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2 少女の神獣


 まさに秘境、未開のジャングルだった。


(すげえな。ライオンだからなのか、生き物の気配が分かる。怯えて逃げる動物の気配も)


 だが、このジャングルはライオンが生息しているような地域ではない気もする。それこそ有史以前ならばともかく。

おそらく教授のことだ。どうせ人に見られることはないだろうし、それに七日間程ライオンがそこにいたとして歴史に対して何が変わるものじゃないと思い、そのままここに放りこんだのだろう。ジャングルに行きたがっていた譲に配慮して。


(きっちりしているようで、教授ってそういうアバウトさもあるからな。そこがいいんだけど)


 躊躇(ためら)うものがなかったわけじゃないが、好奇心から逃げる獣に噛みついてみた。


(牙で噛みついた途端、溢れ出す血潮。・・・なんて甘美なのか)


牙に感じる生き物の血、それはたしかに甘く感じた。・・・今まで焼肉屋などでレアに近い肉を食べていても、そんな風に感じたことはなかったのに。普段だったら食べない、獣の内臓すら美味だった。

 濁った川でのどを潤す。人間であればそんな濁った水など一口で吐き出し、すぐさま腹を壊しただろう。なのに、それすら旨いと感じた。


(これが獣の感覚なのか。人とは、・・・なんて手間のかかる、弱々しい存在なんだろう)


 ジャングルは蒸し暑く、様々な生き物や植物の生命が生み出す気配に満ちていた。

一日目の晩、適当な木の陰で譲は目を閉じようとしたが、夜にこそ自分の獣としての本能が(うず)くのを感じた。


(何だ、これ。・・・夜でも生き物の気配を感じる。吠えずにはいられない。どこまでも体の奥が熱い。・・・白鷺になった川原さんもこんな思いを味わっているんだろうか。いや、白鷺だから夜は寝てるか。だけど日中は大空をどこまでも高く飛び、遠くまでその身を運んで行ける解放感に浸っていることだろう。これは、・・・人の身では味わえない世界だ)


 ライオンになったのだからと、その牙と爪で獣を引き裂いてはガツガツと喰らっている譲と違い、静乃はちょこっと空を飛んだら後は満足して白鷺らしい餌も食べずに大の字になって寝ているとは思いもせず、譲はそんなことを思った。

 





 草むらに潜み、餌となる獣の様子を(うかが)う。ライオンの茶色い毛は、どこまでも地面に同化するのだと知った。逃げ足の速い動物を逃がさぬよう、近くまで近づいてきた時に襲うのだ。

 ライオンの体はかなり大きい。体重も人間だった譲の三倍はありそうだ。筋肉は発達しているが、小回りはどうしても逃げる動物の方がきく。だからこそ近づくまで気配を悟らせてはならない。


(ん?)


 そこで譲は警戒心のなさそうな生き物の気配を感じた。どう考えても遅い逃げ足の生き物だ。

 そちらにそろりと移動して確認し、譲は目を(みは)った。


(人間だ。しかも小さな女の子じゃないか。・・・・・・死ぬぞ、こんな所に一人でいたら)


 その小さな女の子は手に剣を持っていた。だが、獣相手にそんなものがどれ程役に立つだろう。

 一瞬で人間の意識を取り戻した譲は、静かに少女の前へと姿を現した。






「ひっ」


 目前の木陰から現れたライオンの姿に、少女は言い知れぬ恐怖で息を呑んだ。


(怖いっ、どっ、どうしようっ、どうしようっ)


 恐ろしさに身がすくむ。自分など丸呑みできそうな姿は、たとえ自分が剣を突き立てても、骨ごと自分を喰らってしまうだろう。

 逃げたら背中から襲われるだけだ。

 それでも怖くて立ち向かうことなどできない。


(嫌っ、どうすればっ、・・・死んでいくのっ、・・・だから嫌って言ったのにっ)


 褐色の肌に黒い髪と黒い瞳を持つ少女は、十から十二才程だっただろう。だが、少女の属する地域で年齢はあまり重視されない。そういった数の概念があまりないからだ。

 少女とライオンは見つめ合い、そして時間だけが過ぎていった。


(・・・・・・・・・)

