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多々木さんの、肩たたき器  作者: 大原英一
第一話 肩ならし的な事件
5/20

出前迅速

5 2013/09/30


 ブログは退屈だった。よくあるニートの戯言の類いだ。しかもこのクライモリとかいう人物、自らを小説家と思っているらしいフシがある。収入のない小説家なら、誰でもなれるんですがね。


 なにをイラついているんだオレは。仕事とはいえ、つまらないブログを読まされていることについてか。いや違う。シンプルに腹が立ったのだ、このクライモリとかいう男に。


 オレはニートも自称小説家も嫌いだ。そういった連中は、得てして生きてる世界が小さい。使える金額が小さいからだ。

 収入の多寡によって人の価値がきまるとはオレも思っていない。が、それでも限度がある。クライモリは倹しい生活をしているようだった。親の脛をかじっているのだから当然だろう。それでいて自分の親のことをボロクソに言っている。

 その微妙なバランス感覚が、オレには我慢ならなかった。


 定時の一七時までは、あっという間だった。『クライモリの部屋』は質はさておき、内容だけは盛り沢山だった。

 なにしろ二〇〇を超える短編小説がアップされている。作品を披露するためのブログなのだろう。

 その短編小説がまた金太郎飴のように紋切り型で、単調で超つまらなかった。これらを全部読むなんて、とてもできそうにない。適当に流し読みして、エッセンスだけ抽出しておけばいいだろう。


 だが、なかには面白い作品もあった。それはエッセイと呼ぶべきもので、クライモリ自身の人物像が見えて興味深かった。同時に腹も立ったけれど。


 クライモリは精神を病んでいるらしかった。それが障害と認められ、国から年金をもらっているようだ。それが彼の唯一の収入源だった。

 月に七万円弱の収入で、独り暮らしなどできるわけがない。なので当然彼は親と同居だった。住む場所さえあれば、たとえ食費その他を自分でまかなっていたとしても、なんとかその金額内でやれるだろう。


 タチが悪いのは、いい歳こいて親の世話になっているのに、自営業をしている親のことをボロクソに言っていることだ。あと、なんでか知らないが、某宗教団体のこともボロクソに言っていた。


 何様のつもりだよ、おまえ……と軽くキレそうになったところで、いきなり多々木さんが帰ってきた。定時一〇分前だった。

「おかえりなさい社長」と若林さん。

「うん、予定が早く片づいてね。……ヤマゲン君、どう? 調子は」

 多々木さんはオレを見て言った。さっそくヤマゲンになっていた。


「ひととおり把握しました」

「そう、じゃあさっそく報告してもらおうかな」

「えっ……残業しても、いいんですか」

「もちろん」と多々木さん。「それともなにか予定でも?」

「いえ、大丈夫です」

 残業させたいのか、させたくないのか、よくわからない経営者だなこの人。


「残業させたいのか、させたくないのか、よくわからない経営者だなこの人……って、いま思ったでしょ」

「社長それ、誰でも思いますって」

 ドヤ顔の多々木さんに若林さんが言った。


「ヤマゲン君」

「はい」

「もっとアグレッシヴに、『残業してもいいっすか』って訊いてくれたほうがいい。ダメならダメと言うから」

「あ、はい」

「出前迅速がうちのモットーなんだ」

 出前迅速て……そば屋か中華屋か。


「いたずらに調査期間を延ばして費用を水増しするような探偵業とうちは違うんだ。時代にも合っていないしね。クライアントからは料金を前払いでもらっている。だから、一秒でも早く解決したほうが喜ばれるし、うちだってすぐ次の案件に移れるから得なんだよ」


「……わかりました」そしてオレは訊いた。「で、これは一体どんな案件なんですか」

「どんな案件だと思う」

 またドヤ顔で逆に訊いてきた。面倒くせーこの人! 一秒でも早く解決するんじゃないのかよ。


 だが、たしかにこれは、オレにとっての腕試しという側面もあった。本当に急いでいるなら、多々木さんはもっとちゃっちゃと片づけただろう。

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