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【新しい章のはじまり】『3 街の風景がもたらした様々な出来事』

 本日のサブタイトル通り、この50話から新しい章がはじまります。

『ふくしき七回シネマ館 3』で新規登録した方が、気分転換になるかもしれない。

 書き手としては、そんな気持ちもありますが、これまで読み続けて頂いた方々に迷惑をかけそうな気がします。

 ということで、このまま続けます。今後ともよろしくお願い致します。


南まさき












  【ふくしき七回シネマ館 3 街の風景がもたらした様々な出来事】


 『街の風景』


 実に十数年ぶりの映像編集。

 操作や手順を忘れているかもしれない、という不安があったが、体が覚えていた。

 マウスと、キーボードを操作しながら、思わず笑みがこぼれた。

 どうやら二年間支払った高い授業料は、無駄ではなかったらしい。

 しかし、そこで姿勢を正して心を引き締めた。

 これが最後の編集になるかもしれない。

 そんな気がしたからだ。だったら、あの頃と同じ気持ちで取り組もう。

 携帯を取り出した僕は、待ち受け画面に置いてあるカウントダウンタイマーのアイコンもクリックした。そして、しばらく液晶画面を眺めてから、設定時間を決めた。

 30分以内に、3分程度の作品を仕上げる。これは、僕とPの取り決めの中では、最高難度の作業だった。

 でもその取り決めには、猶予的な部分もある。

 タイムライン上に並んだ映像の入れ替えをしなければ、最初から最後まで何回見ても構わないというのが、それだ。

 でも、今回は、それはやりたくなかった。自分で決めた時間内に出来た作品が、そのときの自分の実力。他人が見ていようが、いまいが、時間内に終わらせる。

 パソコンを立ち上げる前から、そう決めていた。

 先ほど、4倍速で見ながら、どの映像をどこで使うか、頭の中で編集しておいたのだ。

 後は、自分の中のイメージと、出来上がったものを、どうすり合わせるかだ。

よっぽど気合いが入っていたのだろう。記録的なスピードで、仕上がった。出来上がった作品を二回見終えたところで、30分を知らせるアラームが鳴った。


 38分の映像が、2分48秒に凝縮された映像の中身を、ざっと紹介すると、こうなる。

 まず、タイトル『街の風景』の文字が浮かび上がる。そしてそれが消えた後「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」のイントロとともに、フェードインするのは、神社で見かける白い()(へい)。やわらかな春の風に揺れている。

 しばらくすると、カメラはゆっくりズーム・アウト。

 次第に小さくなる御幣。画面には徐々に、石造りの(ほこら)と、稲荷さんの狐像が現れる。 赤い前掛けの二匹の狐が、画面の両端にバランスよくおさまったところで、カメラの動きは止まる。

 次のカット。片側二車線の通りをはさんだ向かい側からのロングショット。

 祠がどこにあるかが分かる。

 低い植え込みで囲まれた、一間にも満たない朱塗りの鳥居があるのは、都市銀行のビルの前。

 カメラは、そこから静かに左にパン。

 アーケードに面した店先をなめるように進むと、路面電車の軌道とビル街が現れる。

 歩道の植え込みには赤白黄のポピー。交差点のロータリを中央に捉えたあたりで、カメラの動きは止まる。

 その後カメラは交差点付近の風景を、次々に切り撮っていく。

 撮影場所を変え、アングルを変え、サイズを変え、ズーム・イン。ズーム・アウト。フィックスを織り交ぜながら。

信号待ちの車の窓に映る太陽。

 宝くじ売り場に並ぶ、無表情な人の列。

 乳母車を押す若い母親。

 アスファルトの上で、忙しそうに何かをついばむ二匹の鳩。

 バスに乗り込む幼子の赤い靴。

 地面に置いたカメラの前を横切る車の排気管。

 横断歩道の真ん中に取り残された、年老いた二人連れ。等々。

 現場音は、すべてオフ。感情を押さえたミック、ジャガーのボーカルに合わせて、場面は静かに切り替わる。

 DVDのタイトルは単純に『街の風景』とした。編集中にいろいろ考えてみたが、結局、内容そのままのタイトルに落ちついた。

翌日、森伊蔵と一緒に、そのDVDを発送した。


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