(・・・・・・・・・)


 やがて、少女も何かおかしいと感じ始めた。ライオンは動かないからだ。

 譲は自分の姿が人間にとってどれほど恐ろしいものか分かっている。近寄れば少女がパニックになることも理解していた。そして変な方向へ逃げられて、毒蛇などがいる所に行かれてしまったらそれこそ危険だ。

 まずは少女の警戒心を解く必要があった。

 そんなライオンが立ち尽くしている姿に、少女はどうすればいいのかと思い始める。


『も、もしかして、見逃してくれるの・・・?』


 少女の言葉は譲に理解できない。だが、自分に対して何かを語りかけたのは分かった。応えるように右脚だけ一歩踏み出す。「ひっ」と、少女が悲鳴をあげて後ずさったので、そこで譲は立ち止まった。

 悲鳴をあげはしたものの、そこでライオンが止まったので、少女は何度か深呼吸をして自分を落ち着かせた。


『お、お願い。近づかないで』


 そこで譲が左足を一歩踏み出す。やはり少女が震えて息を呑む様子に譲は立ち止まった。

 自分に少女を害する意思はない。だが、彼女などこの牙一つ、爪一つで引き裂けるのだ。恐怖に(おのの)かれても仕方ない。彼女の自分を恐れる表情は理解できる。


(姿を消してやればいいんだろうけど、・・・それじゃ帰り道にでも他の獣に襲われるだけだ。こんなひょろひょろした女の子なんてな)


 震えて座り込みたかった少女だが、それこそが一瞬で自分の命を奪うことになるとも理解していた。


『お願い、どこかに行って』


 譲が右脚を一歩踏み出す。少女は一歩下がった。そんな彼女の足は緊張のあまりに役立たなくなっていたのだろう。その際に、がくっとバランスを崩して少女は膝から倒れ込んでしまった。


(く、喰われるっ)


 視線を外してしまった。怖さのあまり、彼女の手も足も全く動かない。

 恐怖の余りに涙を零して俯いてしまった少女の傍に、ライオンが近づいてきたのが分かる。その茶色い毛が生えた太い脚が、視界に入った。

 剣を持ってはいても、こんな大きな獣に突き立てる勇気などない。

 少女はガクガクと震えたまま、自分に食い込むであろう牙の痛みを思ってぎゅっと目を閉じた。

 そして、そのまま時間が過ぎた。


(・・・・・・え?)


 自分のすぐ前に大きな茶色い獣がいるのは分かる。だが、その獣は大きな目と口を少女の前に持ってきておきながら、首に噛みつこうとしていないのだ。

 少女は恐る恐る涙に濡れた瞳でそのライオンの目を見つめた。

 すると、ペロリと大きな舌が少女の頬を舐めてくる。

 ・・・・・・かなり痛かった。人間の舌と違い、かなりザラザラしていて、それだけでかすり傷ができる。そんな少女の傷を認めて、ライオンはどこかたじろいだ様子だった。


(あっちゃー。やべえ。舐めただけでケガするのかよ。そりゃ骨から肉をも引っぺがすぐらいの舌だもんな、弱いわけがねえよな。ごめんよ、ごめんな、本当に)


 譲も焦った。まさかそうなるとは思いもしなかったのだ。小さい上、少女は痩せていた。更に怯えている姿があまりにも哀れだった。

 だが、少女はそれで落ち着いた様子だった。怪我した頬はともかく、ライオンが今すぐ自分を食べる様子がないと気づいたらしい。


『もしかして、見逃して、くれるの?』


 何と言っているのか分からなかったが、譲は何も言わなかった。グルグルとライオンならではの唸り声を立てようものなら、少女が怯えてしまうだろうと思ったのだ。ただ、落ち着くのを待った。


