小さな偶然の繋がり
日本人の平均寿命の三分の一程度しか生きていない僕が、こんなことを言うのもなんだが、人生というものは、小さな偶然の繋がりによって、形づくられていくのだと思う。
僕の人生は、幻の焼酎『森伊蔵』を手に入れたことから、変わっていった。
しかし、後から考えてみると、そこに至るまでには、他にも色んな偶然が重なっていたことがよく分かる。
あの日、おばちゃんの車がパンクしていなければ。
家の近くでおばちゃんと出会っていなければ。
おばちゃんの誘いを断っていたら。
おばちゃんの目の前で、森伊蔵に電話していなければ。
おばちゃんの旦那さんが、僕が落としたDVDを拾っていなかったら。
そのおじさんが、レンタルDVDのタイトルを見ていなければ。
おじさんが昭和残侠伝の話をもちださなかったら。
森伊蔵だけをPに送っていたら。
僕が撮影編集したDVD『街の風景』を、Pの会社の会長が見なかったら。
ざっと上げただけでも、これだけの偶然がある。
その中の一つでも欠けていたら、絶対に僕は東京に招待されなかった。
当然、帰りの飛行機の中で、あの現象が起きることも、こうやって『ふくしき七回シネマ館』という、長々とした物語を書くこともなかった。
「なんで、あの映画を借りたんや」
と、おじさんが言ったのは、おでんを一通り食べ終わり、三種類の漬け物が出てきた頃だった。
昭和残侠伝は今から五十年ほど前の映画。たぶん、僕の年齢と映画が結びつかなかったから不思議に思ったのだろう。
「それはですね」
と言ったところで、迷った。
勝手に手が伸びたんです。
そのとき耳の奥で、聞き覚えのある声が聞こえました。
「俺を思い出したければ、これを見てくれ」
講師の声に似ていました。
と、正直に答えてもいいが、変人扱いされる恐れがある。最初に与えたイメージは、なかなか消えない。
当たり障りのない言葉がないか探していると、どういうわけか、僕の口が勝手に動いた。
「今回の場合、亡き人を、弔うためです」
言った後から、自分で驚いた。
それは、十年ほど前、ミスダツが、僕とPに言った言葉だった。




