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夢と交渉

 




『――――――――許さない』





 その声で、私はこの空間に自分がいることを理解した。

 そこは、壁も天井も、床すらもない晦冥の空間。自分の体すら知覚することは侭ならず、満ちるのは静寂と孤独のみ。

 体は一切の行動を拒否し、五感は一切の情報伝達を遮断。唯一動かす事ができる思考を懸命に動作させ、今自分が置かれている状況を整理しようとする。



 あぁ、またか。



 溜息を吐くことすら出来ない私は、或いは隠されていた記憶の引き出しを抉じ開けられた様な不快感を感じながら、鼓膜を震わすことなく語り掛けてくるその声に耳を傾けるしかなかった。


『――――――――どうして』


 またこれだ。何のことか分からない。


『――――――――返して』


 何をだ。というか誰なんだ。


『――――――――返して』


 だから何を。いい加減にしてくれ。


『――――――――許さない』


 あぁもう、面倒くさくなってきた。


『――――――――許さない。許さない』


 許してほしい様なことをした覚えはないんだ。もうやめてくれ。


『許さない、許さない、許さない』


 しつこい。黙ってくれ。何度も言われなくても分かってる。


『許さない許さない許さない許さない許さない許さない』


 口を閉じろ。語り掛けてくるな。本当に止めて――――












『許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さな許さい許さない許さない許さない許さない許さない許許さない許さない許ないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないるないゆるさないるさないゆるさないるさいゆるないゆるさないゆるさないゆさいるさないゆるさないゆるさないゆいるさないゆるさないゆるさないゆさないるさないゆるさないゆるさないさないるさないゆるさないゆさないゆさないるさないゆるさないゆるさないゆさないるさないゆるさないゆるさないゆさないるさなるさゆるさないゆさなしねしねしねしねしねしねしねねしねしねししねししねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねししねしねしねしねしねねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねししねしねしねしねしねしねしねねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねししねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねししねししねしねしねしねしねしねしねねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねねしねしねしねしねしねしねしねしねしねねしねしねしししねしねししねしねネネシネシネネネシネシネシシネシネシネシネシシネシネシネシネシネネシネシネシネシネシネシシネシシネネシネシネシネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネネねねねねねねえへかgdskd;sjホgドjdショjファコォアオkフォdソアオホkd;オdサf;khljファs;ォハsflksjカpsjコfdソイアpdfジャソsfh;dジgsdjksfdshjlhl――――










 ――――――――黙れ!!!」




 体を起こし声を荒げたところで、やっと五感が情報を入力し始める。見れば、そこはどこぞのテントの中で、私は寝心地の悪い布に横になっていた。


「……はぁ、夢だよね」


 今更ながら息が上がっているのに気づく。夢の中でできなかった分も含めて、有りっ丈魂を吐き出す様に溜息を吐いた。


「毎度毎度……なんなの、あれ」


 あの夢もこれで3回目だ。いい加減にしてほしい。毎日毎日枕元に立たれても困るというもの。

 おまけに言っていることが一切伝わらないので目的が分からない。只々耳障りである。しかもそれが寝る度に続くというのだから、うかうかと転寝することもできずこの3日間実験詰めの毎日なのだ。不眠症になりそう。