『あ、ありがとう』


 少女が何度か失敗し、よろけながら立ち上がる。そして、そのまま来たところへと戻ろうとするのに合わせ、譲も動くことにした。


『あ、あの?』


 少女にしてみれば、自分と一緒に同じ方向へとライオンが動くのだ。どうすればいいのかと、本気で足が震える。

 それでもカクカクとしてまともに歩けていない自分に歩調を合わせ、ゆっくりと動いてくれる獣に自分を傷つける意思がないことは分かった。

 どうせここで生き抜ける自信なんて、少女には最初からなかった。

 だからもういいやと思った。


『私と、一緒に来る? 大きな獣さん』


 返事はなかったが、その獣と共に少女は自分の仮の住処(すみか)へと戻ることにした。






 少女が譲を連れて行った先は、開けた草地に、木で出来た小屋が建てられている、そんな場所だった。

 木で出来た小屋といっても、バンガローみたいなものだ。獣に襲われるのを防ぐ為なのだろう。梯子みたいなものがあって、一階部分は柱しかない。梯子で上がった二階で居住できるという小屋である。


『ちょっと待っててね。果物をあげる』


 少女は梯子を昇って小屋の二階へと行ってしまったが、すぐに手に何かの果実を持って戻ってきた。


『はい、どうぞ。大きな獣さん』


 さすがの少女も、自分がここに戻ってくるまでの間、他の獣を追っ払ってくれている譲に警戒心が失せていた。大きい獣だが犬みたいなものなのだろう。そう思ったのだ。


(何だ、俺にくれるのか? お礼みたいなものか。・・・ライオンって果物なんて食べるのかねえ。ま、いっか)


 ありがたく譲はそれを一個だけ食べることにした。というのも、痩せた少女こそ食べた方がいいと思ったからだ。自分は食べなくても飢えたりしないから、一個で十分だ。

人間の時なら吐き出していたであろう種もガリガリと食べてしまう。甘くとろりとした果実だった。


『もういいの? まだあるのよ? ・・・お腹一杯なのかしら。ふふ。おいしかった?』


 食べた以上、満足したと伝えた方がよさそうだと思い、グルグルと譲は唸り声を立ててみた。さすがに少女ももう怯えない。

 番犬代わりをしていてやるよと言わんばかりに、譲はそこで横になった。人間に戻れば梯子を昇ってバンガローにも入れるが、自分はこんな小さな女の子が獣に襲われるのを見たくなかっただけだ。

 彼女は勝手に二階へと行けばいい。自分はここでいてやる。その程度の気持ちだった。


『あのね、あなたがいてくれたらね、きっとここも怖くないわよね』


 だが、少女はそんな譲の傍に座り込んでしまった。獣が自分を傷つけないと、分かったからかもしれない。

 少女は、自分が転びそうになる度に体で支えてくれようとしたライオンは、かなり賢いのだと思い始めていた。


『私ね、あと少しここにいなきゃいけないんですって。他の女の子達もそうなの。・・・最後まで生き残った人が巫女になるのよ。なりたくなんてないのに・・・』


 少女の目に涙が浮かんだ。村を離れて、少女達はそれぞれ別の小屋に一人で暮らさなくてはならない。最後まで長く生き抜いた一人が次の巫女になるのだ。

 何を言っているのか分からなかったが、譲はその鼻先を少女の頬に近づける。さすがに二度と舐めようとは思わない。


(普通、集落とかに住んでるなら分かるんだが、こんな所で小さな女の子が一人ってどういうことだ? 何か罪を犯して村八分とか? こんな小さな子が? それとも親子で住んでいたのが、親が亡くなってしまったとか?)


 鼻先を近づけることでその涙を自分の毛皮で吸い取ろうとしたのは、舌で舐めるわけにいかなかったからなのだが、そこで譲は自分の毛皮が水を弾くのだと知った。全然吸い取れていない。


『慰めてくれるの? ありがとう、賢いのね、あなた』


 だけど少女が笑ってくれたので良しとしよう。小さな女の子が泣いているのも見たくない。やはり子供は笑っている方がいい。

 そんな譲の気持ちが分かったのだろうか。

 そんな彼女は安心した表情で、やがて譲の体温と毛皮に包まれて眠ってしまった。


(やべえ。このままいくともうすぐ日暮れだぜ。どうすんだよ。それこそ夜行性の獣が襲ってくる時間帯になるじゃねえか。さっさと小屋に入らせねえと)


