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乗り気になったP

 Pとは映像学校で二年間一緒だった。

 二年という月日の流れを、長いとみるか、短いとみるかは、人によって意見が分かれるところだろう。

 僕にとって(たぶん、Pにとっても)その二年間は、何十年にも匹敵するほどのものだった。

 学科も一緒。二人とも寮生活。部屋は向かい合わせ。寝るときだけ別々。ほとんどどちらかの部屋にいた。休みの日も含めて、朝から晩まで行動を共にした。

 たまにケンカもしたが、他人から見れば、じゃれ合いにしか見えなかったかもしれない。

 でも僕たちは、あらゆる点において対照的だった。

 顔も、姿形も、性格も、真逆に近かった。

 Pは東京生まれの東京育ち。彼をカタカナ四文字で表すと、イケメン。

 街を歩いていたとき、通りすがりの女の子たちが寄ってきて「あの○○さんですよね」と、超人気男性アイドルの名前を上げたことが何回もあった。

 もちろんPは、本当のことを言った。でも僕は、その言い方にいつもはらはらしていた。

「どこを見て、そんなこと言ってんだよ。頭おかしいんじゃないの、あんたたち」

 いくら女の子の勘違いとはいえ、そんな言葉づかいはないだろう。相手によっては、面倒なことになるぞ。

 何度となく忠告したが、Pは全然取り合わなかった。

「大丈夫、心配するな。ヤバい相手かどうかは一目で分かるんだ」

 彼の言った通りだった。僕が知る限りにおいて、Pの態度に怒ったり悲しんだりする女の子は一人もいなかった。


「お前に言わせれば、大した女の子じゃないかもしれないけどな」僕は反応のない受話器に向かって言った。「俺から見ると、本当に、超売れっ子モデルに見えるんだ」

 しばらく間があってPの声がした。

「確認したいことがあるんだけど、いいか?」

 彼が何を訊きたいのか分かった。でも僕は「なんだい、その質問ってやつは」と言った。「そのふたりは、キャッチセールスのお姉ちゃんじゃないよな」

 思っていたとおりのセリフに思わず笑った。

「友達に、その手のオンナに引っかかって、えらい目にあった奴が一人いたけど、俺の場合は大丈夫。ふたりとも身元ははっきりしている」

 クックックッ、Pは笑いながら言った。

「お前は、俺の失敗からずいぶん多くのものを学んだようだな。授業料を請求してもいいか?」

「もちろんだよ。俺も払うつもりでいるんだ。でも、なかなか宝くじが当たらないんだ。もうしばらく待っててくれ」

 そんなどうでもいいような話を十分ほどしてから、僕は話を戻した。

「ひとりはコンビニでアルバイトしている子。もうひとりは事務員」

 すべてを話すと、ややこしくなりそうだったので、それだけ言った。

「年は?」

「たぶん、ふたりとも、俺より十歳くらい若い」

「性格は?」

「たぶん、コンビニが、おしとやか。事務員は積極的……かな」

 と言ったところで、Pは黙り込んだ。そしてしばらくしてから、

「すると、あれか」と言った。「まだ相手のことを何も知らないってことか?」

「ああ、そのとおり」

「おいおい」Pはすこし呆れたような声で言った。「例によって、お前の勘違い、早とちり、ってやつか」

 たぶんそのことを言われると思った。僕は二回ほど、その手の失敗をしたことがある。

「いや」僕は即座に否定した。「今回は間違いなく、相手からはっきりした意思表示があったんだ」

「あら、ま、相手方からでございますか」Pはわざとらしい声で言った。「すごいじゃありませんか」

 それから彼は、いつもの口調で言った。

「だったら、その二人と出会った時点から話を聞かせろよ」


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