表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
比留川病院殺人事件  作者: 山本正純
第二章 密室のカルテ
18/30

018

 それから三浦良夫と有安虎太郎は病院内で長崎彩に関する情報を集めた。

 一時間後二人は病棟の一階にある食堂で定食を食べる。食堂は閑古鳥が鳴いていて誰もいなかった。三浦は情報漏えいを心配しながら手帳を広げ聞き込みで集めた情報を整理する。

「長崎彩さんは真面目な看護師で多くの患者に信頼されていた。三年前医療ミスの責任を追及されて退職。それ以降の足取りは不明」

「三年前の医療ミス。気になるな」

「そうだろう。当時のことを知る関係者は三年前のことを語ろうとしない。病院ぐるみで隠蔽しているということだ。被害者矢部雄一との関係も不明」

 有安虎太郎は白いごはんを飲み込む。

「三浦刑事。こうは考えられないか。矢部雄一の職業は探偵。三年前の医療ミスについて調べていた彼は真実を知った。だから医療ミスに関わる関係者に口封じのため殺害された」

 有安が推理すると三浦は割り箸を取り出しながら疑問点を指摘する。

「だが医療ミスが発生したのは三年前のこと。なぜ今更そんなことで殺さなければならない。日野公子は執刀医。その医療ミスが手術絡みだったら有安君の推理通りの可能性もあるだろう。しかしトリカブトの花の謎が解けない。犯人からのメッセージが解けなければ、この事件は解決しない」

 二人きりの食事が終わり三浦はトレイを持ち上げながら有安に聞く。

「これからどうする」

「まだ三階病棟と二階病棟での聞き込み捜査が終わっていないから、三階に向かう」

 二人は完食して空っぽになったトレイを返しエレベーターのあるホールに向かって歩き始める。

 

 正午から三十分が経過した頃、病院の入り口に設置された自動ドアが開き須藤涼風警部が部下の刑事たちと共に比留川病院に戻ってくる。須藤涼風を囲むように彼女の部下たちが病院の床を歩く。

 エレベーターホールに向かって歩いていた三浦良夫が須藤涼風たちの存在に気が付き、彼らに近づく。そして中心にいる須藤涼風に話しかける。

「須藤警部。何があった」

「捜査の結果遺体の第一発見者高橋秋彦にも犯行動機があることが分かりました。三年前高橋秋彦の妹が医療ミスによって亡くなっていたことが分かったのです。この事実は矢部探偵事務所の机の中に入っていた日記で明らかになったことです。被害者の矢部雄一は二年前探偵として高橋秋彦に依頼されて医療ミスについて調べていたことが同業者の証言で判明ました。だから医療ミスに関与していると思われる勝部慶太朗院長に話を伺おうと思ったというわけ」

「なるほど。だがそれでは矢部雄一を殺害した動機が分からない」

「矢部雄一は勝部慶太朗院長から賄賂を受け取り調査活動中止にしたという噂が出回っているからね。それで裏切られたと思った高橋秋彦は矢部雄一を殺害。一応筋は通っているでしょう。だから勝部慶太朗から聴取するために準備を進めてこの場に戻ってきました。一応言っておくけど、有安虎太郎を監視しているあなたは聴取に参加しないでください」

「準備というのは何だ」

 突然有安虎太郎が須藤涼風に歩み寄りながら聞く。須藤涼風はスーツの内ポケットから封筒を取り出し、その中に入っている長方形の紙を有安虎太郎に見せた。その紙にはハッキリと逮捕状と書いてある。

「贈賄罪の逮捕状。大分県警の刑事は優秀で勝部慶太朗が様々な人間から賄賂を渡している事実は二時間もあれば裏付け捜査ができるからね。ああいう上層部の人間は令状がなければ言うことを聞かないから」

「なるほど。部下の刑事に適切な指示を与え早急に真実に近づく。捜査を指揮する管理官が適役だと思うが」

「面白いことを言いますね。普通の高校生では言えないことです。テレサとは気が合いそう」

「テレサというのは誰だ」

 有安虎太郎が聞き返すと須藤涼風は一言だけ告げて彼らの元から離れる。

「関係ないから」


 須藤涼風の顔が笑っている。有安虎太郎がそのように感じていると三浦良夫が有安の隣に立ち補足説明を行う。

「テレサ・テリー。知っているだろう。今大人気の脚本家で須藤警部の高校の同級生。部類の推理オタクで素人探偵として実際の現場で須藤警部と張り合うこともあるらしい」

「彼女の存在は須藤警部が素人探偵についての理解があるという根拠か」

「半分正解だな。素人探偵がもう一人いる。彼の影響が素人探偵への理解を深めた理由だろう。このことは誰にも言わないでくれよ。須藤警部にもプライドがあるから」

 三浦良夫が人差し指を立てて釘をさした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