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文化祭イベント プロローグ

 新学期始まってそうそうのHRは来月行われる文化祭の実行委員決めだ。

 特別重要な時間ではなく、私にしては前回と同じ流れなのは分かっているので尚更退屈だ。

 実行委員はクラスから男女一人ずつの選出で、文化祭に向けての準備に尽力する。うちのクラスでは立候補者もいないので、ジャンケンで決めることになった。今回もまた適当に誰かが決まって、文化祭のクラスの出し物どうするーといった雑談で終わるはずだ。


 終わるはずだったのに、負けた……だと。何故、私が実行委員になっている? こんな展開は初めてだ! だが、何故?と頭を悩ませるまでもない。だって勝負法がジャンケンだから。1年も前にジャンケンで何を出して勝ったかなど覚えているはずもない。当然私が負ける可能性もあるわけで。

だからと言ってやりたいとは微塵も思わない。私そういうタイプじゃないし、これから一か月放課後はだだ潰れになる。

「まあ裏を返せば一か月間頑張るだけで終わるし、内申は良くなるんだしさ」

 ショックで震える私に対して、後ろの席から佳乃がなぐさめてくる。

「短期決戦型かー。ね、佳乃代わりにやらない? 今なら間に合うよ。佳乃まとめるの得意じゃん!」

「クラス委員とさらに兼任させる気? 別に実行委員ってそんな前に出る役じゃないって。出し物決める時くらい? 実際は裏でバタバタするのが大変なんだって」

「裏方か……それよりやっぱ、その期間部活時間少なくなるなー」

「全く出来なくなるわけじゃないから、諦めなさい。あ、早速今日の放課後から打ち合わせだって!」

 無情な報告が私をさらに打ちのめした。


 委員会の打ち合わせのため、放課後に3年の教室へ向かう。めったに入らない教室に踏み込むというのはちょっとした戸惑いがある。

 がらりとドアを開け、慣れない教室を軽く見渡して……知っている人物と目が合って後悔した。思わずドアを閉めてしまう。

「え? 成瀬さん?」

 もう一人の同じクラスの文化祭委員が、教室に入らない私を見て、後ろで困惑している。

「見たくもないものを見てしまった」

「ま、ま、ま、まさか霊的な?」

「もっとたちが悪い……」

 豪快な音を立てて眼前のドアが開き、手を掴まれ中に引っ張られる。

「ほぉぅ。たちが悪くて残念だったなぁ」

 まさかこの男まで実行委員だったとは。この声だけは聞きたくなかった! 聞きたくもない声の高坂先輩は、私の手を引いて先程まで座っていた席に再び腰かけると、おもむろに私を抱えるようにして、わしゃわしゃーと髪をかき混ぜる。

 な、何だというのだこの行為は! 悪寒がする。止め……止めろっ!

 腕から逃れようと、体をバタバタさせるが身動きが取れない。はたから見たら後輩を可愛がっている図のように見えるのかもしれないがこの男に限ってそれはない。

 周りの女子がこの様子を見てこそこそ話している。1年から3年のあらゆる学年の女子が。そう、こんな奴なのになぜかこの男は女子人気が高いのだ。そんなやつにこんなことされたら後で何されるか分かったもんじゃない。

「高坂先輩止めて下さい。いや、本当マジで。今までの嫌がらせでこれが一番嫌です。女子の目が怖いので本っ当に止めて下さい」

 それでもわしゃわしゃは止まらない。にやりと口元を歪められて、耳元でささやかれる。

「ざまあみろ」

 確信犯か、確信犯なのか! 

 何故だかは分からないが花火の時に佳乃と二人きりにしたことを相当根に持っているらしい。あの日から私に対する嫌がらせはますますヒーットアップしている。

「私は先輩が嫌いなので傍に寄りたくはありません」

 皆に聞こえるように言ってやる。私はこの男と関係ありませんアピールだ。

「へえ、俺はお前のこと好きだけど」

 クラスがざわっとする。皆に聞こえるような声で言いやがった。視線がささる。背筋が凍る思いがする。これは完全に校舎裏に呼び出されるパターンだ。

 佳乃とか美人系が高坂先輩に絡んでようと誰も文句は言わないけど、私相手じゃそうは問屋が卸さないのだ。明日から学校行けるかなぁ。

「自由席みたいだからさぁ。お前ここ座れよ」

 何の冗談か、高坂先輩は自分の膝の上をポンポン叩く。馬鹿じゃないの? 嫌すぎる。そこに座るぐらいなら加齢臭だらけの満員電車に座る方が幾分もましだ。

「1年は謙虚に教室の隅のでも陣取っておきますのでご心配なく。さあ、いくよ、畑中」

「え、えー?」

 もう一人の実行委員の畑中を促して何とか一番離れた席に座る。もっと難癖つけられるかとも思ったが、高坂先輩はあの後すんなり離してくれた。

離して……はくれたが代わりに女子の冷たい視線が先程から刺さったままだ。まさに針のムシロを体験している。

 まだ人数が半分くらいしか集まっていなかったのがせめてもの救いだった。随時人の入室があるおかげで場の空気が多少は和らでいく。

 そして場の空気を完全に変えてくれた一組の入室者がいた。

 集合時刻5分前に開いたドアから、隣のクラスで見たことある顔が除く。名前は覚えていないけどよく廊下ですれ違うことのある男子だ。その後ろからもう一人、全校生徒が周知しているであろうアイドルっ子の鈴音が入ってくる。

 相変わらず真ん丸のお目目で、花を振りまくような可憐さだ。その姿は同じ女子であってもときめきを隠せない。いわんや男なら尚更だ。皆のときめきがその場を支配するのが分かった。

 鈴音はにっこりその場全員に微笑むよう首を傾けて教室に入る。サービス精神旺盛だ!

