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多々木さんの、肩たたき器  作者: 大原英一
第一話 肩ならし的な事件
7/20

オレ流、てかボク流

7 2013/10/04


 呆気にとられたオレは、思わず訊き返した。

「居場所を教えるって……クライモリを捜すってことですか。なにかアテでも?」

「アテなんてない。与えられた条件しか」多々木さんは、しれっと言った。「ブログだ。手がかりは、それしかない」


「マジですか」オレは頭を抱えた。「ブログには、個人を特定するような情報は載っていませんでしたよ?」


「あのね、そんなものが載っていたら、誰も探偵にお金を払ったりしないよ」

 多々木さんはちょっと困ったような顔をした。

「まあいいや、今日は初日だし、ボクの流儀を見せてあげよう。あ、ついでに言うと、個人を特定する情報がブログにないというキミの意見は、それはそれで貴重だ。答えが目の前に転がっているのに、わざわざ推理するのはムダだからね」


 推理という言葉を、はじめて彼の口から聞いた。よーし、そこまで言うなら、見せてもらおうじゃねーの。

「わかりました。ブログは穴が開くほど読みましたから、なんでも訊いてください」

 オレが言うと、多々木さんはニヤリとした。


「じゃあ、まずボクの知っている情報から提示しよう。依頼人はさっき言ったとおり、某教団のX氏だ。彼はクライモリという人物がブログで教団の悪口を言っていることに、ひどく閉口している。それで、クライモリの居場所をボクに教えてほしいと言ってきた。ボクはクライモリという人物のことをなにも知らないし、彼のブログもまだ読んでいない。あ、まだ彼と言っちゃマズいか。彼女かもしれない」


「男で合ってますよ。小説のなかでは、たまに女になったりしますけど」

「そりゃ素晴らしい」

 多々木さんはティーカップに口をつけて言った。


「本名、不明。性別、たぶん男。年齢、三五歳前後。職業、小説家または無職。精神疾患、有り」

 オレはクライモリのプロフィールをざっと述べた。当人には失礼かもしれないが、オレの率直な意見だ。


「そのプロフィールは、どこから割り出したの?」

 そう訊かれたのでオレは、

「エッセイです」と答えた。

「エッセイ……」

「ブログには二〇〇以上の短編小説が収められています。そのなかに一〇数本、エッセイが含まれています。彼が教団の悪口を言っているのも、エッセイのひとつです」


「なるほど、エッセイを綴っている彼がもっとも素に近い、とキミは判断したわけだ」

 オレは頷いた。

「エッセイまで別人格を演じる必要はないですからね。ほかのジャンルで、変身願望は叶えられているわけだし」

「ほかのジャンルって?」

「いくつか、あるんです。恋愛、推理、ホラーなど。ま、いちばん多いのは文学だけど……いや、恋愛とどっこいかな」


「ふーん」と多々木さん。「ぜんぶ短編なんだ?」

「ええ」オレはちょっと笑った。「これがまた、見事なまでに金太郎飴なんです」

「似ているってこと?」

「似ているっていうか、ほぼ一緒ですね。ジャンルによって多少フレーバーが違うくらいで。まあ、見方によっては斬新とも受けとれます」


 多々木さんはケーキの残りのひと欠片を口に放り込んだ。

「住んでいる場所を特定するような記述は、ないんだっけ」

「そうですね、とりあえず田舎に住んでは、いるみたいです。そういう記述がエッセイでよく出てきますし、ほかの作品からも都会的な匂いは一切しません」


「彼はニート、になるのかな」

「自分の小説はまったく売れていないし、この先も売れる見込みはない、という彼の言葉が正しければ、そうなるでしょうね」

「ブログ、というか小説を書く以外のことを、彼は一切やっていない、と」

「ええ」

 オレは頷いた。そして、エッセイから窺い知れるクライモリの生活の状況を伝えた。国から障害年金をもらっていること。親と同居していること。自営業をしている親を、小バカにしていること。


「自営業、か」

 多々木さんは、ぽつりと呟いた。

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