Pの意外な一面
「ミスダツの指摘通り、俺たちの目は節穴だな」とPが自嘲気味に言った。「どうして、こんなにはっきりしているものを見逃していたんだろう。あんなに何回も見たのに」
「ほんとだよな」
僕は自分の頭を、指先でコツンと叩いた。
正面の陳列棚の左右に、大きな取っ手が付いていた。棚と床の間には、数センチの隙間があり、キャスターの頭が見えていた。部屋に入って、一番先に気づかなければならないことなのかもしれない。
スリッパの音と共に、ミスダツが戻ってきた。見ると、胸に小型の手提げ金庫を抱いていた。
僕とPは、思わず顔を見合わせた。
Pが何か言おうとする前に、ミスダツが言った。
「まだ突っ立っているのか? 難しいことは何もない。その取っ手を引くだけでいいんだ」
「はいはい」
面倒くさそうな声で言ったPは、小さくあごをしゃくって「お前は、あっち」と言った。
言われたとおりにすると、陳列台の後ろから埋め込み型のスピーカーが現れた。一番大きなスピーカーは、40センチはありそうだった。
「ほー、こりゃすげぇ」
Pがため息をついたところをみると、相当高価なスピーカーシステムらしい。
「ここは、ホームシアターとして使っていたんだけど、プロジェクターが壊れてからは、オーディオルーム」
ミスダツは、そう言いながら腰を下ろした。
「あのさ」Pが不思議そうな顔をしながら質問した。「あんたの大事な映画ってやつは、その中に入っているわけ?」
「ああ、そうだよ」ミスダツは、愛しいものを撫でるように、手提げ金庫の上に手を置いた。「いつも枕元に置いて寝ているよ」
「あらら」Pがからかうような声で言った。「じゃあ、あれかい。直下型地震が来たら、それを抱えて家を飛び出すわけ?」
Pと同じことを考えていた僕は、反射的に何回かうなずいた。
「おいおい」ミスダツが笑いながら、僕たちを見た。「お前たちの頭は、ずいぶん固いみたいだな」
「どういう意味?」Pは横目で、ミスダツを見た。
「いやな」ミスダツは真顔になった。そしてPに顔を向けた。「特にお前だ。お前は映像に関しては俺をはるかに超えている。だがよ。他のことになると、まだまだガキ。どうしようもないほどの青ガキ」
Pがこんなことを言われたところを見たことは、一度もなかった。
僕はそっとPの横顔に目をやった。
「確かにそうかもしれない」意外なことに、彼は戸惑ったような表情を浮かべた。そして指先で、自分の額を掻いた。「自分でも、ときどきそう思う」