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比留川病院殺人事件  作者: 山本正純
第三章 証拠がなければ完全犯罪
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 須藤涼風に続き三人は院長室に向かった。

 院長室のドアの前に立った須藤涼風はポケットから百円玉と授受繋ぎにされた輪ゴムを取り出した。それを見た日野公子が息をのむ。

「現場のドアの周りに散乱した数十枚の百円玉。これが密室殺人の謎を解く鍵でした」

 須藤涼風が説明しながらドアを開ける。院長室の中は静かで誰もいなかった。それを確認した須藤警部はドアを閉める。

「このように現在はドアが開いています。しかしこの百円玉に輪ゴムを引っ掻けて鍵穴に突っ込み、鍵を開けるように回す。その際片方の輪ゴムを持ち手にすれば、部屋を密室にすることができます」

 須藤涼風が再びドアノブを掴みドアを開けようとする。だがドアは開かない。

「同じような要領で百円玉を回すと、ドアが開きます。そして鍵穴に突っ込んだ百円玉は輪ゴムの持ち手を引っ張れば回収できます。あなたは院長室で勝部院長を殺害後、遺書に見える文章を勝部院長のパソコンに打ち込み、三年前の医療ミスのカルテを机の上に置きました。その後でこの方法を使って部屋を密室にして逃走。これなら隠し通路を通る必要もなくアリバイを確保できます」

 彼女はドアを閉めた時と同じようにドアを開けてみせた。だが日野公子は納得しない。

「黙って聞いていたら私が犯人ってことになっていますね。証拠もありませんし、その方法なら私じゃなくても犯行は可能でしょう勝部院長を恨んでいる人間なんてこの病院内にかなりいますよ」


 タイミングを見越した有安虎太郎が手を挙げる。

「密室殺人の仕掛けに使った輪ゴムが院長室のドアの前から発見されて、そこからあなたの指紋が検出されたとしたら」

「それは嘘ですね。指紋なんて検出できるはずがないでしょう。あれは第三診察室のゴミ箱に捨てたから」

 日野公子は思わず口を滑らせた。それに有安虎太郎と須藤涼風が互いの顔を見合わせる。

「証拠は第三診察室ですか。そこに盗聴器の受信機も隠されているのでしょう。輪ゴムが発見されたというのは嘘ですが、院長室に仕掛けられた盗聴器からは指紋が検出されました。これを調べたら証拠を増やすことも簡単でしょう。まだ言い逃れできますか」

 日野公子は完全に追い詰められたと感じ肩を落とす。

「証拠がなければ完全犯罪。そう思いながら必死であの悪魔たちを葬ったのに。こんなにも簡単に見破られるなんて。密室トリックは前から考えていたけど、実際に試したのは昨日。矢部雄一を殺害する直前。この時は部屋の中にトリカブトの花を置くだけにしました。あの時は実験が成功して嬉しかったですよ。因みに盗聴器は一か月前に院長室に呼び出された時に仕掛けました。出されたコーヒーに軽い症状の出る睡眠薬を仕込みそれを勝部院長に飲ませた後で」


 三浦良夫にはそこまでして二人を殺害する犯行動機が分からなかった。だが有安虎太郎と須藤涼風は犯行動機を察している。

「なぜそこまでしてあの二人を殺した。三年前の医療ミスであなたの彼氏だった春木光男が自殺したからか」

 日野公子は三浦の簡単な犯行動機を聞き失笑する。

「私はあなたに死を与えた。これがトリカブトの花言葉です。私はあいつらに死を与えられたんです」


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