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午後六時四十分。一台の自動車が比留川病院の駐車場に停まった。その自動車から三人の男女が降りる。運転席から降りたのは、オールバックな髪型が特徴的な高身長の男。名前は倉崎和仁。助手席から降りたのは、黒い艶のある髪が肩の高さまで伸びている女。名前は倉崎真澄。
そしてマッシュカットに襟足を刈り上げた髪型の男子高校生、有安虎太郎が後部座席から降りる。
話は三十分前に遡る。その時間倉崎家に一本の電話がかかってくる。その電話に出たのは倉崎和仁だった。
『倉崎優香さんのご家族の方でしょうか。大分県警交通課の春木と申します』
「交通部か。娘が何かやらかしたのか」
電話の相手である春木と名乗る警察官は途惑った。電話の相手は警察と聞き動揺しなかったのだから。
『すみませんが、なぜ驚かないのですか。まさかイタズラだと思っているのではないですか』
「そんなことはない。警察官の相手は慣れているからね。申し遅れた。警察庁長官官房室長の倉崎和仁。交通部が電話をかけてきたということは、娘が交通事故に巻き込まれたという解釈でいいのか」
春木智明は相手が警察庁の官僚だと聞き、声が震える。
『そうです。ご令嬢が交通事故に巻き込まれました。ご令嬢は比留川病院に搬送されています。交通事故を起こした犯人は現在比留川病院でご家族の方の到着を待っています。今すぐ急行した方がよろしいかと』
「分かった。今すぐ行こう」
和仁は電話を切り、電話の内容を妻の倉崎真澄に伝える。真純はショッキングな内容を聞き、腰を抜かす。倉崎和仁は妻に手を差し伸べる。
「大丈夫か」
「驚いただけ」
「そうか。今すぐ比留川病院に急行した方が良いだろう。優香の安否が心配だ」
倉崎真澄が首を縦に振ると、二人は出かける準備を始める。
最後に玄関のドアを閉め、自動車に乗り込もうとした時だった。その現場に倉崎優香の幼馴染である有安虎太郎が遭遇したのは。
有安は顔色を変えて自動車に乗り込もうとする幼馴染の両親に声をかける。
「お出かけですか」
虎太郎の言葉を聞き、真澄が涙を浮かべながら、声を出す。
「大変よ。優香が交通事故に巻き込まれて、比留川病院に搬送されたの」
「本当か」
有安虎太郎は幼馴染の安否を気遣い取り乱す。倉崎和仁は、彼の腕を掴む。
「一緒に比留川病院に行こう。そうすれば優香が助かるかもしれない」
有安虎太郎は倉崎和仁が運転する自動車の後部座席に座り、シートベルトを取り付ける。
そのまま三人は比留川病院に急行する。