 少女を起こそうと体を揺らしてみたが、熟睡しているのか、少女は起きなかった。

 譲が知る筈もなかったが、毎日びくびくと怯えていた少女はそれまで眠りも浅く、体が疲れ切っていたのだ。安心しきった少女は、かなり深く寝入っていた。


(仕方ねえ。起きるなよ)


 譲は人間の姿に戻った。そこで自分が裸なのに気づく。


(マジか。今なら俺、公然わいせつ罪? それとも露出狂? お願いだから見逃してくれ、警察の人。言っとくけど俺は痴漢なんかじゃねえからな)


 ここは絶対に起きてもらっては困る場面だ。少女を抱きあげると、譲はさっさと梯子を昇って二階へと運んだ。


「へえ。まあ、最低限の物はあるのか」


 寝台になるのだろう、大きな葉っぱが重ねられた寝床に少女を寝かせると、譲は辺りを見渡した。水の入った壺に、幾つかの果実。

 だが、水も果実も残りは少ない。明日の分がぎりぎりだ。

そして置かれている物を見れば、少女が一人で暮らしているのが分かる。


(肉とか食わねえと死んじまうだろうが。・・・だからさっき剣を持って歩いていたのか? 獣を狩ろうと? ・・・無茶だろ。せめて罠を仕掛けろよ。それとも何か食べ物を探していたのか・・・)


 そこらにあった紐のような布を壺に巻きつけて、ライオンの首に提げられるような長さの取っ手を作る。


(たしか、小川があった筈だ。そっちなら水も濁っていないだろう)


 壺を持って梯子を降りると、その梯子をそのまま地上で横にしてしまい、猿などの獣も入り込めないようにする。そしてライオンの姿に戻ると、壺を首に提げて小川へと向かい、壺一杯の水を持って小屋へと戻ってきた譲は、今度は鷲の姿へと変化した。


(日が暮れる前に済まさないとな)


 そしてたわわに実った果実の枝を持って帰ると、そこでまた人間の姿に戻り、水と果実をバンガローの中へと運び込む。

 少女は熟睡していた。その頃には日も暮れようとしている。


(そのまま寝ておいてくれよ)


 辺りが暗くなり始めたジャングルには、夜にこそ動き出す獣たちの気配が溢れ始める。

 再び地上に降りた譲は梯子を外し、その近くに火打石を置いてからライオンの姿へと変化した。


(猿も食べる文化だよな、こういう所なら。まあ、何でもいっか)


 肉でも魚でも少女が食べられそうなものならそれでいい。あれはほとんど食べていなかった体だ。あまりの軽さにびっくりした。きっと水と果実だけでしのいでいたのだろう。炭水化物とかもあればいいが、生憎と自分はパンの作り方も分からないし、小麦粉もなさそうだ。


(先に、燃やせる枝を折っとくか)


 ライオンの力ならば、枝も簡単に折ってしまうことができる。そこらの枝を幾つかバキバキと折ったというか、裂いたというか、そんな感じで持ってきて重ねておく。


(さーて。お次は狩り、狩りっとな)


 そうして今までのような時間潰しではなく、譲は目的を持って狩りに臨むことにした。あの瘦せっぽちな少女に何か食べさせてやらねばならない。

そうして鹿のような生き物を捕まえ、自分の牙で四肢を裂いた後、枝に吊るして血を抜いた。


(ライオンが食うのなら血抜きなんてしなくていいんだが、やっぱり人間には血抜きしておかないと食えたもんじゃないよな。それに、持ち帰る時に血が垂れるのは困る。獣を(おび)き寄せるからな)

 

 さすがにライオンが近くにいるとなると、その肉を狙う獣達も近づけない。だが譲も鬼ではなかったので、食べきれない分は自分が立ち去った後で、そいつらにくれてやるつもりもあった。


(そろそろ血も落ちなくなったからいいか)


 彼女の分なら脚一つでも十分だ。譲はそれだけ(あご)(くわ)えると少女のバンガローに戻った。途中の小川で自分の血まみれになった顔と、ある程度、獲物の外側を洗った。さすがにそのまま帰るには血臭が凄すぎたのだ。

