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午後一時四十分。有安虎太郎と須藤涼風と三浦良夫の三人は倉崎家を訪れる。三浦がインターフォンを押すと、自宅にいた倉崎和仁が玄関のドアを開けた。
「有安君。話というのは何のことだ」
倉崎和仁が早速本題を聞くと須藤涼風が一歩を踏み出した。
「話はリビングで伺います」
倉崎和仁は困惑しながら三人を自宅に招き入れる。
木製の机を挟んで二つの椅子が置かれている。その反対側にも同じ椅子が二つ置かれている。
倉崎和仁が椅子に座ると三人も同じように椅子に座った。有安虎太郎は倉崎和仁の隣に座る。
倉崎和仁は正面の席に座った刑事に聞く。
「まさか私が犯人だとでも言うのか」
その問いに須藤涼風が首を横に振る。
「少しお借りしたい物があります。昨日矢部雄一から渡された小切手。それをお借りできませんか」
「こんな小切手が手がかりになるのか」
倉崎和仁が疑問を口にしながら財布から小切手を取り出し、須藤涼風に渡した。
その小切手の振出人の欄を見た須藤涼風は頬を緩ませる。そこには春木智明という名前が書きこまれていた。
「春木智明。彼が依頼人でしたか」
「この小切手をしばらく預かります」
三浦が敬語で倉崎和仁に話しかけると三人は椅子から立ち上がり、一斉に頭を下げる。
倉崎家を後にした三人はその足で大分中央信用金庫に向かう。
銀行の自動ドアが開き、三人が銀行の受付に向かう。そこで須藤涼風と三浦良夫が警察手帳を見せる。
「大分県警の須藤涼風です。こちらの小切手についてお聞きしたいことがあります」
受付に須藤涼風が要件を伝えると銀行の支店長が三人の前に現れた。
「そのことでしたら私がお話します」
「それでは早速この写真の男に見覚えはありますか」
須藤涼風が春木智明の写真を見せると支店長が両手を叩いた。
「確か春木智明さんですね。一億円の小切手を作成したので覚えています。何でしたら防犯カメラの映像をお貸ししましょうか」
「ありがとうございます。その前に小切手を作成したのは一度だけでしたか」
「一か月前の五月十日に作成したのが最後でしたね」
「そうですか。防犯カメラの映像ですが、一度拝見してもよろしいですか」
「いいですよ」
支店長が防犯カメラの映像を監視室で再生する。モニターに映った五月十日の映像には私服姿の春木智明が映っていた。
須藤涼風は事実を確信すると支店長から防犯カメラの映像を受け取った。
午後二時。三人が自動車に乗り込む。運転席に座った須藤涼風に後部座席に座った有安虎太郎が質問する。
「これからどうする」
「大分県警に戻ります。証拠も揃っているので本人に確かめましょう」




