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多々木さんの、肩たたき器  作者: 大原英一
第二話 吉祥寺事件
9/20

前編

 およそ探偵と名のつく人間を敵に回すべきではない。多々木さんのような男と付き合っていると、つくづくそう思う。

 あ、付き合っているというのは、そういう意味じゃない。一緒に仕事をしているという意味だ。

 探偵というヤツは、とにかく記憶力があって話術が巧みだ。うっかりこちらが知らない、だが多々木さんの知っていることを口走れば、たちまち煙に巻かれてしまう。

 先日、こんなことがあった……。


「社長、聞いてくださいよー。昨日超イヤなもの、見ちゃったんですよー」

「なに、幽霊がTバックでも穿いていたか」

「……ギルティ」

 はい、出ましたギルティ。これは多々木さんが限りなくセクハラに近いことを言ったときに、若林さんが発動させるペナルティーのようなものだ。このギルティが貯まると、多々木さんは彼女におごらないと、いけない。

「はいはい。で、なにを見たの」

 多々木さんが促した。

「昨日の夜、吉祥寺で友だちと飲んで、そのあとラーメンを食べたんです」

 若林さんは話をつづけた。

「で、食べ終わってお店を出たところで、もの凄い大声がしたんです。なにかと思って見たら、通りの向こうで男の人が、お婆さんに怒鳴っているんですよー」


「ふむ。通りって、南口の大通り?」

 その大通りならオレも知っていた。たしかラーメン屋が四、五件あったと思う。

「そうです。ああいうの、激昂っていうんですかね。男の人は、意味のあることをまったく言っていなくて……」

「酔っ払いかな」

 多々木さんが言うと、彼女は首を傾げた。

「そういう感じでもないんですよねー。あきらかにお婆さんに非があって、それを責め立てている感じ……ああん!? ああん!? って何回も怒鳴っていましたからね」


「うーん」と多々木さん。「それはちょっと、気になるね」

「でしょー?」若林さんは目を輝かせた。「だいたい、夜の一〇時ごろに、お婆さんが独りで出歩いているっていうのも、ちょっとヘンじゃないですか。まあ有り得ないことは、ないですけど」

 さらに彼女は続けた。

「男の人とお婆さんが、どういう経緯で揉めたかはわからないけど、ちょっと尋常じゃないくらい怒っていましたからね、その男の人。まさか道でぶつかったくらいで、大の大人があそこまで怒らないだろうし」

 多々木さんが興味ありげに訊く。

「で、正義感の強い我らがワカメっ毛は、当然お婆さんを助けたんだよね?」

「それが、」彼女は照れ笑いした。「ちょうどバスが来たもので……」


「見捨てたんだ」

「大通りの向こうだったし……」

「見捨てたんだ」多々木さんは執拗に言った。

「こっちもお酒が入ってたし……」

「もういいって」


 すると多々木さんは腕を組み瞑想をはじめた。おい、ちょっと待て。これは彼が本気モードで推理するときの仕草だぞ。オレと若林さんは、思わず顔を見合わせた。

「いまはまだ、なんとも言えない。ま、そのうち」

 彼は目を開けてそう言った。

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