表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/106

聞いて驚く意外な事実

 お婆さんの家に着いたのは、それから十五分ぐらい後だった。

「一体、どこまでいくつもりなんだい」

 門の前で待っていたお婆さんが大声で止めなければ、たぶん通り過ぎていただろう。

 どの順番で話をすればいいか、考えながら走っていた僕は、あわててブレーキをかけた。

「お久しぶりです」

 ヘルメットを脱いで挨拶をすると、お婆さんは嬉しそうに笑った。

「まさか、こんなに早く再開できるとは思っていなかったよ」それから真顔になって言った。「大体の話は、あの子から聞いたよ。あたしにできることがあれば、何でも協力するからね」

「ありがとうございます」

 と言って頭を上げた僕は、お婆さんの後ろの風景が変わっていることに気づいた。だが、あまりにも変化が大きすぎた。僕は目眩のようなものを感じながら、

「つかぬ事を、お聞きしますが……」

 と言った。

「なんだい、その他人行儀な言い方は」家に向かって歩き出したお婆さんは、笑いながら振り向いた。「遠慮しなくてもいいんだよ。あたしと、あんたの仲じゃないか。何でも言いな」

 実にありがたい言葉。

 だがこれを言うと、さすがのお婆さんも僕を敬遠するようになる。しかし、今日の目的は自分の記憶の間違いを正すため。僕は思ったことを口にすることにした。

「いつ建て替えられたんですか?」

 案の定、お婆さんの表情が、さっと変わった。

「どういう意味なんだい?」

 眉間にしわを寄せて、首を傾げた顔だけで十分だった。

 このまま病院に直行した方がいい。

 だが、今は話の途中。逃げ出すわけにはいかない。お婆さんによけいな心配をかけることになる。思い切ってつづけた。

「この前来たときは、わらぶき家でしたよね、二軒とも……」

「わらぶき家? 二軒とも?」

 お婆さんは、しばらく困ったような表情を浮かべていたが、思い直したように、にっこり笑った。そして優しい声で「続きは、家の中で聞いてあげるよ」と言った。


 少しくらいの記憶違いはあるだろう、そう思っていた。

 だが、とんでもなかった。

 僕の記憶に残っているほとんどのものが、現実と大きくかけ離れていた。

 超ハイテクわらぶき家は、この世に存在していなかった。

 もちろん、隣の流通倉庫も、世界に一台しかない水平移動ができるエレベータも、そうだった。

 お婆さんの家は、ソーラーシステム付きの最新式の住宅。色とりどりの花が植えられた広い敷地の中に、ぽつんと建っていた。

 しかし、記憶と合致するような状況がいくつかあった。

 洋間の大きなモニターテレビには、BGM的映像が流れていた。分厚い一枚板のテーブル、すわり心地のいい椅子。それは僕の記憶とまったく同じものだった。

 それと、パソピアという通販会社はなかったが、お婆さんがその話をしたのは本当だった。

 パソピアのシステムは、お婆さんの末娘がピザ宅配の遅れから実際に思いついたアイデア。でもそれが原因で、末娘は、長年勤めていた家電量販店を辞めた。その話を聞いた上司や会社役員に、そんなシステムで経営が成り立つはずがない。バカじゃないか、と笑い飛ばされたのが原因らしい。


【超ハイテクわらぶき家】から【13秒の遅れが生み出したもの】 あたりまで話し終えたところで、お婆さんが言った。

「何も、心配はいらないよ」

 あまりにも自信たっぷりの声に、逆に心配になった。

「気休めなら結構です。覚悟はできています。切りのいいところで話をやめて、病院に行こうと決めていましたから」

「おや、そうかい。だったら、あたしの話を聞いてからでも遅くはないんじゃないかい」

 言われてみれば、たしかにそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