「起きたか。大丈夫か?」


 私が懊悩していると、テントの入り口だろう場所からガタイの良い男が入ってきた。無論無精ひげアネスである。


「ん……はい、大丈夫です。お気遣いどうも」

「何もないなら良かった。急に叫び声が聞こえたから何事かと思ったぞ」

「いえ、少し嫌な夢を見ただけですので」

「そうか。精霊でも夢は見るのだな」


 精霊を何だと思ってるんだ。私も知らないけど。

 しかし、向こうから来てくれたのは都合がいい。探す手間が省けた。


「私、どれくらい寝てました?」

「1日ってところだ。ケルベロスを討伐したのが昨日で、今は次の日の夜だ」

「ネコベロスです」

「?」

「あの怪物。ネコベロスです」

「……ケルベロスじゃ」

「ネコベロスです。ケルベロスは間違っています。間違えないように留意してください」

「お、おう。分かった」


 ここだけは譲る気がない。子供の夢を壊す猫顔ケルベロスなんて私は信じない。あれは"ネコベロス"という一種の魔物である。

 で、私が聞きたいのはそういう事ではなくて。


「取り敢えず、あの後どうなりました?」

「特に問題は無かったぞ。ケ……ネコベロスはお前のレーザーで消失。お菓子を隠し持っていた兵に減給を告げて、今は明日の出発に向けて準備を進めている」


 兵たち可哀想。


「成る程。出発ってのは、サラマンとかいうところでしたっけ」

「あぁ。マナ嵐とお前とでだいぶ遅れはしたが、目的は最初から変わっていない」


 私はイレギュラーということだ。ケッ。


「サラマンって、何しに行くんですか?」

「戦争だ」

「え?」

「戦争をしに行く」


 あぁ……。


「まじですか……」


 確かに鎧来てるし如何にも戦いますって風貌ではあったが、やはり血生臭い争いは避けられないらしい。別に平和な世界を望んでいる訳でもないし、こういうのも人間らしくて良いとは思うのだが……。

 私も少しはそういうのになれていたほうが良いのだろうか。誰かが死ぬ度に胃の内容物とご対面するのは御免である。


「このことを言った後に言うのも何だが、ウヌムルよ。一緒に来ないか?」

「うーん……」


 ナンパとしては最悪の形である。こんな話普通なら絶対にごめんなさいなのだが、今の私は身寄りのない無一文で、おまけにこの世界に関して極端に情弱だ。ついでに言えばここで置いて行かれたら一週間一人で当てもなく歩き回らなければいけなくなる。


 死ねる自信がある。


「まぁいやだというなら大丈夫だ。無理に連れて行くつもりもない」

「……あーいえ、ここで置いて行かれると死んでしまいそうなので、私も連れて行ってください」

「本当か、それは良かった」

「但し」


 と、私は食い気味に言葉を区切る。ここからすることは交渉なのだから、その主導権を取りに行くのは必然だろう。


「条件がいくつかあります。交渉になりますが」

「いいだろう。聞こうか」

「まず、私が知りたいと思ったことを疑問を持たずに教えてください」

「軍事的なことを易々と話すことはできないが……」

「んー、そういう事はそこまで興味ないんで。寧ろ誰でも知っているような常識的なことを教えてください」

「ふむ……俺が問題ないと思ったことだけ教えるという条件付きならいいぞ」

「……まぁ、それでいいでしょう。それが一つ目です」

「残りいくつあるんだ?」

「何、そんな多くありませんし難しくもありません。そう覚悟したような表情をしないでください」


 堅い顔をする無精ひげと対照的に余裕気な笑顔を見せながら、私は三つ指を立てる。


「2つ目ですが、これは保身です。私が適切でないと判断したことに関しては私は一切手を貸しませんし、見てみぬふりをします」

「つまり、納得させることができれば力を貸してくれると」

「言い換えればそうなりますね」

「成る程。飽く迄『中立』という立場を保持してくれるなら認めよう」

「敵への加担は認めないと」

「そうだ。まぁ加担すること等ないとは思うが」

「信用されていると思って?」

「別に構わないぞ」


 2つ目も突破。敵に加担するなというのは当然なので、これに関しては問題ない。3つ目は向こうへの救済措置だから拒否する理由がないだろう。


「最後に、衣食住の提供、及び私への妥当な判断外での暴力行為の禁止です」

「生活保障と傷害行為の禁止か。妥当な判断の基準は?」

「貴方方が私を追い出したくなった時です」

「……ふむ。相分かった」

「交渉成立ですね。あぁ、後、これは唯のお願いなんですけど」

「ふむ、なんだ?」






「気の置けない友達が欲しいんですけど、手配できます?」






「はぁ」


 アネスは、それはもう間抜けな顔で、間抜けな返事を返したのだった。

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