2、部室暮らし
部室ってのはいいもんだ。
(途中で説明を諦めました。フィーリングだけでも伝われ!)
2、部室暮らし
その日、先輩は一人暮らし用の白い電子ジャーを買った。
僕としては、ぼろぼろに使い古された中古の電子ジャーが片手で抱えられるサイズで大いに助かった。それにしても中古の電子ジャーってけっこう安いもんだな。新品のゲームソフト一本の半額より安いなんて……まあ、出費が抑えられて何よりだけど。
「りょうちゃん。お金はいつか絶対返すからね」
「早いうちに返してくださいよ。先輩のことだからコロッと忘れちゃいそうですし」
「忘れないよー! 私は義理堅い女だよ!」
ユカさんは机を叩きながら抗議の声を上げた。
リサイクルショップを後にした僕たちはそのまま学校の部室に向かった。もちろん、買ってきた電子ジャーを置くためだ。その道の途中でちょっとスーパーに寄って米やらカップ麺やらを買い込んでおいたおかげで僕の負担がさらに増えた。最初からこうなると分かっていたなら自転車に乗ってきて、荷物は全部そっちに乗せて運べたというのに……。とにかく、学校までたどり着いた僕たちは寄り道せずにそそくさとジャーナリズム研究部の部室に入った。
というわけで僕たちは今部室にいる。
部室はあまり広くないが、二人でくつろぐには丁度いい。部屋の中央にデン!と向い合せに置かれたシステムデスクと、壁を埋めるように並べられた棚を除けば、他に家具らしい家具もない。システムデスクの向こうから、先輩が声をかけてきた。
「それにしても、りょうちゃん呼んで正解だったわ」
「はぁ。まあ、どういたしまして」
若干ふてくされ気味にお礼を返す。
ユカさんが他人にお礼を言うなんて珍しいことだ。もっとちゃんと聞いておいたほうがいいのかも知れないけど、今日はもう疲れた。ここで一休みしたらさっさと家に帰って非現実の世界にダイヴしたい。
椅子に座った状態で机の上に突っ伏したまま、僕は尋ねた。
「先輩はこの部屋のどこで寝るんですか?」
ぱっと見たところ、この部屋にベッド代わりになるようなものはなさそうだ。しかし部室に泊まっているということはこの部屋のどこかで眠っているはずだ。そう考えていたら、先輩は近くの棚をガサゴソ漁ってから、薄っぺらい何かを取り出した。
「じゃーんじゃじゃーん! ほらこれ!」
「レジャーシートですか」
「そうそう。これを床に敷いて寝るんだよ」
先輩は得意げにレジャーシートを見せびらかしてきたが、あまり良さそうに思えない。
部室の床はコンクリートだからごつごつで硬いし、どんどん熱を吸収していく。今が夏だから冷たさは気にならないかも知れないが、硬さのほうは我慢するしかない。サバイバルに憧れる男子ならいざ知らず、ユカさんは僕と同じくインドア派の、しかも女子なのだ。
ちょっと考えてから僕は言った。
「今度、寝袋を持ってきます」
「へぇー。りょうちゃん寝袋なんて持ってるんだ!」
「父親の趣味がキャンプなんで、いちおう自分の分も支給されておりまして。どうせ普段は僕も必要ありませんし、使ってやってください。それよりよっぽど寝やすいはずです」
「むっ! このレジャーシートだって捨てたもんじゃないんだよ!」
「はいはい……」
目の前にレジャーシートを突き付けてくる先輩に辟易しつつ僕はさらに考えを進めた。
衣食住のうち、食、住はなんとかなりそうだ。
とすれば残りは「衣」だけど……見たところユカさんはファッションセンスはないものの清潔そうな身なりをしている。三日前から学校に泊まっていて、コレなら「衣」のほうも何とかなっているのだろう。
「風呂と洗濯はどうしているんですか?」
「水回りのことは体育会系のおかげで大丈夫だよ。シャワールームもあるし、本当はゼッケンとか洗うための洗濯機だって使えるしね。いやー、ほんと。ウチの学校が設備充実してて助かるわ」
まあ、こんなものか。
食材を買う資金が底を尽きるころにはユカさんも根を上げているだろう。せいぜい一週間も続かない家出生活にしてはむしろ充実しすぎているような気もする。
「あ。そうそう。りょうちゃん、私ライトが欲しい!」
「え? ライトって懐中電灯ですか?」
「うん。それとできれば暗幕も。いやー。だってさ。夜の六時には消灯しなきゃいけないんだよ? そのせいで最近は六時寝五時起きの老人生活を満喫しちゃっているんだよ? 朝日とともに起きて、目覚めスッキリなんだよ?」
なるほど。
確かに部室の消灯時間は早い。部活動をやっている生徒たちの下校時間までには明かりを消さないと不審に思われてしまう。ということは、だいたい六時前くらい。若者が寝に入る時間ではないな……。
そこまで考えて、ふと疑問が浮かんだ。
「あの、先輩。夜中に何やるつもりですか?」
「えーっと……本読んだり、宿題やったりするつもりだけど」
「それって朝でもできますよね」
「うん。というか、最近は朝ヒマだからそのときにやってるよ――って、あ!」
ユカさんは僕の考えに思い当ったらしく、口に手を当てた。
そうなのだ。
そもそも危険を冒してまで夜やることは何もない。強いて言えば、夜中にトイレに行きたくなったときくらいしか、懐中電灯の出番はないだろう。そして、そんな事態はできるだけ避けてほしい。つまりさっさと寝て、朝早く起きろ。そういうことだ。
「いいじゃないですか。老人生活。健康そうで」
「うぅー。たしかに健康的だけどさー。私はぴっちぴちの女子高生なんだよ?」
「それ、自分で言っちゃうんですか……」
その日はこんな調子で部室でウダウダしていたら、先輩の『消灯時間』の一時間前になってしまい、先輩のシャワーやらメシやらの都合もあるため、僕は早々に部室から出ていくことになった。
そろそろ「ダイスと踊れ」に戻ります。
いやー、でも。
「先輩と夏」を書くのは楽しい!!
好き勝手できるから!!
しかし考えてみれば、
本来制約の少ないファンタジー小説よりも、
ばりばり制約だらけの現代学園もののほうが自由だと感じるのも変ですね。
次回の更新は未定。
きっとそのうち。またいつか。