 鈴音が教室に完全に入ると、前にいたクラスメイトの男子がわざわざ後方に回ってドアを閉める。さらに近くの机の椅子を引いて、座ってもらう準備も万端だ。自主的に彼がやってるだけで強制させているかは知ったことではないが、その一連の行為は、姫様……姫様がここにいる! という貫禄だ。可愛いから女王様と言うよりは姫。

 おかげで私に刺さる視線は消えていた。クラスは鈴音ちゃん可愛いよ! オーラで満たされ、皆鈴音の方ばかりチラチラ見ている。鈴音ちゃんばんざーい。

 偶然かは知らないが、鈴音は高坂先輩の隣の席に座っている。ちなみにお付きのクラスメイトの男子はその後ろ。あの女好きの先輩だから、随分と鼻の下を伸ばしていることだろうと思って、こっそり斜め後ろを観察すると、あらま案外無関心。肘をついたまま思案顔。意外にも横の鈴音の方が熱い視線を送っているように見えるのは気のせいだろうか。


 担当の教師が教室に慌てて入ってきて、委員会が始まると私の心配はそちらへ移る。

 文化祭自体は1年生ながらこれで3度目の経験となるが、実行委員として経験はないので不安はある。文化祭自体も1年のクラスでは掲示物の展覧だったので楽なものだったが、前回より忙しそうになりそうで今から気が滅入る。

 本日は委員長決めと各係決めで終わるが、これから文化祭が近づくとなると取られる時間も増えてくれるだろう。部活の時間がその分減らされることも悩みの種だ。委員長、副委員長は3年の中から選出されるので関係ないが、なるべく楽な係になるようにしたい。

 ちなみに何の係になるかは完全に運。畑中君、私の運命は君のくじ運の強さにかかっているのだ。いい係り勝ち取って来いと念送る。

 係りが書かれたくじを引いていって、随時黒板にどこのクラスが何の役割なのか書かれていく。それによると私のクラスは仕入係に決まったらしい。まあいいだろう。クリエイティブな発想ができない私にはパンフレット作成とかは論外だし。

 ようやく全部が出そろい、黒板に全てのクラスの役割が書かれる。それを眺めて高坂先輩と別の係りになったことを確かめて胸をなでおろした。部活時で精一杯だというのに、こんなところでまで、いびられたくはない。ストレスで胃に穴があく。

 そこで並んだクラスを見てあることに気が付く。広報係の高坂先輩と鈴音のクラスが並んでいる。ああ? 

 そこで合点がいった。ほとんど共通点がないと思われた二人の共通イベントはおそらくこれ、だったというのだ。やばい、胃に穴があきそう。



 てんてこ舞いとはこういうことなのか! 仕入係は楽な方だとは思ったが、各クラスの必要なものリストをまとめて、経理担当に掛け合っては買い出し、却下されたものに関しては代替品を探し出し、駆け回る。しかもただの買い物係で終わるはずもなく、校内装飾作成も兼任することになっているので、階段に一段一段貼り付けるポスターとかまで描いていかねばならない。

 隙を見て、高坂先輩と鈴音の様子を伺おうかと画策していたが無理。そんな時間作る暇もない。

 それどころか佳乃の恋愛成就に関する作戦すら立てられていない。実行委員の活動が増えてからは、部活に遅れて参加することになるので、練習内容がずれてしまうし、実行委員以外は居残りも許されていないので、高坂先輩と佳乃は満足に会話することも出来ていない様子だ。

 このままではイベント不足でグッドエンドにたどりつけないのでは危惧していた時、佳乃から一報が入った。

「文化祭、晴輝先輩と回れることになったから」

 驚いてゲーム機を落としそうになった。先に断りを入れておくが、自室でだらだらとゲームに勤しんでいたわけではない。ルート構築の予習で寝る前にゲームを参考にしていただけだ。遊んでいたわけでは断じてないからな。

「マジで!? どうやって」

「倒した!」

「…………は?」

「だから、晴輝先輩と文化祭の先約のあった子を全員倒してきた」

 佳乃は机の前の回転椅子に座って回りながら、飄々とそう言った。

「その、倒すって何? 話しつけたってこと?」

「そう言うことかな? 先約の子を聞き出して、一人一人、その日譲ってねって殴る振りして脅したりしてさぁ」

 ひゅっひゅっと風を切る音を出してその場で素振りをする。

「ああ、何人かは実際に殴っちゃったかも」

「物理的か! ちょっと、暴力問題に発展しない!? 大丈夫なのかそれ!」

「大丈夫、大丈夫! 絶対に口外させないようにしたから」

 絶対に大丈夫じゃない。この女は何をしたのだというのだ。ていうか2日間の文化祭で何人と約束してたんだ、高坂先輩は。 

「それで高坂先輩はいいって?」

「うん。約束全部キャンセルにしましたし、何度入れても全部キャンセルになりますよ。って言ったら納得して、私と快く2日とも一緒に回ってくれるって」

 それは本当に快くなんだろうか。

「でもよく強硬手段に出たね。一応、佳乃優等生キャラだし外聞悪くすること今までしてこなかったじゃん」

「なんか昔の自分を思い出してね、どうでもよくなってきちゃった。不特定多数に良く思われたってさ」

 佳乃は回転椅子を止めて立ちあがる。

「私、昔やんちゃしてたんだけど、今こそその根性を思い出す時なんじゃないかって思わない? できることは何でもしないと!」

 自分でイベントを勝ち取ってくれたことは嬉しいのだが、その心意気や良し! と本当に思っても大丈夫なんだろうか。


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