強制依存
ある日、それは突然起こった。
飯が食べれなくなったのだ。
高校を卒業したばかりの俺は、朝いつものように母親の用意してくれた朝食を取ろうとしていた。
が、
口が開かなかった。
まるで朝食を拒むように、
何度も挑むが無理だった。
両親にその事を伝えると、母親が微笑み、親父は、
何かを思い出したような顔をしたあと、黙って下を向いた。
その事に理解できずにいると母親は
「食べられる料理はきっとあるはず、いろんな人の料理を食べてみなさい」
と言ってきた。
そして
「まだ水は飲めるはずよ」
と水を差し出してくれた。
なぜ母親はここまで知っているのだろうか、何度か聞いてみても
「昔読んだ本にそう書いてあった気がするの」
の一点張りであった。
結局親父は出勤するまで一言も話さなかった。
母親も出勤し、俺は家に一人となった。
その間、スーパーの惣菜やお菓子、パン、ゼリーなど、様々な食品を買い食べようとしたが無理であった。
一回割り箸をくわえ、強制的に物を口に入れようとしたが、それだけでなく胃に残っていたのであろうものまで吐き出してしまった。
さらに残念なのが、清涼飲料水など「水」でないものは飲めないということが分かってしまったことだ。
困り果てていたが母親が「いろんな人の料理」と言っていたのを思いだし、行動しようとした。
しかしどうだろう、いきなり友達に「飯を作ってくれ」なんて言ったらどうだろうか、しかも頼んで作ってもらった飯を食えなかったらどう思われるだろうか、そう考えるとどうしようもなかった。
さらに、みんな卒業したからと言って暇なのかというとそうでもない。自動車学校やバイトなど、次の段階に移るための準備をしているのだ。今日はもとから暇なのは俺一人だった。
親友とも言えるやつにSNSで飯が食えなくなったと伝えたが「冗談はもっと上手くつけよ」と軽くあしらわれてしまい、どうしようもなかった。
頼れそうなのは、同じマンションに住む幼馴染みだけであったが、彼女も昨日の夜から卒業旅行とやらに行ってしまった。
昼になり、空腹は更に進んでいた。
が、まだ何も食べられていない。
水で腹を膨らますのも限界であった。
試しに水に粉上の食品を混ぜてみたが、やはり純粋な「水」でないとダメなようだった。
夕方、職場から母親が帰ってきた。
「何か食べれた?」
との質問にはノーと返すしかなかった。
父親もほどなくして帰宅し、夕飯となった。
母親お手製のコロッケは、昔からの好物であったが、今日は見ているだけで終わった。
朝から何も食べておらず、空腹も限界である。
消化器たちが飯を寄越せと腹の中からデモを起こしてくる。
分かっている。俺自身も食べたくて仕方がないのだ。
でも食べられない。目の前にあるのに食べられない。
辛くて仕方がなく泣きそうであった。
結局、この日一日、何も食べられなかった。
翌日、
空腹によりあまり眠れなかった俺は朝食を待っていた。
もしかしたら日が過ぎれば、食べられるようになっているのではないかと、少しの希望を持っていた。
しかしそれは簡単に踏みにじられた。
食べられなかった。
ほどなくして、体が動かなくなり出した。
このままでは、水を飲むことすら出来なくなると感じた俺は、空いていた水筒やペットボトルに水を汲み、自分の部屋のベットの横に置いた。
これば無くなれば、本気で死ぬことになると思っていた。
運び終え、ベットに腰かけると、本当に動けなくなった。
空腹という苦痛に耐えられなくなっていたが、のたうつことも出来なかった。
両親はこの日、残業のため帰ってくるのが遅くなるとのことだった。
父親の態度は分からないが、母親はこの事について何か知っているはずだ。なのに帰ってこれないとは余程ブラックなのか、重要な仕事なのかだろう。
今日の食事を諦め、そのまま眠った。
三日目だ。
人間の体は水だけの生活では一週間持ちこたえられるそうだが、俺には無理と思う。
目は霞み、体は動かず、声はほとんどでない。そんな状況だったが、さらに追い討ちをかけるような事態が発生した。
いよいよ口が開かなくなったのだ。
このままでは水を飲むことすら出来なくなってしまう。
本当に餓死してしまう。
こんな人生あるかよと泣いていた。
腹はもうただの痛みかたではなく、腹の中で戦争が起こっているかのようだった。
しかし、あるインターホンが、この状況を変えた。
幼馴染みがお土産を持ってやって来たのだ。
彼女は俺の部屋に来るとにっこりと微笑んで、
「お母さんから聞いたよ。お腹すいてるよね?私が今から作るから、試してみてね」
と言った。
どれだけ時間がたっただろう。ほんの数十分のはずなのに、果てしなく長く感じた。
「おまたせ、まずは食べてみてね。はい、あーん」
彼女は親子丼を作って、それをスプーンで掬い、差し出してきた。
