013
午前十時三十分。比留川病院周辺の聞き込み捜査を終えた須藤涼風と三浦良夫と有安虎太郎の三人は病院の駐車場に向かう。
歩きながら須藤涼風が三浦に聞く。
「有安君は捜査会議に出席しないのに、なぜ私たちと一緒に歩いているのですか」
「監視しろと言ったのは須藤警部だろう」
「答えになっていませんが」
「それとも俺も捜査会議に参加するなと言いたいのか」
「そうですね。後で捜査資料を見せるから、あなたも出席しないでください」
須藤涼風がはっきりと答え、三浦が肩を落とす。涼風は三浦の表情を気にせず、彼から離れる。
有安虎太郎は須藤涼風の後姿を見ながら三浦に話しかける。
「三浦刑事。こっちは捜査を続ければいいだけの話だろう」
「だがこれ以上何をすればいい。遺体発見現場にあったゴミ袋は鑑識の手に渡った。聞き込みも一通り行った。他に何をすればいい」
「矢部探偵事務所での実況見分が終わっていない」
「だから車がないから矢部探偵事務所には行けない」
三浦の一言を聞き、有安虎太郎が顎に手を置く。
「そうだった。昨日矢部雄一が起こした交通事故。被害者は倉崎優香と共に救急車に乗ってこの病院に来た。だから事件を解く手がかりが事故車両に隠されているかもしれない。三浦刑事。矢部雄一が運転していた自動車はどこにある」
「それなら大分南警察署だ。その駐車場で事故の原因を究明する捜査を行うらしい」
「大分県警に行こう」
有安の一言を聞き三浦は首を傾げる。
「交通事故と今回の殺人事件は関係ないのではないのか」
「三浦刑事。それは分からないが、その可能性を一つずつ潰していくのが警察の仕事。須藤警部は同じことを言うだろう」
「勝手に捜査を進めるのか」
三浦が有安に聞くと彼は首を縦に振る。
「そうだな。俺をアカトリ事件解決の糸口が分かればそれでいい。そのために刑事になろうと考えている」
「有安君が大分県警に配属されたら、須藤警部が煙たがる。自身が関わった未解決事件を解決するために刑事になった熱血野郎を彼女は認めない」
「三浦刑事。俺が大分県警本部に所属する頃には須藤警視になっているかもしれないだろう。彼女はキャリア組だから三年で警視に昇格していてもおかしくない」
有安の言葉を聞き三浦が笑みをこぼす。
「面白いことを言うな。普通の高校生では言えないことだ。警察オタク」
「警察オタクではない。将来刑事になるために勉強しているだけだ」
「真面目な奴だということは分かった。だが大分県警だけはダメだ。須藤警部に見つかったら大変だからね」
三浦刑事が有安虎太郎を説得しようとする。だが有安は右手に人差し指を一本立てる。
「もう一つ気になっていることがある。偶然倉崎優香が巻き込まれた交通事故の現場に居合わせた髪の長い女が気になる。その女を追うというのはどうだ。大分県警の捜査と同じことをやっても真実に辿り着けるのかは分からない」
「分かったよ。それでどこに行けばいい」
「移動する必要はない。被害者の矢部雄一は女が鞄から取り出した包帯を取り出したことと適格な応急処置を指示したことから医療関係者である可能性が高い。もしかしたらこの病院に勤務している人間かもしれないということだ」
「だが写真もないのにどうやって聞き込みを行う」
有安は三浦の声を聞きポケットから携帯電話を取り出す。その画面には動画が映し出されていた。動画の内容は髪の長い女が交通事故に巻き込まれた被害者の応急処置を行うという物でアップロードされた日付は昨日だった。
「動画サイトに昨日矢部雄一が起こした交通事故の被害者の応急処置を行う女を撮影した動画がアップされていた。その動画に映っている女の画像を使って聞き込みを行う。それと倉崎優香の応急処置に使った包帯を入手して指紋を調べたら何かが分かるかもしれない」
有安の話を聞き三浦は納得する。
「分かった。この病院でもう少し聞き込みを行う」




