうブランカ。

 地面へと着地したブランカは眼前に出現したそれを眺めた。

 

 木の幹だ。

 太くガッチリとした10数本の幹が突如として地面から出現し、壁となって現れた。

 

 俺たちが驚いている間に妖精の方は15メートルほど上昇しふわふわと浮いていた。

 妖精が両手を広げ前方へと突き出す。すると今度は地面から蛇のように植物の根が出現し、ブランカめがけて高速で伸びてきた。

 

 疾風迅雷。

 ブランカはもはや人間である俺の目には捉えられない速さで迫り来る根を回避しつつ、破壊している。

 妖精も驚いたようで、


「わんわんすごーい!」


 と手を叩いている。


「犬じゃないってば!」


 ブランカは砕いた根の中で比較的長いものを槍のように持つと、


「おおらあああっ!」


 妖精めがけて投擲した。

 

 しかし、投げられた木の根は妖精の近くまで飛ばされると、突如として先端から枯れ始め粉々になってしまった。


「すごいすごい! すっごーい! あたいの攻撃を避けて根っこをぶっ壊したのお前が初めてだ。わんわんやるな!」


「あんた人の話聞いてた?」


 ブランカが服についた泥を落としながら、肩を落としている。


「『植物を支配する能力』か」


 『魔物図鑑』を開きながら俺は呟いた。

 図鑑には書き加えられた情報によると、この妖精は自分の周囲にいる植物を思いのままに支配できるらしい。急速成長。急速死亡。それらの現象を繰り返し根っこが蛇か鞭のようにグネグネ動く様はなかなか不気味だ。

 

「今度はあたいの番だ」


 そう言って妖精は服のポケットへと両手を突っ込んだ。


「あれ? どこにしまったっけ? ん。んん? 無いぞ。あれぇ」


 探し物は見つからないらしい。


 ーー緊張感のないやつだな。


 俺は再び光弾を出現させると、ポケットを弄り続ける妖精へと撃ち込んだ。


「あっ! 卑怯だぞ!」


 妖精がぎりぎりで攻撃を躱す。

 

 俺の光弾は威力が低い。たぶん普通の体当たり以下のパワーしかないだろうが、それでも牽制には使える。

 ブランカはその間に地面に落ちている石を数個拾い上げると、恐るべき速さで投擲し始めた。


「ひっ! ちょ、ちょっと待った!」


 妖精が慌てたのかくるくると宙を回りながら、石を回避していく。

 

 俺は走りながら魔力を練り、光弾を放つ。

 ブランカも移動しながら石の投擲を続けた。


「ふ、ふん! このあたいを動揺させるとは! でもこれで終わりだ!」


 探し物を見つけたらしく、妖精はポケットから何かを取り出すと黒い小さな粒をブランカと俺めがけて投げつけてきた。


 ーー黒い粒? …………植物の種か!


「ブランカ、一度離れろ!」


 俺の指示を受け、ブランカは投擲をやめて種の落ちる場所から離れた。

 地面へと撒かれた種が発芽する。

 恐るべき速度で成長するその様は時間が加速しているのかと錯覚しそうだ。


 芽吹いた植物は複雑に絡み合い、成長し合いながら俺とブランカへと蔓を伸ばして来る。

 

「くっ! 速い!」

「もう鬱陶しい!」


 植物たちの攻撃を躱す俺たち。

 ただ、時間が経過するほどに植物たちはどんどん成長している。

 攻撃の速さも密度もそれに合わせて苛烈になってきた。


 ブランカはともかく俺の方はきつい。魔法を準備する間も無く攻撃が迫る。回避に専念せざるを得ない状況だ。

 ブランカも相手の手数に手こずっているらしく、何度か植物の蔓に足を取られる場面がでてきた。

 四方八方。縦横無尽。

 あらゆる角度から太さも速さも違う蔓が俺たちへと迫って来る。


 妖精はというと空中から苦戦する俺たちを眺めながら、


「わっはっはっ! どうだ参ったか!」


 愉快そうに笑っていた。完全に俺たちをナメている態度だ。


 植物たちは攻撃だけでなく、防御面でも優れていた。

 蔓の攻撃をくぐり抜け、ブランカが何度か妖精へと攻撃を仕掛けるが植物の壁によって攻撃が防がれてしまう。しかもブランカの怪力を学習しているらしく、ただ堅いだけでなく、伸縮性に優れた植物が出現したり、表面からネバネバとした粘液を出す植物まで出現している。

 ブランカの攻撃が効きにくくなり、どんどん俺たちは苦境に立たされてきた。

 

「ナイト大丈夫?」


「何とか大丈夫。それよりブランカ、遠慮はいらないぞ。何もかも破壊するつもりで戦え」


「え?」


「お前全然本気じゃないだろ? ドラゴンと喧嘩できるやつがこの程度の植物に苦戦するなんて考えにくいもんな! お前全力を出すと周囲に被害が出るからセーブして戦ってるだろ?」