本来なら恥ずかしくてたまらないだろうが、体が動かないため、従うしかなかった。
彼女の差し出すスプーンが俺の口に近づくと
俺の口が開いた。
そのまま口のなかに入った。
三日ぶりの食事となった。これまでにないくらい美味しかった。
「あはは、○○ってば、なに泣いてるの?」
知らぬ間に泣いていたらしい。でもそんなことを気にせずに飯を催促していた。
「ほんと、親鳥にエサをねだる雛鳥みたいだよ?」
彼女は嬉しそうに俺にスプーンを差し出し続けた。
食事が終わると、俺は安心からか、お礼も言わず、失礼この上ないが、眠ってしまった。
目が覚めると、自分が変な体制であることが分かった。
「じゃあ、○○君は頂きますね」
「ええ、その子もきっと幸せよ。よろしくね」
「はい!ありがとうございました!」
母親と幼馴染みが会話していた。幼馴染みの声が異様に近い。
「ん?」
幼馴染みと目があった瞬間、意識が再び飛んだ。
彼女の目は、濁っていた。
再び目を覚ますと、知らない天井があった。
いや知っている。俺の部屋のものと同じやつだ。
上体を起こしてみると、現在位置がわかった。ここは幼馴染みの部屋だった。
しかし体が変だ。肌寒い。しかも首に違和感がある。
見てみると全裸であった。
「おはよう、目が覚めたのね」
すると幼馴染みがこの部屋に入ってきた。
「ふふっ、ついにあなたを独り占めにできる」
そう言いながら俺に近づいてくる。
俺は思わず後ろに下がろうとするが、やはり体は万全ではなくただ寝転がるような形になってしまった。
「どうして逃げようとするのかな?逃げても、私の料理以外食べられないから、飢え死にしちゃうよ?」
彼女は微笑みながら、俺を見下ろしながら、そう言った。
だが俺はまだ状況を掴めずにいた。
「分からないって顔してるね。いいよ、説明してあげる。あなたが物を食べられなくなったのはそういう呪いがあったから、その呪いをかけたのは実は私なの」
そう説明されるが、やはり理解できなかった。呪いという言葉も、理解のできなさに拍車をかけた。
「私の料理以外食べられなくなったら、あなたは私とずっと、ずうっと、ずうううううっと一緒になる。あなたはわたしといなければ生きてはいけないの」
さらに彼女は説明を続ける。俺は彼女をいつしか恐怖の対象として見るようになっていた。
「昔からあなたが好きだった。けどあなたはこっちを見てくれもしなかった。どんなに頑張っても『幼馴染』から抜け出せなかった。だからこうしたの。あなたのお母さんも手伝ってくれたわ。いや、今はお義母様」
母親が手伝った。その言葉も信じられなかった。
「お義母様、お義父様とは私と同じようにして結ばれたそうよ?このやり方は、恋する乙女の特権なんだって」
父親が、いきなり黙ったのはそこだったのか、おしどり夫婦って近所でも評判だったが、そんな裏側があったなんて知らなかった。知りたくなかった。
「でもこれで、今日からあなたは私のモノになった。あなたは私の恋人であり旦那でありペットであり奴隷となるの、ふふ、首輪、似合ってるわ」
そう言われた瞬間から、体が震え始めた。恐怖が体を支配していた。
助けて、そう思った。
「そっか、『たすけて』か、まだそんなこと考えてたんだね?いいわ、今から私の事以外、考えられないようになるよう、調教してあげる。それはもう、心も身体もね」
彼女は笑った。その顔は恐ろしく、綺麗でもあった。
そのあとは、本当に彼女の良いように扱われた。
彼女に逆らおうとするとムチが飛んだ。
飯は彼女に懇願しないと作って貰えなかった。
彼女との生殖作業も幾度となく行われた。
俺は一度だけ、彼女の部屋から逃げ出した。
しかし、飯が食べられない以上、どうしようもなかった。
あっさりと捉えられ、拷問された。
俺は彼女に依存しないと生きていけないのだ。
彼女はモデルのような顔とスタイルをしており、さらに誰にでも優しい。
学校では常に人気者だった。大学でもきっとそうだろう。
だが、このようなことになっているとは、誰も想像出来ないだろう。
幼馴染みの俺でさえ、未だに信じられないのだから。
あの優しい彼女は、どこに行ってしまったのだろう…。
俺はもう、彼女のなすがままとなり、自分の意思で動くことは出来
なくなっていた。
今日も彼女に逆レイプされていた。
人形と化していたら、不意に昔の事を思い出した。
高校で、友人たちと遊んでいたことである。もう二度と出来ないことなのだろう。強く、心が痛んだ。
突然、
「んー、まだそんなこと考えちゃうんだ…」
そんなことを言い出した。
「私のこと以外を考えるなんて、お仕置きだよね。今回は、どうしちゃおっかなぁ、うふふふふふ」
その日も、俺の涙が枯れるまで、犯されながら、拷問された。
ご覧いただきありがとうございました
もとネタはとある深海魚です。