第6章 謁見の間
第6章 謁見の間
謁見の間に私と琉斗が着いたとき公爵はまだ来ていなかった。
そこにいたのはフェン=リルのみ。
「リル。公爵はまだ来ていないのか?」
すると、フェン=リルはこの場に居るのが私とナディア様だけなので砕けたフェン=リルらしい口調で言った。
「ああ、まだ来てない」
「そうか」
「まあ、2人とも座って話してろよ。公爵が来たら中に入れる前に一言声をかけるからさ」
「ああ、そうさせてもらう」
「なんか飲むか?」
フェン=リルが私たちに問う。
「いいえ、大丈夫よ。ありがとうフェン=リル。」
「そうか?じゃあ、ナディア。俺はドアの向こう側で公爵待ってるわ」
「お前の仕事は?」
「もう、終わらせた」
「ありがとう。リル」
琉斗がそう言うとフェン=リルは驚いたように目を見開いた。
「どうかしたの?フェン=リル」
「どうかしたのって、俺。学生時代以来だ。」
そう言うフェン=リルに今度は琉斗が言った。
「何がだ」
「お前に感謝の言葉を述べられたのがだ!」
「えっ」
その言葉に私は思わず声をもらした。
「そう言うことか。」
琉斗は呟いた。
「ありがとう。以前よりも多い仕事を短時間で済ませてくれてありがとう。これからも頼む。」
琉斗であるナディア様が言うと
「ああ、もちろん。んじゃ、今度こそドアの向こう側で公爵のお出迎えの準備をしてくる。」
「頼んだ」
「了解」
そして、フェン=リルは部屋を出て行った。
「ねえ、琉斗」
「ん?」
「フェン=リルにナディア様としての記憶じゃなくて琉斗としての記憶があることを話した?」
「えっ、ああ。軽くは」
「軽くって?」
「ナディアとしての記憶だけじゃなくて全く別人である琉斗の記憶が脳内にあることとナディアとしての記憶よりも琉斗としての記憶の方がはっきりしてることは話した。」
「そんなに話したの?」
「ああ、亜依は?」
「私は、話してない。今度、話そうと思う。」
「そうか」
「琉斗がそこまで話したのなら私も同じくらいかもしくはもう少し深く話そうかな」
「ああ、話したらどこまで話したかを教えてくれ」
「わかった」
そのとき、『トントン』ドアがノックされた。
琉斗が深呼吸してナディア様として答える。
「はい」
「公爵が下にいらっしゃいました。」
ドアの外から聞こえてきたのはやはり、フェン=リルの声だった。
「そうか。来たらノックをして入ってくれ。」
「了解」
3分後
『トントン』ドアをノックする音が聞こえる
「失礼します」
フェン=リルが言う。
「殿下並びに妃殿下におきましては本日も大変ご機嫌麗しくございます」
「麗しくなどないが、」
「が?」
「この時期にわざわざ公爵が王都に来たのだ。私が謁見を断れるわけがないだろう?」
「お時間をいただいてありがとうございます」
「今日は本来アーネストと過ごすための久々の休日だったんだがな」
「申し訳ございません。妃殿下もわざわざありがとうございます」
「いえ」
私は知らず識らずのうちにその声が今までにないほど冷ややかなものになっていたことに気づいていなかった。
「オッホン。公爵、本日はどのようなご用事ですか」
フェン=リルがその場の雰囲気に合わせて言う。
「フェン=リル公爵公子いえ、王太子殿下の側近と申し上げた方が良いのかな。本日は他でもございません。先日の事故の謝罪に参りました。」
「事故?私たちは事故には合っていないが?」
「覚えていらっしゃいませんか?王太子殿下。我が領地で行われるパーティーの際に王太子殿下と妃殿下が湖に…」
「私たちはお前の領地で事件に巻き込まれたんだ。報告書もなしに許すことはできない。」
「王太子殿下?!」
「なんだ」
「事件というのは王宮の考え方ですか?」
「そうだ。我が父王をはじめ王宮のものだけでなく、王都に住むもの、アルフレートや、シオンの周りのもの全ての者が事故ではなく事件だと思っている。」
「我々の調査では事件だという証拠も上がっている」
「誠ですか!?」
「謁見の間で嘘をつくわけがないだろう」
「どちらにせよ、私どもの護衛が不十分でありましたことをここに謝罪いたします。」
「そうか。次はない。気をつけろ」
「はっ」
「私とアーネストは失礼する」
「貴重なお時間をありがとうございました」
そう言う公爵とフェン=リルではないナディア様の側近を2人置いて私と琉斗とフェン=リルはナディア様の部屋に来ていた。