表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新月物語   作者: 伊都 空色
2/6

2 朝日に包み込まれて  新月物語

少し気持ちも落ち着いてきた。

ハチミツ入りのコーヒーのせいか、混乱している私をそっとしてお

いてくれている彼のせいか、それ以外のことは今のところ、すべて

見知らぬ風景でしかなかった。


時計のカレンダーでは今日は土曜日だけど、私は休みなんだろうか

というよりも、私は何の仕事をしているのかも誰かに教えてもらわ

ないと分からなかった。

記憶喪失?

まだ鏡は見ていないけど、大丈夫だろうか? そう思いながらまず

姿見用の鏡を見た。

体型よりも先に、エロ過ぎるベビードール姿に目を奪われた。

彼の趣味なのか? それとも私の趣味が変わったのか?

まんざら悪いということもなかった。

身長はそんなにはないわりには、結構セクシーに見える。


次に、頑張って、恐る恐る顔を見た。

認めたくはないが、ショックだった。

私は童顔だったから、年をとってからも、そんなに変わり映えはなか

ったが、それでも自分で思っていたよりも老けていた。


普通のカレンダーを探した。今は何年なんだ。

私が今と思っていた年よりも、2年も先だった。


場所に驚いた次は、時間に驚かされている。

ここは未来ということなのか?

それなら、この時代の私は、2年前に行って、入れ替わったとでも

いうのだろうかと考えた。バカな話だけど、そう考えたほうがツジ

ツマが合う気がした。

一応、何とか次のことを考えていけるための頭の整理はやった。

多分、考えてもどうにもならないことは、考えずにおいた方が、目の

前にある『今』を見ることができるだろうと思った。

もう泣くのは終わりだ。

現実と向き合ってみよう。

ベッドから起き上がり、世界の果てを探す位の気持ちで、寝室を出た。


広いリビングだ。海も山もよく見えた。

気持ちいい朝に合うBGMが流れている。

オープンキッチン近くのテーブルに朝食が用意されていた。

洒落すぎている。盛りつけもいろどりも。ホテルのブッフェのようだ。

彼は居なかった。お風呂に入っているようだった。

私はスパイになったかのような気分で、ドキドキしながら『私の証拠』

物色ぶっしょくした。


私の物に違いなかったが、どれも実感がなかった。

何でもいいから、実感できるものが欲しかった。

さっきのコーヒーカップは、思い出があったんだから、他にもあって良

さそうなのに、何も他になかった。


トイレに行くような感覚で、体が反応するように私は化粧鏡のところへ

行った。すぐ近くが、お風呂場で、今、彼が入っている。私は自分でやって

いる感覚もないまま脱いで、お風呂場へ行った。

何か思い出せるかもしれない。

「何の絵かわからない」パズルの核になるピースが必ず見つけれる気がした。


彼は本当に自然に包み込んでくれた。

私の気持ちを、そして……。

陽の光の中で、感覚にドッと一気に、何の違和感もなく何かがインストール

されたような、すべてを肌で理解できたような、打ち上げ花火のようにとて

も短く感じた、長く幸せな時間だった。


私は何度となく、『私の今』と『彼の今』を行き来しているのだと分かった。

深く海底に沈み込んでいたマグマが吹き出すような位の勢いで、すべての記憶

が感情といっしょに噴出していた。

1人では耐えられないが、彼が居てくれるから、彼を感じていられるから、耐え

る必要も、目をふさぐ必要もなかった。


朝食に手をつけないまま、夜になっていた。

1日で、2年分の勉強をマスターしたような感じだった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