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比留川病院殺人事件  作者: 山本正純
第三章 証拠がなければ完全犯罪
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 午後三時。有安虎太郎と三浦良夫と須藤涼風の三人は立川クリニックを訪れる。

 立川クリニックは倉崎優香が巻き込まれた交通事故の現場の近くにある小さな診療所だった。

 その診療所の受付で須藤涼風と三浦が警察手帳を見せる。

「大分県警捜査一課の須藤涼風です。長崎彩さんにお話しを伺いたいのですが」

 須藤が受付に要件を伝えると白衣を着た漆黒の艶のある長い髪と右の頬に小さな黒子がある女が三人の前に現れた。

 その顔は昨日の交通事故の様子を撮影した動画で応急処置をテキパキと指示して倉崎優香を助けた女と同じだった。

「長崎彩さんですね」

 須藤涼風が確認すると女は首を縦に振る。

「そうですよ。刑事さんが私に何の用ですか。昨日の交通事故の件でしょうか」

「残念ながら違います。実は先程比留川病院の勝部院長の遺体が発見されました。現場から見つかって遺書のような文章には三年前の医療ミスと手術を担当した春木光男外科医の過労死に関する言及がありました。そのことで何かご存じですか。一応カルテを読んだのですが、他に関係者しか知らない事実はありませんか」

 刑事の言葉から院長の死を知った長崎彩は表情を変えず真顔で答える。

「カルテの内容が真実です。だから新事実なんて存在しませんよ。勝部院長は最後に三年前のことを悔いて自殺。もしも三年前に自殺したら今頃私もあの病院で働いていたのに。あんな素直な妹さんも亡くならなくてよかったかもしれないのに。残念です」

 長崎彩の淡々とした声に有安虎太郎が声をあげる。

「やっぱり日野公子先生のように職場絡みで退職したということか」

「そうです。本当は三年前の出来事がないことを前提にしたとしても私はあの院長のことが嫌いですから」

「なぜ院長のことが嫌いなのかを教えてくれませんか」

 須藤涼風が疑問を口にすると、長崎彩の声が小さくなった。

「ここだけの話ですけど、勝部院長はセクハラの常習犯で多くの看護師が被害に遭いました。それだけじゃなくて気に入らない職員を次々と解雇する暴君なんですよ。死人にこんなことを言うのもおかしな話ですが、彼が死んで救われた看護師も多かったと思います。前の職場を悪く言うのもおかしな話ですが、私はこの診療所に就職して良かったと考えています。夜勤もありませんし、涙を呑むこともありませんから」

「涙を呑むというのはどういうことですか」

「業界では有名な話なんですけど、病院や福祉施設に勤務する妊婦さんの多くは夜勤や早番という生活リズムを崩すような勤務スタイルがあるから切迫流産を経験することが多いんですよ。切迫流産になったら安静にしないといけないけれど、医療介護業界は人手不足だから休みを取りにくい。最悪な場合流産するケースも珍しくありません。医療福祉業界で働く妊婦さんは流産と隣り合わせで仕事をしていると言っても過言ではありません」

 長崎彩の証言を聞き三浦が手帳を広げながら彼女に聞いた。

「参考程度に今日の午前十一時から午前十一時三十分までの間どこで何をしていた」

「その時間帯なら立川医師の診察の手伝いをしていました。その間で五分くらいトイレに籠っていたから完璧なアリバイじゃありませんけど」

「昨日の午後九時三十三分から午後十時までの二十七分間。あなたはどこで何をしていた」

「その時間なら家でテレビを見ていました。生憎一人暮らしだからアリバイの証人はいませんが」


 アリバイの確認を済ませた三人は立川クリニックの駐車場に移動。そこで三浦が須藤涼風に聞いた。

「やっぱり長崎彩が犯人ではないか。彼女にはアリバイもないし三年前の医療ミスに関する犯行動機もある」

「確かに怪しいですが、証拠がありません。ここは現場百閒ということで比留川病院に戻りましょうか」

 須藤涼風が三浦に指示を与えると、有安虎太郎が何かを考え込んだ表情をしながら須藤涼風が運転する自動車の後部座席に座った。


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