盗まれた心は悪しき闇に沈みゆく 2
アルは病院へ忍び込み、薬を盗んだ。怪物に言われたとおりに行動しただけの事だったが、彼の心はひどく痛んだ。
「俺はなんてことをしてしまったんだ……」
帰り道、アルはひざを崩して悔し涙を流した。その手には薬瓶をがっちりと握りしめていた。
「くそ……」
涙ながらにアルはなんとか歩き始めた。裏通りに差し掛かると、例のごとく怪物は姿を現せた。
「アル、簡単だっただろ?」
「もう俺はこんなことはしない…… 俺の前にもう現われないでくれ」
アルは後悔していた。法を犯し、こんなにも心が苦しいとは思ってもいなかったからだ。
「アル、お前はそのうちに気付くはず…… じゃあな、アル」
そう言うと怪物は呆気ないほどすんなりと闇に姿を消していった。
そんな出来事から、月ひとつの時が流れたある日のこと。すっかりレッドのところへ姿を見せなくなったアルを心配してレッドはアルを訪ねた。だがそこにいたのは目が血走った、以前とはまるで別人のアルだった。
「アル、お前、大丈夫か?」
「あ? 今頃来てなんの用だ」
アルの様子を見たレッドの表情は強張った。言葉使いや仕草はおろか、その顔色は青白く生気を感じさせない。近づくレッドをアルは乱暴に手で払いのけた。
「どうしたんだ! どうしちまったんだ!」
レッドの言葉はアルには届かない。俺に近づかないでくれと言われているような気がして、レッドは渋々帰って行った。
―――――その夜……。
「アル、持って来たぞ……」
怪物はアルの家へ現れた。その奇妙なガチョウの脚には鍵が握られている。もう珍しい光景ではない。アルは怪物にそそのかされ、盗みを何度も行っていた。犯罪行為がアルの心をしだいに破壊していき、やがて顔つきまでも変化させていた。
「ありがとよ」
アルは一言、怪物に礼を言うと、詳しく盗み方を怪物から聞いた。話が終わると、アルはすぐに狙いの屋敷に忍び込み、慣れた手つきで金を盗んでその場を去った。最近、何度も繰り返されてきたアルの犯罪。その帰り道、いつもの裏通りで怪物は姿を現した。
「ひっひっひ…… 今日も上手くやったな、アル」
「ああ……」
ふてくされた感じにアルは答えた。最近のアルの言動だった。するとアルはいつもと違う気配に気付いた。怪物の後ろに人影が見えたのだ。その人影はレヴェルだった。レヴェルは、瞬時に怪物の顔面に拳を喰らわせた。怪物のそのロバの鼻先は折れ、キリキリと奇怪な音をたてた。驚き止ったアルだったが、即座に身を反転させて逃げ出した。だが、裏通りを塞ぐ人影がそこにも……。レッドだ。レッドはアルを両手で受け止めた。
「アル! 目を覚ませ! 見ろ! アレは悪魔だ!!」
レッドは必死にアルに言い聞かせた。アルの目に映る怪物とレヴェル。怪物の様子をアルは目に焼き付けていた。だが、レヴェルは容赦せずに攻撃を続けていた。
「グェーーー!!」
怪物の奇声が通りに響く。奇怪な怪物のそのウサギの尻尾をもぎ取り、ガチョウの脚を引きちぎった。
「キヒィーーー!!」
レヴェルの拳はその後、ぐちゃぐちゃという音を引きずっていった。怪物は原形が分らないまでに破壊され、そして姿を失った。
「事情はあの人に全部聞いたんだ、アル……。まだ間にあう、元のアルに戻ってくれよ」
レッドはアルの耳に囁き続けた。だがアルは目を見開いたままで言葉を失ったままだ。そんな二人に、レヴェルは振り返った。
「強欲に支配される人間は愚かだ。その男が今後どうなっていくかは。レッド、お前しだいかもな……。その男の本当の姿を知っているのは……お前だろ?」
レヴェルはそう言うと闇に姿を消していった……。