表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/106

キーワードは昭和残侠伝

 携帯電話の音で目が覚めた。

 普段僕は、液晶画面で相手の電話番号を確認してから電話に出る。

 でも、その日はそのまま通話ボタンを押した。

 まだ目が覚めきっていなかった。着信音で電話帳に登録してある相手からの電話だと分かった。その二つの理由からだ。

「失礼ですが、○○様でしょうか?」

 どこかで聞いたような声だった。しかし、人材派遣会社の女の子ではなかった。

「あ、はい」

 僕は、携帯を耳に押し当てたまま体を起こした。

「こんな朝早くから申し訳ありません。私は」

 意外なことに、TSUTAYAからだった。

 本当ならこの時点で『昭和残侠伝』のDVDに関する電話だということに気づかなければならないところだ。だが、以前も言った通り、その件は僕の記憶からこぼれ落ちていた。

「TSUTAYAさん?」

 わけが分からないまま時刻を確認すると、午前7時を少し回ったところだった。常識的に言えば、たしかに申し訳ない時間帯だ。

「どうしたんですか、こんな時間に」

 自分では不機嫌な声を出したつもりはなかった。でも、起きたばかりの声は、そんなふうに聞こえたのかもしれない。

 少し間があって、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

「すぐ連絡を差し上げるようにと言われていたんですが、つい忘れてしまって……」

 口調からすると、僕に何か落ち度があっての電話ではなさそうだ。でも、どうしてこんな朝早く、TSUTAYAから電話が来るんだ。

「だれかと間違えているんじゃないですか。今は何も借りていません。調べてもらえば分かるはずです」

「おっしゃるとおりです。現時点ではゼロになっております」そこで言葉を切った彼女は、納得がいかないというような口調でつづけた。「と言うことは、他のスタッフから連絡があったということでしょうか?」

「いいえ、先日別の件で携帯履歴を調べたんですが、お宅からの電話は一件もありませんでした」と言ってから、僕は「結局、今朝の用件は何なんですか?」と言った。

「あ、失礼しました」彼女はあわてたような声で言った。「貸し出したその日のうちに、昭和残侠伝が、戻ってきたことをお知らせするためです」

 昭和残侠伝。

 その言葉を耳にしたとたん、頭の中で、パチンという小さな音がした。

 目の前で火の玉が弾け、七色の火花が散った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