表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
比留川病院殺人事件  作者: 山本正純
第三章 証拠がなければ完全犯罪
27/30

027

 午後四時。太陽の光が雲の間から差し込む天気の下に三人の男女が立っている。

 この場所は矢部雄一の遺体が遺棄された倉庫の前である。三人はこの場所に一人の女を呼び出した。

 数分が経過した頃待ち合わせ場所に一人の女が顔を出す。その女は日野公子だった。

「刑事さん。私に何の用でしょうか。事情聴取なら終わっていますよね」

 日野公子が聞くと有安が一歩を踏み出す。

「日野先生。あなたが比留川病院内で起こった連続殺人事件の犯人だ」

 有安の言葉を聞き日野公子の顔が笑った。

「それは面白いことを言いますね。でも証拠がありませんよね」

「昨晩の午後九時五十八分の比留川病院待合スペースに設置された防犯カメラにあなたが映っていたとしたらどうですか」

 須藤涼風の言葉を聞き、日野公子が笑い声をあげる。

「それなら映っていて当たり前でしょう。その時間帯私は医療廃棄物のゴミ捨てに行っていたのですから」

「その映像に映っていた日野先生は白衣を脱いでいた。なぜ白衣を脱いだのかを教えてくれ」


 有安の問いを聞いた日野公子は笑い声を止めない。

「医者が白衣を脱いだらいけないと言いたいのですか。そんなの勝手でしょう」

「そうではない。その映像に映っていたあなたは白衣を手に持って走っていた。それから一分後再びあなたはワゴンに医療廃棄物と書かれたダンボール箱を乗せ防犯カメラの前に映る。その時に証拠を医療廃棄物に偽装して捨てたのではないか」

「デタラメですね。証拠がないでしょう。午後九時五十八分以前に私がトリカブトの花束を持って歩いている様子でも映っていたら話は別ですが」

 日野公子の発言に須藤涼風が頬を緩める。

「語るに落ちるという奴ですね。どうしてあなたが矢部雄一の遺体遺棄現場にトリカブトの花束が残されていたことを知っていたのでしょうか。このことはマスコミ関係者にも伏せていたのですが」


 須藤涼風の推理に続くように有安虎太郎は言葉を紡ぐ。

「残念ながら防犯カメラにはあなたがトリカブトの花束を持って歩いている様子は映っていなかった。だがトリカブトの花束という発言は犯人しか知りえない事実。因みにリサイクルクリアー小林に問い合わせたら、医療廃棄物の中に血まみれの白衣があったことが分かった。それを引き取って照合したら矢部雄一の血液とあなたの指紋が検出された。これは動かぬ証拠になる。これでも犯人ではないと言い切るのか」

 二人の推理を聞きながら三浦が疑問を口にする。

「でも犯行前は防犯カメラに映っていないのに犯行後は防犯カメラに映るように行動したのかが分からない」

 三浦の疑問に賛同するかのように日野公子が拍手する。

「そうですよ。おかしいじゃないですか。私が犯人だったら犯行後もなるべく防犯カメラに映らないように行動しますよ。カメラに証拠が映るかもしれないでしょう」

「確かにそうだ。午後九時五十八分に映っていたあなたは焦りから防犯カメラに映るロートを走ってしまったが、一分後のあなたは冷静だった。そうしなければならなかった理由は二つ。自然に証拠品を消し去るためとアリバイの証人を作るため。前者は証拠品を医療廃棄物のゴミ箱に混ぜることで成立する。後者は倉庫の近くで煙草を吸っている職員が必ず一人以上いることを利用しようと思ったんだろう」


 有安の推理を聞き日野公子が反論する。

「肝心なことを忘れていませんか。なぜ矢部雄一があの倉庫の前にいたのか。その謎を解かなければ犯行は成立しませんよね」

「簡単ですよ。あなたは勝部院長のパソコンにハッキングを行い、彼がメールで矢部雄一をあの場所に呼び出したことを知りました。そしてあなたはその場所に行き、矢部雄一を殺害しました。これが第一の殺人事件の真相です」

「だからどうして矢部雄一はあの場所でまたなければならなかったのか。意味が分かりませんよ」

「隠し通路を使い人目を避けて密会したかったから。あの倉庫の近くにある木製のドアの奥にある隠し通路は勝部院長しか通ることができないシステムになっているから、あの場所で勝部院長を待っていたのだろう。勝部院長のパソコンのメールを調べたらあの時間帯に会うよう約束していたことが分かった」

 有安虎太郎と須藤涼風の推理に追い詰められた日野公子は苦肉の策を導き出す。

「この際認めますよ。私が矢部雄一を殺しました。でも勝部院長を殺害したのも私だと言うのなら間違っていますよ。私には鉄壁のアリバイがあるからね。それに噂では勝部院長は密室で亡くなっていたそうじゃないですか。隠し通路を通れば密室から抜け出せるのかもしれませんが、その隠し通路を利用できるのは勝部院長のみ。仮に私にも通れたとしても、ここから病院内に入るためには必ず玄関を通らなければならない」

 日野公子の反論を聞き、須藤涼風が一歩を踏み出した。

「少し場所を変えましょうか。密室殺人の謎は院長室の前で解きますよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