表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/106

私の城下町

 もちろん僕としても、そのつもりだった。

「相談に乗ってくれるのか、サンキュー」

 礼を言ったところで、以前Pが、いつも夜中近くまで仕事をしているんだ、と言ったことを思い出した。

「時間の方はいいのか?」

「ああ、大丈夫」いつもながら彼の返事は早い。「バッテリーは満タン。ここはカフェテラス。他人に迷惑をかけることもない」

 だったら、順を追ってすべて話そう。

「でも、今日の話はけっこう複雑なんだ。それでもいいんだな?」

 と念を押すと、Pはからかうような口調で言った。

「お前の相談話は、昔からぐじゃぐじゃだったよな。と言うことは、さらにひどい方にバージョンアップしたってことだな」

 僕は笑いながら答えた。

「否定できないところが、実にかなしい」

Pに言わせると、自分のことを相談するときだけ、僕の話しぶりがおかしくなるらしい。

 Pはよく言っていた。

 かねては、どうもないんだ。俺たちは、どんなときでもポンポンポンと、調子よく会話ができる。でもな、不思議なことにその手の話になると、お前は途端に別人になってしまうんだ。話の前後が繋がらない。尻切れトンボ。あっちこっち虫食い状態。

 Pはそれを、自分の頭の中で分解し、要らないものを排除してから、組み立て直すのだと言っていた。

 話を聞き終えると、Pはこんなふうに言う。

「つまり、お前の言いたいことは、こういうことなんだな」

 ほとんどの場合、そのとおりだった。

「そう、そういうわけなんだ。で、どうすればいいと思う?」

 Pはしばらく間を置いてから、二つの意見を言う。

「俺だったら、こうする」と「俺は絶対に、こんなふうにはしない」

 Pが、こうすると言う事例は、僕には到底無理なことが多かったし、彼が絶対にしないという事例は、僕も絶対にしないことだった。

 当然僕は、こう返す。

「で、俺はどうすればいいと思う?」

 だが、その質問は無視される。

「そうだなあ」

 しばらくしてから、Pはいくつかの選択肢を口にする。そして「後は、お前次第だな」と付けくわえる。

 が、僕はそのどれも選ばない。でも、自分なりに考えて答を出すわけではない。相談をするだけで実行はしない。と言うのが、今までの相談パターンだった。


「話はたしかに込み入っている。でも、こんなこともあるだろうと思ったから、昨日まとめておいたんだ。もし、途中で分からないことがあったら、遠慮なく言ってくれ」

 と言ってから話を進めた。

「三日続けて、同じ夢をみたことがあるか?」

「いや、聞いたこともない」

「実を言うと、二人の女の子と知り合うきっかけは、三日続きの夢だったんだ。この夢には何か理由がある。そう思った。もし、夢の検証に出かけていなければ、絶対に彼女たちとは出会っていない」

「まさしく、夢見たいな話だな」

 Pはときどき短い言葉を挟んだ。

 今彼がいるのは、昔二人でよく行ったカフェテラスらしい。店の前は片側三車線の幹線道路。一日を通じて交通量も多い。にも関わらず、僕の携帯から都会のざわめきは聞こえてこない。携帯を耳に押し当てて、僕の話を聞いている証拠だろう。

「質問があるんだけど」

 Pが話を遮ったのは【相性の悪い自動販売機】から【美しすぎる郷土史家】に移ってしばらくした頃だった。

「その女の子だけどよ」とPは言った。

 当然、彼女の容姿か、顔についての質問だと思った。

「それがな、女優にも、アイドルにもいないタイプの女の子なんだ。どう言えばいいんだろう……」

 続きの言葉を探す僕に、Pは言った。

「そんなことはどうでもいいんだ。確認したいのは、その子が本当に、その辺りはむかし門前町として栄えた場所だと言ったか、どうかなんだ」

 意外な質問だった。

「どうしてそんなことを訊くんだ。俺が知りたいのは、郷土の歴史に興味がある女の子と付き合う方法なんだぞ……」

 と言うと、Pは自信たっぷりな声で言った。

「たぶん、お前の聞き間違えだよ。彼女は門前町とは言っていない。お前がそう思っただけ」

「そんなことはない。そのあと会ったお婆さんとも、その話をした。間違いない」

「お前の言うとおりだとすると」Pは、そこでちいさなため息をついた。「二人してお前を騙そうとしているか、からかっただけだろうよ」

「なあ、おい」僕は耳から離した受話器に向かって、大声で言った。「ヤキモチ焼いてんのか」

「バカなこと言うなよ」Pは余裕のある声で言った。「お前にヤキモチ焼いてどうするんだ」

 何か言おうとしたが、言葉が出てこなかった。

「なあ、教えてくれ」Pは次の質問をした。「そのコンビニは、市内の中心部からどれくらい離れているんだ」

「そうだな、30キロぐらいかな」

「もし、その女の子の言うことが本当だとすると、全国の教科書が間違っていることになるぞ」

 Pが何を言いたいのか分かったのは、そのあとの言葉だった。

「薩摩七十七万石という焼酎は、お前の田舎の焼酎だろう。たしか、鹿児島は城下町として栄えたはずだそ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