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比留川病院殺人事件  作者: 山本正純
第一章 遭逢
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 二人は椅子から立ち上がり、会議室を後にする。二人の次なる目的地は交通事故の被害者が入院している病室。

 丁度その頃有安虎太郎と倉崎和仁は倉崎優香が入院している病室を訪れる。病室の中にあるベッドの上で倉崎優香は本を読んでいた。

 倉崎優香は有安が見舞いに来たと知り、本を閉じる。

「虎太郎。態々見舞いに来るとは思わなかったよ」

 倉崎優香が有安虎太郎の顔を見ながら呟く。

「当たり前だろう。昨日お前が病院に搬送されたって聞いた時も駆け付けたんだから」

「心配したんだね」

「幼馴染として安否を気遣っただけだ。とはいえ元気そうで良かった」

 倉崎優香は交通事故に巻き込まれて骨折したことから落ち込んでいると有安虎太郎は考えていた。しかし倉崎優香は落ち込んでいない。いつも通りの倉崎優香の顔を見ることができて有安虎太郎は安堵する。

 

 だがその安堵は束の間の出来事だった。突然倉崎優香の病室のドアから聞こえたノックの音。その音が響いた直後スライド式のドアが開き、二人の黒いスーツを着た男女が姿を現す。女の刑事が病室の中にいる人々に警察手帳を見せる。

「大分県警捜査一課の須藤涼風です」

 須藤涼風の挨拶に続くように男も警察手帳を見せた。

「同じく大分県警捜査一課の三浦良夫」

 突然大分県警の刑事が現れ倉崎優香たちは途惑う。その中で倉崎和仁が啖呵を切った。

「交通課の間違いではないのか」

 倉崎和仁の言葉を須藤涼風が首を横に振る。

「娘さんが巻き込まれた交通事故とは別件です。先程この病院の敷地内で矢部雄一の遺体が発見されました。あなた方には交通事故のトラブルという犯行動機があります。ということで昨日午後九時から午後十時までの一時間どこで何をしていたのかを教えてください」

 須藤涼風の質問を聞き有安虎太郎が手を挙げる。

「犯人はこの中にいない」

 有安の言葉を聞き須藤と三浦が笑う。

「なぜそう言えるのでしょうか」

 涼風が聞くと有安は指を三本立てる。

「根拠は三つ。まず大分県警捜査一課は交通事故のトラブルという犯行動機があるからと、俺たちを疑っている。しかしその犯行動機は成立しない。和仁さん。見せてやれ。あの時矢部雄一から渡された物」

 有安に促され倉崎和仁が財布から小切手を見せる。

「これは矢部雄一が交通事故の示談金として渡した小切手だ。一億円あるだろう。矢部さんはこの一億円を娘の治療費に使ってくれと言っていた。この状況で交通事故のトラブルによる殺人はあり得ない。矢部さんは反省していた。それは俺が誰よりも分かっている」

「しかしそれだけではあなたたちが犯行に関わっていない証明にはならないでしょう」

 須藤涼風が再び有安に聞くと、彼は指を二本立てる。

「確かにそうだな。まだ犯行動機を否定する手がかりが見つかっただけだ。そこで二つ目の根拠。俺たちのアリバイ。俺と倉崎和仁はその時間帯病院から数キロ離れた高級料亭に向かう車内にいた。倉崎優香は手術後で眠っていた。倉崎真澄は倉崎優香に付き添っていた。それを証明することは簡単だろう。つまり俺たちには鉄壁のアリバイがある」

 須藤涼風は有安の言動に拍手する。

「この中に犯人がいないと言える第三の根拠は何ですか」

「第一の根拠と繋がるが俺たちと被害者との接点が偶然の産物である交通事故しかないこと。交通事故と殺人事件に因果関係がないと分かれば、俺たちの中に犯人がいないことを証明することができる」


 有安虎太郎が強く訴えると三浦が手を叩く。

「凄い推理力だ。君の名前は……」

 三浦が褒めながら聞く。

「有安虎太郎」

 その名前を聞き須藤涼風が顔つきを変える。

「君は浦内島で発生した殺人事件を解決した男子高校生ですね。所轄の刑事顔負けの推理力と洞察力があると聞いたことがあります。でもこれは大分県警の仕事。素人は引っ込んでいてください」

「須藤警部。素人って言っても浦内島殺人事件を解決に導いた男子高校生だ。彼と協力して捜査すれば、こんな殺人事件なんてすぐに解決することもできるのではないか」

 三浦が須藤に聞くと、彼女は握握り拳を作る。

「素人に殺人事件を解決されては大分県警の面子が立たない。だから警視総監賞を却下したんだから。素人探偵は捜査の邪魔」

「それなら俺からも頼もうか」

 倉崎和仁が名刺を差し出しながら声を挙げる。名刺を受け取った須藤涼風の顔色は白くなる。

「倉崎和仁警察庁長官官房室長」

「驚いただろう。君は警察組織のキャリア組として警察組織の威厳を守ろうとしているね。だから警察組織上層部の言うことは聞かなければならないという指名がある。俺からの頼みと聞けば断れないだろう。何か不都合なことがあれば、俺が責任を負う。有安虎太郎を捜査協力者として招き入れることを依頼する」

「警察組織上層部の言うことは絶対。分かった。でも私は素人探偵が捜査に加わることは認めないからね。三浦巡査部長。彼が捜査を妨害しないか見張りなさい。私は別の刑事と組む」


 須藤涼風は腹を立て、倉崎優香の病室から立ち去る。彼女の後姿を見ながら三浦は違和感を覚えた。須藤涼風は素人探偵と聞いた直後から口調が変わった。なぜ彼女の口調が変わったのか。三浦には理解できなかった。

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