 彼女の眠るバンガローのある草地に戻ると、彼女の寝息も感じ取れた。彼女のバンガローよりも風下へと移動し、置いてあった枝と葉をある程度重ねる。

 ライオンの姿ではやりにくかったが、油断は禁物だ。何よりも人の姿なら、こんなにも夜目はきかない。

 そうして人間に戻ると火打石を使って火をつけた。


(獣は火に寄ってこないからな)


 いくら死なないとはいえ、生きながら食われるのはごめんだ。焦る気持ちが天に通じたか、火が枝へと燃え移る。


「よっしゃ」


 やがて大きな焚き火となったそれに満足した譲は、バンガローから持ち出した彼女の剣で鹿肉を切り始めた。

 人間の体はあまりにも弱い。焚き火を三ヶ所程に分け、それぞれの焚き火で小分けした肉を焼きつつ、どんな獣も譲の背後から近づこうという気持ちにならないよう自衛しておいた。それでも近づいてくる獣がいたら、火のついた枝で攻撃するしかない。

 そんな譲の気持ちが獣に通じたか、襲ってくる獣はいなかった。






 朝の光を感じ、少女は目を開けた。


『ん。朝・・・・・・』


 お腹が空いた。それはもうこの所ずっとだ。くぅーと鳴くお腹に悲しい気持ちになりつつ、少女は目を擦りながら水を飲もうと壺の所へ行こうとした。


『ひっ』


 そこには大きな茶色い獣がいた。一気に恐怖で目が覚める。

 あまりの恐怖に失神するかと思ったが、獣は動かなかった。ただ、少し首を傾げたようだ。


(えっと・・・)


 その姿に、少女も昨日のことを思い出す。

 何度も息を吸って吐いて、そうして彼女は怖さを克服すると、獣に話しかけた。


『あれ、あなた、ここには昇ってこられないわよね? ・・・どうして小屋の中にいるの?』


 返事はなかった。グルグルと唸り声は出したものの、特に攻撃する気はないのだろう。横たわっていた大きな獣は立ち上がり、その頭をくいっとある方向へと反らせた。


『え?』


 そこには、昨日はなかった筈の果実と薄く切って焼かれた肉が置かれていた。


『どうして? 昨日はなかったのに』


 だけど久しぶりのお肉だ。

少女は間にいる獣の恐ろしさも忘れ、ふらふらと近寄り、それを手に取って食べてしまった。塩味も何もないが、それでもお肉だ。少しずつと思っていた大切にとっておいた果実も、いきなり数が増えている。見れば水もたっぷりだ。


『ああ、神様・・・』


 そんな少女の様子を、譲はほっとした思いで見ていた。せめて醤油とか塩とかがあればと思わずにはいられなかったが、大切なのは何であれ栄養をとることだ。

 こんなことならば、もっとジャングルの生態系を知ってくるのだった。自分ではどの植物が食べられるものかなど分からない。少女がくれた果実と同じものを探すしかできなかった。


(だけど喜んでくれてるみたいだし、それはそれでいいか)


 とは言うものの、譲も困っていることはあった。日中、どうやってライオンの姿で下に降りればいいのだろう。


(骨折覚悟で飛び降りるか? そりゃすぐ治るらしいけど、・・・痛いよな。いや、彼女が見ない内に降りれば・・・って、このバンガローの中、振り向いたら見えちまうだろうが。俺がフル●●で梯子を降りるところなんて見られた日にゃ、俺、出家しちまうぜ)


 別にそのまま下に降りてライオンの姿で寝ておけばいいことだったのだが、少女にきちんと食べさせるまでは目が離せないと思っていたのだ。誰だって寝ている間、いきなり食べ物があったら怖いだろう。

 ライオンが食べ物を用意するのは怖くないのかと言ってしまえばそれまでだが、・・・こういうのは理屈ではなかった。


『あなた、神獣だったのね。獣の姿をした神様。・・・もしかして、私を巫女にと選んでくれたの?』


 少女の言っている意味は全く分からなかったが、伸ばされた小さな手に譲は鼻先をこすりつけておいた。

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