「……それは」


「それとも妖精ごときに全力を出すのが悔しいのか? ブランカ、認めようぜ。この妖精は強いぞ。出し惜しみしてたら負ける」


「でも本気で戦ったらナイトもダメージあるかもよ? それにこの辺りが全部駄目になるよ?」


「別にいいよ。メチャクチャに破壊してくれて構わない。俺のことは気にするな。やれ、ブランカ!」


 俺の指示を受け、ブランカが大きく地面を蹴り後方へと跳んだ。

 一度植物の結界を抜け、ブランカは呼吸を整える。


「あれ? わんわん逃げたの? もう終わり? つまんないなー」


 妖精は自ら生やした大木の上へと座りながら、口を尖らせぶーぶー言い始めた。

 その隙に俺は図鑑を開き大イノシシーーワイルドボアを召喚する。


 ブランカは俺の様子を確認すると、


「おおおらぁああああ!」


 渾身のパンチを地面めがけて打ち込んだ。






 昔読んだ新聞の記事に遠方の国で隕石が落下したという記事を見たことがあった。

 空を越えたその先から星が降って来る現象。

 初めて読んだときは冗談かと思ったものだが、一緒に掲載されていた落下地点のデッサンを見て実話なのだと当時の俺は戦慄したものだ。

 そして今俺の眼前に広がっている光景はその当時見たデッサンと似ていた。


 クレーター。

 隕石の落下地点で見られる円形にくぼんだ地形。

 それと同じものが俺の前に出現していた。

 何かしら強力な力を受けたことにより発生する地形だ。


 強力な力とはーー

 それは隕石であったり、強力な魔法であったり、ドラゴンのブレスであったり。

 そしてーー狼人間のパンチだったりする。


「あー、すっきりしたぁ。やっぱ全力プレイって最高ね」


 クレーターのほぼ中央。そこでブランカは晴れやかな表情で仁王立ちしていた。

 

「ドラゴンと喧嘩して生き残れるわけだよこりゃ」


 ブランカから離れた場所で俺は砂埃を払いながら立ち上がった。

 

「あっ。ナイト生きてたんだ! 思いの外ピンピンしてるね」


「ブランカの射線から外れていたし、ワイルドボアを壁に使ったおかげだ。それでも20メートルくらい押し出されたな。悪かったよ、ワイルドボア。ゆっくり休んでくれ」


 目を回すワイルドボアを図鑑へ収容すると、すぐさま俺は回復をさせた。

 今後はこんな使い方をしたくないものだ。


 改めて周囲を見渡してみる。

 さっきまで(うごめ)いていた植物たちは衝撃派を受けて消し飛ばされていた。

 堅牢だったはずの根っこの壁も破片が散乱している有様だ。


「あの妖精はどこだ? 逃げたか?」


「ううん。たぶん私の攻撃に巻き込まれたはずだよ。きっとあの辺に……あっ、いた!」


 ブランカが指差す方を見てみると地面の一部から見覚えのある緑色が見えた。

 近づいてみると、緑色のドレスと裸足の足が2本地面から生えている。

 いや、埋まっているのだ。


「掘り返すぞ。ブランカも手伝え」


「このまま埋めちゃってもいいんじゃない?」


 土を退け、岩を退け、ようやく俺たちは埋まっていた妖精を地面から引っ張り出すことができた。

 

 ぼんやりと惚けた表情で座る妖精。

 頬を数回叩いてやると、正気を取り戻したらしい。

 妖精は俺とブランカ、そして変わり果てた周囲を見て、


「すっげー! おもしろーい‼︎」


 満面の笑みを浮かべるとふわりと宙へと舞い上がった。


「あたいの植物たちが木っ端微塵だ! こんなの初めて! わんわんはすごいんだな。見直したぞ!」


 砂埃で汚れた顔に浮かんでいるのは歓喜の表情だ。

 妖精はブランカの横に着陸すると、


「なぁ、わんわん! もう1回遊ぼうよ! 次はもっと凄い植物を見せてやるぞ!」


 ブランカの服を引っ張りながら、妖精は左手を地面に向けた。

 そこから出て来た木の根がブランカを縛りつけようと蠢いたが、


「むむむ! あれ?」


 妖精は首をかしげることになる。

 ブランカへと伸びた木の根はブランカの片腕を縛ったところで動きを止めたのだ。


「魔力が切れたな。しばらくは植物を操れないだろう。多分、無意識にブランカの攻撃から身を守ろうと植物の壁を大量に作り出していたんだろうな。結局はそれでも防ぎ切れずに地面に埋まることになったようだが」


 俺は図鑑に書かれた妖精の詳細を確認し、説明を加えてやる。

 

「あたいの魔力が切れるなんて初めてのことだ! よーし、わんわん! 休憩するから明日また遊ぼうぜ」


「だから狼だって言ってるでしょ!」

 

 ブランカが妖精の頭を小突いた。


「いや、妖精。遊ぶのはいいけどバトルは無しだ。別の遊びをしようぜ」


「別の遊び?」


 妖精もブランカも首を傾げて俺を見てくる。


「かくれんぼだよ。今度はそれで勝負だ」

 

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