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比留川病院殺人事件  作者: 山本正純
第二章 密室のカルテ
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 その頃有安虎太郎と三浦良夫は二階で長崎彩に関する情報に関する聞き込みを行った。

 だが長崎彩が真面目な看護師だったという事実しか得ることができなかった。

 手詰まりだと思いながらエレベーターに向かい歩き始めると一人の刑事が有安虎太郎と三浦良夫に近づいた。

「三浦刑事と有安君。探したよ。須藤警部がお呼びだ。一緒に院長室に来てくれないか」

 なぜ須藤警部が院長室に召集するのか。有安虎太郎と三浦良夫は理解できなかった。

 ただ須藤警部の部下に同行して、エレベーターに乗り込む。上がってくる鉄の箱の中には数人の鑑識課の刑事たちが乗っていた。その時二人は状況を理解することができた。何か事件に進展があったと。

 二人は須藤警部の部下の刑事と数人の鑑識たちと共に院長室に移動した。

 三浦が院長室の引き戸を開けると有安の目に須藤涼風の姿が飛び込んできた。院長室の中で五人の刑事たちが何かを囲むように立っている。須藤警部はその集団から少し離れた位置に立っていた。

「須藤警部。何があったのかを教えてくれ」

 有安が須藤に聞くと刑事たちの集団を指さす。

「比留川病院院長の勝部慶太朗が殺害されました。殺害に用いた凶器は矢部雄一と同様。医療用のメス。ただ矢部雄一が殺害された第一の事件とは違い勝部慶太朗は首の頸動脈を切断されていました。賄賂の件は被疑者死亡で送検されるでしょう。令状が無駄になりました」

 須藤涼風がスーツのポケットから贈賄罪の逮捕状を取り出し、有安たちの前で破った。

 

 破られた逮捕状がクシャクシャになる。須藤涼風は現場を汚さないようにそれをスーツのポケットに仕舞った。

「何もそこまでする必要はないだろう」

 有安虎太郎が須藤涼風の行動が間違っていると指摘すると彼女は笑みを浮かべ正論を語る。

「被疑者死亡の事件に逮捕状は不要。こんな紙切れなんて何の意味もありません。それに汚職事件は捜査二課の仕事ですよ。勝部慶太朗の送検は捜査二課に譲るつもりでした。逮捕状は口実に過ぎなかったということです。上手く捜査二課と交渉して先に勝部慶太朗から話を伺う算段だったのですが。残念です」

「それでいいのか。この殺人事件を捜査二課の手柄にしていいのかと聞いているんだ」

 有安が須藤涼風を問い詰める。だが須藤涼風は淡々と言葉を返した。

「仕方ないでしょう。勝部慶太朗は捜査二課が先にマークしていたから。勝手に捜査二課の仕事を取るわけにはいかない。それに比留川病院の院長が賄賂を誰かに渡しているという情報は捜査二課から得たことだからね。捜査二課の顔を立てないといけない。これが警察組織という物ですよ。理解できましたか。警察官志望の素人探偵さん」

「それで殺人事件の捜査はどうする」

 有安が再度須藤警部に聞く。

「被疑者死亡で書類送検でしょうね」

「つまり勝部慶太朗は自殺だったのか」

 三浦が須藤涼風に聞くと彼女は首を縦に振る。

「おそらく。この犯行現場は密室状態でした。ノートパソコンには遺書のような文章。机には三年前の医療ミスに関するカルテ。遺体の右手に握られたメス。この密室から出入りするトリックがない限り自殺の可能性が高い。仮にこれが殺人事件だったらドアの前に散らばった数十枚の百円玉が犯人からのメッセージということになるけど」


 須藤涼風が断言すると鑑識課の吉永マミが白い手袋を填め院長室の本棚にある赤色の本を手に取る。

 本棚が真っ二つに割れる。それが横にスライドし暗闇に包まれた空間が出現した。吉永マミはその空間を懐中電灯で照らす。

 その様子を見た須藤涼風が吉永マミに聞く。

「隠し通路ですか。でもどうしてそんなものがあるのでしょう」

 須藤の疑問を聞き吉永マミが自信満々に答える。

「勝部慶太朗は賄賂を様々な人間に渡していんだよね。だから人目に付かないように隠し通路の一つや二つあってもおかしくないと思ったからね。隠し通路の出入り口を発見したのは偶然だよ」

 吉永マミは懐中電灯で現れた隠し通路へと続く道に歩み寄る。そして背後を振り返りながら須藤警部たちに聞いた。

「犯人は隠し通路から出入りしたのかもしれないね。だから確かめる必要がある。この通路がどこに向かっているのか。私は隠し通路を探検するけど、誰か一緒に来ますか」

 吉永マミの声を聞き有安虎太郎と三浦良夫と須藤涼風の三人が挙手する。

「探検団のメンバーは決定だね。懐中電灯を人数分用意しているから。それでは出発」


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