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サービス問題?

 でも、喋るのはミスダツ一人。

 僕とPは、用意してあった飲み物とつまみ類を口に放り込みながら、相づちを打つだけ。

 話の内容は、何度か聞いたことがあるものがほとんどだった。

 ミスダツは、自分が感銘を受けた映画を何作か取り上げた後、こんな話をした。

 どんな名作映画より、それが出来上がるまでのエピソードの方が、はるかに面白い。

 ビデオ撮影と映画の撮影は、まったくの別物。二つを同レベルで語ることは、映画を冒とくすること。自分の無能さをさらけ出すこと。

 百聞は一見にしかず。これはある意味正しい。だが、映像は、単純な音に負けることが多々ある。等々。

 ある意味、講義の延長。

 しかし、少し暗めの照明。よどみなく流れるいつもより低い声。目を閉じると、目の前に別の人間がいるような感じ。聞き慣れた話が、新鮮なものに聞こえた。

 いつもは、何かにつけて茶々を入れるP。だがその彼も、何も言わずに聞いていた。

 こんなミスダツも、いいな。

 そんなことを頭の隅で考えていると、突然話が止まった。

 予期せぬ時に、急ブレーキを踏まれたような気分。あやうく柿の種を、飲み込むところだった。

「なんだよ、おい」言ったのは、ミスダツ本人。「気持ちが悪いじゃないか。お前たち何か企んでいるのか?」

「いや」座椅子にもたれていたPが、体を起こした。「こんな、あんたもいいな、って思いながら聞いていたんだ」

 僕とPは、よく似ている。

 そんなことを、何人かに言われたことがある。だが、僕たちは、互いにそれを否定した。

 しかし、そのときだけは、そうかもしれないと思った。

「実を言うと僕も、そう思っていました」

 と僕が続けると、ビールで赤く染まったミスダツの顔が、さらに赤くなった。

「ほらな。二人同時というのが、どうもあやしい。でも、ここは、ありがたく受け取ってやるよ」

 ミスダツは照れたような声で言うと、キッチンに消えた。そしてしばらくすると、コーヒーカップが三つのった盆を持って戻ってきた。

 たちまち部屋を満たすコーヒーの香り。

「キリマンジャロ」

 嬉しそうな声で、ミスダツはカップを置いた。

 時計を見ると、午前零時を少し回ったところ。

 僕たちはその日、朝まで語り明かそうという約束になっていた。

 たぶん眠気覚まし。

 そう思ったが、それだけではなかった。

「俺にとって、一番大切な映画は何だか分かるか?」

「あのさ」両手を広げて生あくびをしていたPが、力が抜けたような声で言った。「こんなサービス問題のどこが面白いんだ」

 自分の父親と大して違わないミスダツに、友達口調で言って立ち上がるP。

「おやま、えらい自信じゃないか」ミスダツがニヤリと笑った。「でもな、絶対に当たらない」

 断定的な言葉に、Pが反応した。

「あら、そう」Pは挑戦的な目で、ミスダツを見た。もちろん怒ってはいない。「じゃあ、当ててやるよ。でもその前に、トイレ」


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